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老舗下駄屋・戸部田はきもの店/店主:舩越希代さんインタビュー

所在地:
福岡県福岡市東区箱崎1丁目27-26
最寄駅:
箱崎駅から260m(徒歩 4分)

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  • 業種

    自然・伝統・工芸品・特産品 / 小売・販売

創業95年の老舗。箱崎の地で続く“下駄屋”

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創業95年の老舗。箱崎の地で続く“下駄屋”

戸部田はきもの店は福岡県福岡市東区箱崎。
筥崎宮から徒歩5分程度の場所にある老舗の下駄屋。
 
昔ながらの引き戸を開けると、下駄・草履の台や鼻緒が所狭しと並んでいた。

店の奥から「東京出張を終えたばかりでモノで溢れかえってるけどごめんね」と、気さくな雰囲気で店主の舩越希代さんが迎えてくれた。

戸部田はきもの店は1928年に開業。今年で創業95年の老舗はきもの店。(2023年現在)
歴史を遡ると、黒田藩の国替えの際、船大工だった希代さんのご先祖様が播州(兵庫県)からこの地に連れて来られたのが始まりだそうだ。
 
船大工としての技術があったので、副業的に下駄屋を始めたそう。
戦後、箱崎の地は糟屋郡の中心地としてインフラが集中しており、非常に賑わっていたという。
そんな栄えた土地だったこともあり、下駄屋も繁栄を極めたそうだ。

オンリーワンの“個性”を表現

戸部田はきもの店の商品を見ていると、昔からの伝統的な「下駄・草履」ももちろんあれば、他では見られないような鼻緒との組み合わせの商品も多い。
ここでしか買えない商品について伺うと、

「なるべくお客様の個性が出せるように、色んなものを置いています。みんなオンリーワンのものが欲しいわけだから、組み合わせはなるべく自由にできるようにしています」
 
もちろん、履き心地や鼻緒のすげ方にも希代さんだからこそのこだわりがある。
希代さんの繊細な作業や頼みやすい人柄に惹かれて、多くの方が“下駄を買うならここ”とこの店を訪れる。

「リウマチで足が痛いお客様や、足の大きさが違うのがお悩みで下駄を履くことを躊躇していた方でも、なるべく要望には応えたいから、そういった方にももちろん丁寧に意見を聞きながら鼻緒をすげることはやっています」

中立的な視点で

「着物は作法を気にして敬遠する人も多いけど、こんなにお洒落なアイテムなんだから、好きに着たらいい。文化自体が消えていくよりもその方がいい。私は下駄屋だけど、絶対下駄を履かなきゃとは思っていなくて、ブーツを履いてもいいしサンダルを履いてもいい。私自身が洋服も着物も括りのないところで着たい。単純に、着物を着る機会が増えることで、表現・ファッションの幅が増えるわけだから」
 
「日本人は着物を民族衣装としてずっと着てたわけで、当時は野良着としても着てたから、要は考え方・捉え方かなって思う。洋服はみんなが着るようになってまだ150年ちょっとしか経ってないからね」
 
あらゆる角度から物事を見る、希代さんならではの言葉。
 
そんな希代さんも、年齢を重ねたからこそ見えてきたものがあるという。
 
「60歳を過ぎると、自分じゃコントロールできないことも色々と降りかかってくる。それはそれで真摯に受け止めて対処する。でも同時に、今度はそういう人生の壁にぶち当たっている人を助ける側の年齢なのかなって思うようになって」
 
「それは伝統・文化の分野も含めてね。例えば私が40代で着物を着て『いいじゃんサンダル履いてても』って言うのと、ある程度着物のセオリーを押さえた今の年齢で『なんでも好きに着ていいよ』っていうのでは、聞く人の気持ちも全く違うじゃない」

幸せの身の丈は自分で決める

年齢を重ねることで“幸せ”の価値観も変化してきたという希代さん。
 
「幸せってなんだろうと考えた時に、お金とかではなくって。もちろんお金があって色んな活動ができるわけだけど。私の今の身の丈で、いかに幸せを感じるかというのを大事にしたいなと思って。幸せを感じながら自分自身を見失わないように生きたいなって」
 
常に自分を俯瞰的な視点で見つめ、どちらの道に進むべきか自身に問うている希代さん。
そんな彼女からは“誰かのために”や“期待に応えたい”という言葉がよく出てくる。
 
希代さんは『人との繋がり』に何物にも代えがたい価値を見出しているのだ。
 
「全てがそこなんだよね。結局人との繋がり。やっぱり私と付き合っている人たちが、嫌だとか悲しい思いをなるべくしないようにしたい。だから、自分がお客さんだったらどう思うだろうと考える。そんな私だけど、ちょっと前までは人に甘えるのが絶対に嫌で(苦笑)。でもこの頃はちょっと甘えるのも上手になってきたかな(笑)。出来ないことは出来ないと言っておかないといけないこともたくさん出てきたからね」

伝統を繋ぐ

着物業界や下駄屋業界は全体で見ると衰退の一途を辿っている。
この業界で長く商売を営む希代さんは伝統を守り・繋ぐことをどう考えているのだろうか。
 
「私が持っている技術や繋がりを、オープンに、きちんと次の人に引き渡すことは考えないといけないなと思ってる。誰に引き渡すかはちゃんと見極めるけどね。昔はこの業界もライバルがいっぱい居たから情報を出すにも業界内だけに囲っていたけど、今の時代はそんなことを言っていたらどうしようもない状態だから」
 
変に閉鎖的にならない姿勢が大事だと希代さんは言う。
 
「この前、とある社長さんと話したんだけど、『今はモノが溢れてるけど、確実になくなります』って。『無いって言った時に作ろうと思っても、職人さんとかが一緒に辞めていたら手立てがどんどん遅れるから、その時に供給出来るようにシステムをきちんと構築しているところです』と言っていて。そんな話の最後に『残ったもん勝ちですよ、戸部田さん。頑張って残りましょう』って言われて」
 
伝統や文化は、時間の積み重ねの中で育まれる。
そこを一度リセットしてしまうと、その継ぎ目をなおすのは至難の業だ。
伝統や文化を守るということは、どんなにその灯が細くなろうとも消さないことが肝心なのかもしれない。
 
また、モノが溢れる現代において“(値段的に)高い”とされる伝統的な品も、どこにその価値を置くか、そしてその価値を見極める目を養うことが大事だと希代さんは言う。
 
「例えば30万円の帯がありますと。でもそれは手機で織られていて、一人の職人さんが2か月かけて作ったものだとする。その労力と想いも入っての30万円を高いと思うかどうか、という世界なんよ。その人の帯が大好きで、もし分割で払えるのであれば月々1万円で2年半払う価値があるかどうかを見極めれば、はたしてその帯を高いと判断するのかという。そういったことをちゃんと伝えられるような人として、私は伝えなきゃいけない。それが伝統文化を守ることだと思う」

モノにも人にも敬意を

最後に何かポーズを、とお願いすると、とってもお茶目に返してくれました!

戸部田はきもの店は出来上がった商品をお客様にお渡しする最後の場であるからこそ、職人さんたち皆の気持ちも大事にしているという。
 
「職人さんはお客さんの顔が見えないから、そういう人たちに『お客さんが喜んでましたよ』となるべく伝えるようにしている。『やっぱり全然仕立てが違うのが履き心地でわかる』とお客さんが言っていましたよとかね。それは、お客さんが満足しているというのが、職人さんたちの仕事した価値に繋がると思うから。だから私は下駄が売れた時“嫁に出す”って言ってる。そんな気持ちで職人さんとも商品ともお客さんとも向き合っている」

希代さんの仕事への向き合い方、考え方の根底には全てに大きな愛情を感じる。
戸部田はきもの店では代々このような“人とのつながり”や“人情”を大事にしてきたからこそ地域やお客さまから愛され、長く続く下駄屋としてなくてはならない存在になっているのだろう。
 


 ライター:宮原 咲希

基本情報
  • 事業所名/屋号

    戸部田はきもの店

  • エリア

    福岡県

  • 募集要項

  • 独立・雇用の形

  • 独立・引継ぎの想定時期

  • 事業継続期間

  • 最寄駅

    箱崎駅から260m(徒歩 4分)
    箱崎九大前駅から540m(徒歩 7分)
    箱崎宮前駅から590m(徒歩 8分)
    吉塚駅から1km(徒歩16分)
    貝塚駅から2km(徒歩21分)

  • ホームページ

  • 業種

    自然・伝統・工芸品・特産品 / 小売・販売

  • 引継ぎ/応募対象者条件

    現在、後継者については検討中。

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