
大人の職業体験『こころみ手』
ninatte九州が企画する『こころみ手』とは、『現場をまずためしてみる人』のこと。
手仕事の現場を体験するボランティアとして、『誰かが手仕事に関わる第一歩』を踏み出すきっかけを作りたい!という思いのもと、スタートした企画です。
こちらのコラムでは、実際に参加された『こころみ手』の様子をご紹介します!
こころみ手ってどんなことをするんだろう?
どんな空気感で開催されるんだろう?
どんな人が開催していて、どんな人が参加しているんだろう?
そんなふうに参加を悩んでいる方や、はたまた募集を考えている方は、ぜひ参考にしていただけると嬉しいです。
女性職人による伝統工芸の技に触れる「組子・建具職人体験」
今回『こころみ手』を受け入れたのは、組子・建具職人の『成縁組』前成美さん。

「学生さんからご年配の方まで、組子・建具に興味を持ってくださる方には、ぜひ来ていただきたいです!」と仰っていた前さん。
彼女の言葉の背景には、「建具・組子業界を盛り上げたい」という思いがあるようです。
300年もの歴史を持つ、伝統工芸の組子細工は、釘や接着剤を使わずに、幾何学模様を形作る木工技術です。一般的には、扉・障子などの建具の装飾として使用されていました。
建具・組子業界には、男性が多く、70代を超える職人も多いといいます。
その中で数少ない若手女性職人である前さんは、人との縁を大切にしながら活躍されています。「誰かのきっかけになれたなら嬉しいです」と、こころみ手の募集にも前向きに取り組んでくださいました。

しかし、募集前は、どこか不安げでもあった前さん。
前さん:「来てもらえたら嬉しいけど、でも、建具や組子に興味を持ってくださる方がいらっしゃるんでしょうか?」
そんな彼女の『こころみ手』に今回応募してくれたのは、30代の女性、Nさん。

猫に出会ったNさん
Nさん:「ninatte九州の前さんの記事を読んで、この募集にたどり着きました。すごく緊張しています」。
ちょうど、長く続けていたお仕事を辞めて、様々な領域を検討していたのだそう。
そして記事を通して、初めて『組子』という技術と、『建具・組子職人の前成美さん』について知り、応募に踏み切ったのだといいます。
Nさん:「完全に未知の世界なので、参加にはとても勇気が要りました。でも、『今を逃したらもう体験できないかもしれない!』と思って。夜中の勢いで応募したんです(笑)」
メモ帳や着替えも用意して、準備万端で来てくれたNさん。前さんも「嬉しい!よろしくお願いします!」と声を弾ませます。

前さん:「あのとき書いていただいた記事から、こうしてご縁をいただけるなんて。本当に嬉しいです」。
雑談を交えながら、和やかな雰囲気で『こころみ手』がスタートしました。
記事と現場体験から、一人の職人『前成美』を知る
工場の机上には、『組子作りセット』のようなものが並べられていました。前さんが、事前に用意してくれていたものです。
たったこれだけの用具を使って、あの幾何学的で美しい組子を組み上げるのだそう。

まずは、組子の成り立ちや紋様の意味などを教えてもらいます。

お手本として横に置かれた組子を見て、Nさんは感嘆されていました。
Nさん:「『木を使う職人技』というと、『男性の大工さん』というイメージが強かったんです。だから、こんなに繊細な技術があるとも知らなくて。実際に見ると、本当に綺麗ですね」。
こういった手作業は、小学校の図工の授業以来だというNさん。
そんな彼女にも分かりやすいよう、前さんが適宜フォローしながら、作業が始まります。

入れ込む角度が少しズレるだけで、綺麗にはまってくれなくなるようです。
「ちょっと違うかも…」と行き詰まってしまっても、すぐに前さんがアドバイスをくれます。そしてカチッとはまると、「おお!」と歓声が。
Nさん:「前さんはひとつひとつ計算して、この木材を削っていらっしゃるんですよね。すごいです」。
前さん:「三平方の定理を使うんですよ。懐かしいですよね(笑)学生のときは『こんなん将来使わんやろ~』って思ってたけど、まさか自分が使うことになるとは(笑)」
直接体感する細やかな職人技に、Nさんも関心されている様子でした。
Nさん:「メモ帳を持ってきているのに、魅入ってしまって全然書けないです(笑)」。

また、作業の合間には、こんな人生相談のようなお話も。
前さん:「今は、悩み中なんですか?」
Nさん:「そうですね。悩み中というか、何もしないから悩んでたのかもです。今までの仕事を辞めたはいいものの、そこからなぜか怖くなってしまって」。
やってみたい仕事と、自分の適性のバランス。年齢。人生設計。などなど……。
いつまで挑戦できる環境にいられるのか?自分の本当にやりたいことってなんだ?
そういった悩みを抱えるNさんのお話を、前さんは深い共感を持った様子で聞かれていました。
Nさん:「安定していた職を手放したことも、不安に繋がっていたのかもしれません。やらない理由を探しがちになってしまって。まだ失敗もしてないのに、もし失敗したらって……。そう考えていくうちに、家から出られなくなっちゃいました」。
「そういった時に、記事を見かけまして。なんとなく、『励ましてもらえるかも』と思ったんですよ。それで読んでみたら、前さんも私と同じように動物がお好きだったり、ライフプランの悩みを抱えていらっしゃったり。読み進めるうちに、友達の話を聞いているような感覚になって」。
記事を読み終えるころには、「とりあえずやってみて、やりながら進められたらいいんじゃないかな」と思えるようになっていたと、Nさんは話します。
悩みながらも進み続ける前さんを知り、きっと励まされたのではないでしょうか。
Nさん:「『こころみ手』の募集を見つけたときは、もう見た瞬間『やりたい!』と思って。『いやでも、私初心者やし……』って悩みながらも、応募してみました」。
「来れて本当に良かったです」というNさんに、前さんは嬉しそうに「こちらこそ、来てくださってありがとうございます」と笑みを見せていました。

前さん:「こんなふうに記事を読んでもらえていたとは、感慨深いですね。今日の体験が、Nさんにとって何かのきっかけになればいいなと思います」。
踏み出した一歩から、縁が組まれていく
気付けば組子の大枠が出来上がり、あとは『葉っぱ』と呼ばれる、中の紋様を組む段階に。
部品の固さや角度を細かく見ながら、丁寧に入れ込んでいきます。


そのあとは、全体的に磨きをかけ、木の裂け目を目立たなくさせる最終段階へ。
Nさんは「もう少し調整してもいいですか?」と、念入りに組子をチェック。
じっくりと作品を見つめながら、夢中で作業に取り組まれている様子でした。

前さん:「すごく丁寧に仕上がりましたね!」
最後はツヤ出しの塗料を塗り、完成です!
「初めて組子を作ってみて、どうでしたか?」とNさんに訊ねると、こんなふうに答えてくださいました。
Nさん:「すごく難しかったです。だけど、1個1個のパーツがハマって形になっていくにつれて、嬉しさがどんどん積もっていく感覚でした。最高です!」

前さんが書かれた『縁』の字と一緒に、この日作られた組子はNさんへプレゼントされました。
Nさん:「とっても勇気をもらえる一日でした。参加できて本当によかったです」。
前さん:「こちらこそ、興味を持っていただけて嬉しかったです。きっとなんでもできますよ、これからが楽しみですね。ぜひまた遊びに来てください!」
Nさんから前さんへの、職人技への敬意と共感。
そして、前さんからNさんへの、踏み出された一歩への敬意と感謝。
それらが、『こころみ手』を通して深く交わったように感じられる一日でした。
また、お二人とも、今回の出会いを「すごく貴重な縁」だと口々に仰っていたのが印象的でした。
確かに!
過ごしてきたフィールドは違っても、記事を通して生き方に触れて、そしてひとつの技術を共有することで、人はこんなにも親交を深められるのか…!と、筆者も驚きと喜びを感じました。
「とりあえずやってみて、やりながら進められたらいいんじゃないかな」。
そうやってNさんが踏み出した一歩は、さらなる次の一歩に繋がるような気がします。

いきなり仕事として取り組むのは難しい。だけどやってみたい気持ちがある。
手仕事の現場をまずためしてみる『こころみ手』は、そんなふうに考える人の背中を、ぽんと一押しするのにピッタリなのではないでしょうか。
なにが最初の一歩になるのかは、きっと踏み出した後にしか分かりません!
【成縁組】
Instagram:https://www.instagram.com/seiengumi/
HP:https://www.seiengumi.jp/
★前さんの取材記事はこちら
縁を手繰り寄せ、扉を開く。建具・組子職人『成縁組』前 成美
この記事の執筆者
6月は毎日お弁当を作れたが、7月に入った途端にその記録は途絶えた。8月は作ったり作れなかったり、ぼちぼち。
いい器の購入は一旦保留にして、長谷川あかりさんのレシピ本を購入。毎ページときめきます。眺めるだけでも楽しい。



