“好き”の気持ちを大切に。 お気軽古着物『ゆずの木』今林よし枝

「着物でお客さんをキラキラの笑顔にして『いってらっしゃい!』って送り出す、そんな存在になりたいなと思っています」

箱崎の古民家シェアハウスで着物のレンタル・販売等を行っている『ゆずの木』。
明るい笑顔と気さくな雰囲気が魅力のオーナー・今林よし枝さんに、今回お話しを伺った。
なぜ着物屋に?

実家も箱崎にあり、幼い頃から行事があれば着物を着るのが当たり前の環境で育ったという今林さん。自分でも着てみようと着付けを習いにいったところ、そちらの先生がお茶も教えていたことから、一度に多くの“和のこころ”に触れることができたそう。
「庭に咲いている野の花を、先生が何気なく壁に飾るのを見たり、無心で半襟をつけるちょっとした時間を通して、心に余裕を持つことが大事だということを教えてくださったり。そういった先生の姿がかっこよくて、ますます着物が好きになりましたね。それと、先生の教室が異空間のように感じていたので、非日常の世界と着物が結びついて、ますますのめり込んでいったというのもありますね」
着物の世界に魅了されてはいたが、当初はまさか自分が起業して着物屋を始めるとは夢にも思っていなかったという。
どのようなきっかけで着物屋を始めることになったのだろうか。
「『家族との時間を確保しながらできる仕事はないかな?』と考えていた時期に、たまたま倉庫の解体屋さんから『あなた着物が好きならいらんね?』と大量の着物をいただくことになったんです。私が着物好きでよく着物で出掛けていたので、処分する前に思い出してくれたみたいで。その話をいただいた時に『あっ!』とひらめいて、もしかしたらこれを仕事にしたら家に居る時間を増やせるんじゃないかなって。それで、いただける着物を全部引き取ることにして、その後に売り方を考え始めたのがきっかけですね」
偶然の縁がきっかけで着物屋を始める決意をしたという今林さん。だが全くの素人だったため、売り方のノウハウがわからずにいたところ、また新たなご縁が運ばれてきた。
長年古着販売に携わっていた方とたまたま知り合い、その方から販売や仕入れの方法を教えてもらえることに。
「本当に色んな人に支えられて、着物屋を始めることができました」
もっと気軽にお着物を

“気軽に着物を着てほしい”、そんな想いをもとに枠にはまらない様々な取り組みを行っている今林さん。
「現代って、着物警察を恐れて『間違えた着方をしていたら、何を言われるか…』と思っている人が多いみたいですけど、そういう風潮が嫌で。だって、昔の人は着付け教室なんか通わずとも着物を着ていたんだから、もっと気軽に着ていいと思うんですよね。近所のスーパーに立ち寄るのに着物を着る。それくらい気軽に着て欲しいというのがお店のコンセプトですね」
いわゆる“着物警察”と呼ばれる、“正しい着方をしているかどうか”をチェックし(他人の着方を)評価してしまう方々の存在や、着物=高そう、難しそうというイメージが先行し嫌厭されているなど、着物に対するマイナスなイメージが少なからずあることは事実だ。
今林さんはこういったイメージを少しでも払拭し、純粋に着たいものを楽しんでほしいと考えている。
「(自分の店が)着物文化の入口になればいいなと思っています。やはり、いきなり高価な着物だと手が出せなくても、中古品だと(ワンコイン以下のものもあり)手が届きやすいので、まずはそこから楽しんでもらって。そして徐々に着物のことを理解する中で自分の好きを見つけていったらいいんじゃないかなと。それと着方のことで言うと、身体の癖によっても人それぞれの着方があるので。もし何か言われたらなんでも気軽に相談してください」
ウキウキマッチングプロデューサー
着物を気軽に着て欲しいという想いはもちろん、今林さんのお話を聞いていると、その人の輝きを引き出したり、本人も気づいていなかった輝きを見つけ出すお手伝いがしたいという気持ちが伝わってくる。
「お店を始めた当初、コンサルさんに『あなたがスターになって、見た人が“こんな風になりたい”と思うようにしたらいいよ』と言われたんですけど、それにすごいモヤモヤしちゃって。『なんか違うなあ』と考えた時に『私はシンデレラになりたいんじゃなくて、ビビディ・バビディ・ブーっていう魔法使いになりたいんだ!』と思いついて(笑)。お客さんをキラキラの笑顔にして『いってらっしゃい!』と送り出す側になりたいんだと。それで自分を“ウキウキマッチングプロデューサー”と名乗って、お客さんの『ああしたい、こうしたい』を着物で一緒に叶えるように心がけてやっていますね」
“好き”が見つかった時に、人が輝き始めることを知っている今林さんだからこそ、お客さんの“これ好き!”を一番大事にしているという。ただ、お客さんが万が一恥をかくことがあってはいけないので、きちんとTPOに合わせた提案をすることは気を付けている。
このようなスタンスの今林さんのところには、“着物でこんなことしてみたい!”という多様な願いがやって来るそうだ。
「一度、二十歳の男の子に振袖を着せて撮影したこともありますよ。その子は自分の知り合いのためにヘアドネーションをしようと髪を伸ばしていて、切る前に何か記念になるようなことがしたいということで、二十歳の記念も兼ねて振袖での撮影を希望して来られました。でも身長が180センチ以上もあるので、なかなかちょうどいいレンタル振袖がなくて…。色んな工夫をしながら着せました。本人に『どんな感じで撮りたい?』と希望を聞いて、カメラマンもそれに沿ったような方を手配して撮影に臨みましたね。撮影の時はその子のお友達が演出の協力をしてくれて、ワイワイしながら撮りましたよ(笑)。本人もすごく満足していましたし、伸ばした髪がメインのとても良い写真が撮れたので、諦めずにやってよかったなと思いました。だから“あなたのやりたいを叶えます”という想いで、どんなことでもチャレンジするようにしています。でも、私としてはただ面白そうなことをお客さんと一緒にやっているという感覚なんですけどね(笑)」
好き!は正義

"『呪術廻戦』七海建人 イメージコーデ
“気軽に着物を”をコンセプトに、固定概念を取り払い自由に着ることをお勧めしている今林さん。そんな彼女の新たな道を拓いたのが“推し”の存在だ。
「実は私、昔からアニメとか漫画が大好きで。推しを着物のコーディネートに取り入れたらいいんじゃないか、と思って『推しキャラコーデ』をSNSで発信しています。というのも、お客さんの話を聞いていると、皆さんコーディネートに困っているみたいなので、自分の推しを取り入れれば心もウキウキするし、こんなに良いことはないんじゃないかと思って(笑)。うちのお客さんにはコスプレイヤーさんも多いのですが、非日常感が出るという点では、着物もコスプレも似ていると思うので、そういったものを味わうために着物を着る方もいらっしゃいますよ。推しを持っている方だと、推しカラーを少し取り入れるだけでもすごくウキウキしますし、コーデの幅も広がります。何よりキャッキャウフフしながら着物を着れたら最高じゃないですか」
好きを語るとき人はもの凄く輝きだす。
今林さん自身がたくさんの“好き・推し”を持っているからこそ、様々な角度からの提案ができ、ご自身も仕事を楽しんでいるのが伝わってきた。
これからのチャレンジ

着物に対する高い垣根を取り払い、気軽に楽しむ人が増えるきっかけをたくさん提案している今林さん。
ご自身が楽しいと思うことを続けていたら、思いがけない提案をいただくことも増えてきたという。
「最近、『和洋ミックスの着方講座をしてくれない?』ってお話がきて。今、色々と準備しています。私自身も、普段は洋服の上に羽織をカーディガンのように着たり、襦袢の代わりに洋服を着たりして楽しんでいるので、もっとそういう着方が増えて着物への抵抗感が少なくなればいいなと思っています。固定概念に縛られずに率先してなんでもやってみたいなと。例えば私の雰囲気だと、地味な着物をそのまま着物として着こなすのが難しいんですよ。でも襦袢の代わりにハイネックを着て、ベルトを合わせると、不思議と馴染むんですよね。何より、色んな組み合わせで着てみるのが楽しいなと思って」
様々な可能性を閉じることなく、着物と向き合う今林さん。好きや楽しいという気持ちが原動力となり軽やかに行動に移すその姿は、多くの人の背中を押しているように感じた。
「きっと(着物で)こんなことはできないだろう…」と思い込まずに、何かやってみたい方はお気軽に『ゆずの木』に問い合わせをしてみて欲しい。
今林さんとお話することで、きっと光が見えてくるはずだ。
ライター:宮原 咲希
所在地:福岡県福岡市東区箱崎1-37-37 ShareSOHO町屋筥崎A
ホームページ:https://kimonoyuzunoki.com/
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※詳細はインスタグラム@kimono.yoshie.imabayashiにてご確認ください。
この記事の執筆者

ninatte事務所
ninatte九州の運営事務局です。銭湯跡地、旧梅乃湯を拠点に活動中♨事務局ライター数名で日々記事を更新しています。