好きと得意が交わる場所で。『Factory Eden』ジュエリー職人 吉村 凌

自分の好きと得意が合わさった時、人間は大きな力を発揮する。
そう信じ、突き進む職人がいる。

佐賀市にショップと工房を構える、有限会社Factory Eden(ファクトリーエデン)。
ここでは、シルバーアクセサリーやジュエリー・結婚指輪などを取り扱っており、オーダーメイドでの制作から、修理まで幅広く対応している。
ファクトリーエデンの職人たちは、多様な専門機器を使いこなし、日々ジュエリー製作に勤しむ。

今回はその中の一人、吉村 凌さんにお話を伺った。

『ものづくりは好きですか?』という質問に、

「好きです」。

そう即答できるほど、ものづくりに没頭してきた彼の歩みを聞いた。

”作る”に魅了された青年期

小さな頃から、何かを作ることが好きだったという吉村さん。
粘土を捏ねて動物を作ったり、食品トレーで飛行機を作ったり。
その手先の器用さを活かして生み出すものは、周囲の大人たちが驚くほどだったという。

学生時代は野球部で体を動かしながら、合間を見ては美術の先生に教えを請い、家に帰ると好きな漫画の模写をする。

体育祭では応援団をしながら、応援席の後ろに設置された巨大なパネルの絵や、団員はっぴの背中の絵を美術部部員と一緒に製作。

何時間でも集中して、何時間でも夢中になって。
友人から頼まれれば作品を作り、手渡す。

誰かに喜んでもらえること、そして作ることに没頭し、完成させること。
その全てが、ただただ楽しかった。

ギャップに直面した7年間

高校卒業後は、大手家電メーカーに就職。
漠然と、自分が大好きな『ものづくり』に携われると思ったからだ。

自分の好きと得意を活かして、誰かの生活に役立つ、寄り添う製品を生み出すことができる。
そういう立場に立てたと自負していた。

しかし、入社した吉村さんの中に違和感が芽生える。

「ものづくりではあるんですけど。機械がガシャガシャ動いているのを見て、『何か違うな』とは思ってて」。

目の前で製品を生み出していくのは、己の手ではなく、生産性のある優秀な機械たち。その工程の中に、自分が介入する余地は見つけられなかった。

納得感を得られないまま時は進み、次第に管理業務も任されるようになる。
働けば働くほど、自分のしたいことから少しずつ遠ざかっていく感覚。

「手先の器用さを活かしたいっていう想いはずっとあったんですけど、『このままいくのかなあ』って」。

“自分の得意を活かせる場所は、きっとここではない”

そう思いながらも、事務所でキーボードを叩きながらきっかけを待つ日々。
一歩踏み出せないまま、入社して7年もの月日が過ぎた。

きらりと光り、回り始めた物語

そんな中、結婚を迎えた吉村さん。
愛を誓ったリングは、ただ購入するのではなくこだわったものにしたいと考えた。

“せっかくなら、結婚指輪は手作りの形にしよう”

夫婦でそう決め、『ここに行きたい』と妻が教えてくれた場所へ導かれるように足を運んだ。

『有限会社Factory Eden 』が運営する、オーダーメイド&手作りブライダルリングの専門店、『Salon de Le Ciel (サロン・ド・ルシェル)』。

作業机に2人で並び、蝋燭の蝋のような素材の塊をリングの形に削っていく。滑らかな曲線作りは繊細で、吉村さんはその手作業に衝撃を受けた。

「アクセサリーに興味はあったんですけど、それを作る人のことを意識したことがなくて。実際にやってみて、『あ、自分はこういうのがやりたかったんだ』って」。

人の手で形作られる結婚指輪。
そして、この場所にはその技術を活かし働いている職人がいる。

結婚指輪作りを通して、自分が本当にしたかったことが見えた気がした。

その後、転職を視野に入れた吉村さんは、求人サイトで未経験可の職人募集の求人を見つける。自分たちが結婚指輪作り体験をした、ファクトリーエデンの求人だ。

「これはもう、チャンスだと」

好きで、得意だと思っていること。
それを叶える場所が目の前にある。

しかし新婚、まもなく子供も生まれるという時期。
7年かけて築いたキャリアを手放し、未経験の職人として一からスタートすることは、人生を賭けた大きな決断だった。

「『どうせ止めたところで、聞かないんでしょ』って妻には思われていたかもしれないですね(笑)」。

彼が抱えるもの作りへの熱意は、妻や周囲の人々にそのもどかしさを伝えていたのかもしれない。

そして、縁が繋がる。
覚悟を決めた吉村さんは、ジュエリー職人の世界へと一歩を踏み出した。

人生に寄り添う一品を

前職の有給消化の期間にも店舗へ足を運び、ジュエリーに関する基礎の勉強や作業を学ぶ。
しかし、いくら手先に自信があるとは言え、一筋縄ではいかなかった。

「器用だと思ってたけど、そうでもなかったなと(笑)それで落ち込むとかはなくて、ただ『先輩方は凄いなぁ。僕もそこまで行きたい』と思っていました」。

自分の“得意”が、この業界では”できて当たり前”。
しかし、焦りよりも勝ったのは、ずっと憧れていた手作業に没頭できる喜びだった。
奥深いジュエリー製作の世界と向き合い、着実に技術を身に付けていった。

「やっぱり僕に知識がないと、お客様の希望に沿う提案はできません。最初の頃は苦労しましたね。今でも、初めて受ける提案は難しいです」。

ファクトリーエデンでは基本、一つの依頼を、一人の職人が一貫して手掛ける。
自身の知識と技量が伴ってこそ、真に満足してもらえるオーダーメイドジュエリーを提供できる。

未経験故に吸収できることも多いが、お客様と話す時に自分の知識のなさを悔やむこともあった。万全の体制で臨むために、製作前に新技術を身に付けることもあるという。

特に、ダイヤなどの宝石を様々な手法で固定する、”石留め”と呼ばれる作業に関しては、4ヶ月ほどの練習期間を設けたそう。

「納得できない仕上がりではダメだと思って。仕事前に早く来て時間を作って、めちゃめちゃ練習しました。せっかくやるんだったら、こだわってやりたいなと」。

1mmよりも小さな世界。一度でもズレるとそのズレは次第に大きくなる。
素人目では分からなくとも、プロから見ればその技術の練度は一目瞭然だという。

一工程、一工程に緊張感を持って、ジュエリーと真摯に向き合い作り上げる。

地道な練習を重ね、ついに熱意を込めた完成品を手渡す瞬間。
笑顔が零れるその顔を見れた瞬間の、喜びと感動はひとしおだ。

「自分が仕上げたものお渡しをする時は、やっぱりやりがいを感じますね。お客様と接する機会が今までなかったので。『お願いしてよかった』って言われた時は、嬉しかったですね」。

もっと良いものを、もっとクオリティの高いものを。
お客様から贈られる暖かい言葉たちは、次への原動力へとなる。

依頼の中には、これまでに経験のない技法を求められることもある。
その”できない”から目を背けず、試行錯誤を繰り返し自分のものにしていく。
そんな彼の粘り強さと探究心が、作品に更なる輝きを宿す。

新たな得意を目指して

ジュエリー製作の技術領域は非常に幅広く、奥深い。

全ての技法を自社だけで完結させることは決して容易ではなく、時には外部へ委託する場合もあるという。吉村さんは、委託している技法の一つである ”洋彫り”を、「自身の得意分野にしたい」と語る。

洋彫りとは、ジュエリーに繊細で滑らかな曲線を施し、文字や模様を彫刻する彫金技法のこと。手先の力加減一つで、彫りの深さ、幅、模様の出来も変わる。そのため、卓越した技術が必要とされ習得難易度も高い。

「自分自身の技術習得にもなりますし、お店としても一つの強みにもなるので」。

職人たち一人一人が個の技を磨けば、工房全体で描ける未来の幅も広がっていく。
一人が奮闘するよりも、全員で支え合うチームでありたい。その一端を担えるよう、まずは己の技術を一つずつ積み上げていけたら、と彼は微笑む。

その火種を燃やし続ける原動力

「例えば『ものづくりをやろう』って、お金をかけて道具を揃えて、環境を整えて、始めるだけなら簡単なんです。でも、それを続けてる人って、どのくらいいるのっていう。それを何ヶ月、何年、何十年も続ける人が本当に”できる”人たちになっていくと思うので」。

技を体に染み込ませるための長い道のり。
それを支えるのは、実直な日々の鍛錬と、歩みを止めない愚直なまでの継続だ。

日々のささやかな積み重ねこそが、確かな技術を手にする未来へと物語を転がしていく。
そして、継続するための原動力の源には、シンプルで純粋な“好き”という想い。

「仮に、好きじゃないことで『ここまでにできるようになってね』って言われてやるのと、自分が好きでやってることで『ここまでできるようになるまでに、この期間どう努力するのか』って考えることと、自分自身のモチベーションや物の仕上がりも変わってくると思うんですよ」

「なので ”好き”は、”強い”と思います」。

あの日の指輪作りから始まった、彼の新しい時間。手作業のぬくもりに魅了され、自らの居場所を見つけた職人は、まだ見ぬ未来へ向かって、これからも真っ直ぐに駆け抜けていく。

『ものづくりは好きですか?』

この質問への答え方は、人それぞれだと思う。
生み出すことが好き。手作業が好き。作っている時間が好き。
はたまた、手渡した相手の笑顔が好き。

世界に一つだけのきらめきに出会い、職人の精緻な手仕事を間近で見つめてみる。
そんな体験の中に、まだ見ぬ自分の『好き』や 『得意』を見つけるヒントが転がっているのかもしれない。


Factory Edenは現在、
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この記事の執筆者

好きなものは水色、青、空、海、パピコ。
短い文章を書いたり、読んだり。
1人のときは常にイヤホンをつけて音楽を流しています。
最近はココアシガレットの空箱を職場に溜め込むのがマイブーム。

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佐賀市内にある自社工房を拠点とし、県内外からシルバーアクセサリーや貴金属ジュエリーのブランドアイテム販売、オーダーメイド、修理リペア&ジュエリーリフォーム、カスタムまで幅広く対応している。

吉村さんは新たな技術を身に付けるべく、今日もお客様のジュエリー製作に励む。
昔から漫画やイラストの模写が得意で、好きな漫画のジャンルはアクション系・ヤンキー漫画だそう。

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