食卓に彩りとほっこりを ~フルーツカッティング講師 内山恵美さん~

福岡空港からほど近い場所にある、フルーツカッティングのアトリエ。
扉を開けると、フルーツのフレッシュな香りが漂い、明るいインテリアが素敵な空間が広がっていた。
「ちょうど今、今月のレッスンの試作をしていました」
やわらかな笑顔で出迎えてくれたのは、フルーツカッティング講師の内山恵美さん。
細部に気を配りながら、真剣な眼差しでフルーツをカットし盛りつけていく手さばきに、思わず見入ってしまった。
ハロウィンをイメージしたワンプレートは、可愛らしくて眺めているだけでほっこりとした気持ちになる。
まるでこのひと皿に内山さんの人柄があらわれているようだ。

実は内山さん、フルーツカッティングの講師として活動する前は、自身でカフェを営んでいた。
2023年に惜しまれつつ閉店してしまった『まほうのろば』は、筆者も家族ともども大変お世話になった思い出深いお店だ。
食事のおいしさ、居心地の良さ・・・全部ひっくるめて、「ここに行けば安心」と思える場所だった。
お店を閉じてからのこと、フルーツカッティングの道を選んだこと、今とこれから・・・。
大きな選択を経てきた内山さんの『生き方』を、もっと知りたくなった。
日常にフルーツの癒しを届けたい

内山さんは現在、フルーツカッティングのワンデイレッスンを中心に活動をしている。
「私のレッスンは、『食卓に彩りとほっこりを』というテーマを掲げていて、初心者さん向けに、家庭で手軽にできるカッティングをメインにしています。
ハレの日にというよりは、ふだんの食卓にサッと添えて、家族に喜んでもらえる・・・みたいに、フルーツカッティングが日常のささやかな楽しみになったらいいなと思っています」
料理教室で習ったはいいが、結局自宅ではやらずじまい・・・なんてこと、みなさんも経験があるのでは?
そうなってしまわないように、内山さんにはこんなこだわりも。
「レッスンに参加してくださった方からの質問は、いつでも何でも受け付ける『100%フォロー』を宣言しています!メッセージのやり取りにはなりますが、些細なことでも、分からないことがあったらなんでも聞いてくださいとお伝えしています」
内山さんのやわらかな雰囲気と親しみやすさには、『本当になんでも聞いていいんだ』と身をゆだねられるような安心感がある。
レッスンの楽しさはと問うと、真っ先に「おしゃべり!」と答えた内山さん。
「レッスンに来てくださる方たちが、皆さん初対面でも和気あいあいとしてくださって、本当にありがたいんです。毎回いろいろな話題で盛り上がって、それが楽しくて。
2時間あるレッスンの中で、最後の30分はティータイムと決めているんです。集中して早く終われば、ティータイムが長くなりますよ、とお伝えしてからレッスンを始めるのが恒例になっています(笑)」
参加者さんも内山さん自身も、楽しくて心地よい時間。そんな和やかなレッスン風景が目に浮かぶようだ。
「ひとまず1年間やってみよう」と始めたワンデイレッスン。
回数を重ねるにつれ、気づきや悩みもアップデートされていく。
「初心者さんに合わせた易しいカッティングを提案して告知すると、反応がいまいちなことが多くて・・・。写真を見て、『これなら習わなくても自分でできそう』と感じるのかもしれませんね。見栄えがよくて豪華で華やかで・・・そういう技術が高いカッティングのほうに、どうしても惹きつけられてしまいがちですよね。
でも、フルーツカッティングは本当に奥が深いんです。簡単そうに見えるカッティングも、いざやってみると難しかったり、直線の切り方ひとつで見栄えが全然違ってきたりします。だからこそ基礎がすごく大切なんです」
「せっかくレッスンに来ていただいたのだから、やっぱり満足してもらいたいじゃないですか。難しいカットに挑戦しても、うまくできなかったら不満足になってしまう。まずは何より、『できた!』という体験を大切にしたい。そうしたら、『家でもできそう、やってみよう』につながって、日常に取り入れられるようになると思うんです」
内山さんが目指すところは、あくまでフルーツカッティングが日常の一部になること。
技術をどこまで伝えるべきか・・・。需要と供給のバランスを図りながら、試行錯誤を続けている。
出会いと別れ

内山さんがフルーツカッティングに出会ったのは、先にもふれたカフェ『まほうのろば』を営んでいたときだ。
食材や栄養バランスにこだわった食事を提供していたこともあり、「フルーツも食べてもらいたい。メニューに取り入れられないかな?」と考えるようになった。
そこで、かねてからの知り合いでもあったフルーツカッティング講師の徳永陽子先生(徳永陽子のIt's My Style主宰)に相談し、背中を押してもらったのだそう。
「『全然やれると思うよ!』と言ってもらえて、一歩踏み出す勇気が出ました。どうせやるならきれいにカットして提供したいと思い、先生にカッティングを習うことにしたんです」
こうしてフルーツカッティングの道を拓いていった内山さん。
お店ではサラダやデザートなどに旬のフルーツを取り入れ、以前にも増して華やかで満足度の高いメニューが並んだ。
さらに、フルーツのオードブルやフルーツお節などのオーダーも始め、フルーツカッティングは『お店のもう一つの顔』になっていった。

「サラダにフルーツを添えて提供し始めたんですが、最初は食べてもらえるか不安でした。でも、案外皆さん残さず食べてくださって、すごく嬉しかった。こうして食事の一部になっていたら食べてもらえるんだな、ということが分かったので、これは続けていこうと思いましたね」
ひとりでお店を切り盛りしながら、フルーツカッティングの技術習得に励んでいた内山さんだが、苦悩はなかったのだろうか。
「短期間で習得できるように休み返上でレッスンを受けていたので、仕込みや仕入れを調整するのが大変でしたね。お店で提供するフルーツも、切り方を変えてみるなどもっとこだわりたかったのですが、時間に追われてなかなかできなかったのが悔やまれます」
大変さもありながら続けてきたのは、技術が身についていく喜びと、何よりフルーツカッティングにどんどん魅せられていったから。
「完成したときの見た目の美しさはもちろんなんですが、一番の魅力は『香り』ですね。切った瞬間ふわ〜って、その場所全体がいい香りに包まれて・・・なんとも言えない幸せな気持ちになります。フルーツを切りながら、自分自身が癒されているんだなって気づきました」
お客さんに愛されているお店、楽しみながらどんどん技術を高めていくフルーツカッティング。傍から見れば、どちらも充実し順調に事が進んでいるように思えた。
そんなさなか、内山さんは大きな決断をする。
「ちょっと頑張りすぎてしまって・・・ヘトヘトになってしまいました。もちろん好きでやっていたお店なので、なにが嫌とかいうことではなくて。『もう続けていけない』と思ったんです」
閉店を知ったとき、驚きと残念な気持ちでいっぱいになったことを思い出す。
間違いなく、筆者にとって『まほうのろば』は生活の中の大切な1ピースだった。
約6年間続けてきたお店に終止符を打った内山さん。
現在に至るまでには、どのような道のりがあったのだろうか。
立ち止まった先に見えたもの

お店を閉じてからは、フルーツカッティングや仕事をすること自体から距離を置き、休息期間をとることにしたのだそう。
フルーツカッティングの活動を見据えて閉店したわけではなかったことが意外だった。
「お店を閉じてすぐは、すっかり燃え尽きてしまっていましたね。ずっと走り続けていた車を降りた感じでした。毎日毎日お店のことを考えていたので、急にぽっかり穴が空いたようで・・・。
そんな中で、お店をしていたときにお世話になった同業者さんや常連さんに声をかけてもらって、徐々にお手伝いやボランティアに参加するようになりました」
イベントの手伝いや地域の小学校のミシンボランティアなどに出向くようになり、少しずつ気持ちに変化がうまれたという。
「仕事ではないところで、こうして外に出ていくきっかけをもらって動き出してみたら、なんというか、すごく癒やされたんです。初めての経験やそこでの新しい出会い・・・それに、ゆるやかな気持ちで活動できること・・・すべてが新鮮でした」
休むことに引け目や焦りを感じることもあったそう。
しかし、内山さんのペースを優先してあたたかく見守ってくれた家族の支えもあり、じっくり自分と向き合うことに専念した。
「やっぱり、シンプルに『やりたいことはやったほうがいい』っていう気持ちになって。もともと挑戦しようと思って眠らせたままだったバイクで、トライアスロンも始めたんですよ」
日々を楽しむことにアクティブになっていくと、次第に仕事に対する気持ちにもエンジンがかかり始めた。
そんなとき、ある出来事が。
「本当にありがたいことに、お店時代の知り合いの方たちから、お弁当やお菓子のオーダーをちょくちょくいただいていたんですが、もう作る場所が無いのでお断りしていました。そうしたらある日、『フルーツならできる?』と聞かれて、ハッとしたんです。『あ、私、フルーツカッティングならできる』って」
お客さんからの何気ないひと言が、再びフルーツカッティングの道を歩むきっかけとなった。
「今自分にできることはフルーツカッティングだ」と、改めて強く思えるようになった内山さん。
実際に手を動かし始めてみると、「やっぱりすごく楽しかった」そう。
「『カフェ時代にお世話になった方たちや地域への恩返しがしたい』という気持ちがずっとあります。今やっているフルーツカッティングの活動ではなかなか難しいところもあるのですが、小さなこと・できることからと思い、ミシンボランティアは今でも続けています」
1年間の休息期間を、内山さんはこう振り返る。
「1年間じっくりお休みをして、自分と向き合って、本当によかったと思っています。あの期間があったから、こうして今またフルーツカッティングを始めることができました。仕事とプライベートのバランスも、アクセルとブレーキを自分でうまく踏み替えてやればいいんだって気づけました」
ときに、立ち止まることは続けることよりも難しく勇気がいる。
だが、その経験を経ることで、新しい扉がひらきその先の景色に出会うことができるのだろう。
一緒にドライブを楽しむように

「仕事もプライベートも、『やりたい』の気持ちに素直に動いていきたい」と話す内山さんに、今後の展望や目標を聞いてみた。
「レッスンにおいては、今やっているワンデイレッスンの手ごたえを探りながら、この先も続けていくのか、段階的にレベルアップしていくようなコースにするのか、いろいろと思案しているところです。
レッスンに来てくださる方が、あまり身構えず一緒にゆったりドライブするような気持ちですごせるように、私自身が心に余裕をもつことを忘れないようにしたいですね」
「私が今、安心安全な運転をしているので、それが参加者さんにも伝わって、安心して身をゆだねてもらえたらいいな」
内山さんからにじみ出る『親しみやすさ』の理由が分かった気がした。
新しい挑戦や経験、出会いを楽しむことは、心を豊かにする。
豊かな気持ちは相手に伝わり、心地よい時間を生む。
内山さんがフルーツカッティングを通して届ける『癒し』の輪は、この先もどんどん繋がっていくことだろう。
Instagram:https://www.instagram.com/mahounoroba_12.11?igsh=MTB4cXR3NG14MXA4YQ==
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この記事の執筆者

ninatte事務所
ninatte九州の運営事務局です。銭湯跡地、旧梅乃湯を拠点に活動中♨事務局ライター数名で日々記事を更新しています。