「周りに合わせて自分の心を無下にする必要はない」画家/アーティスト〈ヤマチハ〉さん

「周りに合わせて自分の心を無下にする必要はない」~私は、私を生きる~ 画家/アーティスト ヤマチハさん

「生きるってなんだろう?」

なぜ、人は生きるのか。

「生きる」とは何か。

彼女の人生観や哲学的思想をもとに生み出されてきた作品の数々。

今回お話を伺ったのは、画家/アーティストとして活動する〈ヤマチハ〉さん。長崎県出身のヤマチハさんは、専門学校を卒業後、現在は福岡を拠点にアーティスト活動を展開しており、これまで手がけてきた作品は、CDジャケットのイラストやウォールアート(壁画)、また楽器へのペインティングなど多岐にわたる。

彼女が生み出す作品には、その一つ一つに揺るぎない信念と哲学が詰まっている。

それらについて深く知るため、制作活動の根元にどのような思いがあるのか伺った。

「私は、人との突然のお別れに立ち会う機会が多かったように思います。それらの経験などを含めて、作品には〈人生〉を投影しています。いつか終わってしまうものであったり、その時でしか見ることができないもであったり、一瞬を切り取ってその様を描くことが多いですね。そんな私の絵がこの先何十年、何百年と続いて残っていったらいいなと思って描いています」。

終わりゆくものや、その一瞬でしか見られないこと。出会い、別れ。

そのような自身の経験をもとに築き上げられてきた人生観を、彼女は絵で表現している。

その時々の心情をもとに作り上げられていく作品たちと、それらに反映される彼女にしかできない表現、その構築の過程と幼少期についても語ってくれた。

“幼少期のヤマチハさんと、絵の繋がり“

ヤマチハさんは、物心ついた時からずっと絵を描いていたのだそう。その時は、ただ絵を描くことが好きでひたすらに描いていたというが、それ以上に彼女と彼女の絵には、深い絆があったようだ。

「私は幼少期に、自分の思いを言葉にすることが苦手で、周りの人よりも言葉に対する遅れがあったように思います。その時に、気持ちを絵で表すことが多かったのかもしれません。人との意思疎通を絵が助けてくれたんです。それが相手に伝わった時に、“初めて人と会話ができてる“って感じたんです」。

彼女にとって絵は好きという気持ちだけではなく、大切なコミュニケーションツールであったのだろう。絵が彼女の苦手を支え、言葉の足りない部分を補ってくれる。その歩みの中で絵との間に深い信頼関係が生まれ、切り離せない存在となっていく。

“人の人生と、花の共通点“

彼女の作品の中には〈花〉が描かれているものが多くある。なぜ花をモチーフとした作品が多いのか尋ねてみると、〈人の一生〉を花に投影し表現しているからだそう。そこには、〈人〉と〈花〉の共通点があるという。その中にある彼女の想いとは。

「花の生の過程を見て『人間みたいだな』って思ったんです。花と同じで、人の一生も一見すると長いように感じるけれど、すごく儚いなって。だから、花を見ていると、人間の生きる様をそのまま客観視できるように思うんです」。

花が咲いてから、枯れるまで。

豊かな感性、心情から生み出される美しい作品たち。

ヤマチハさんの作品への想いについて、さらに深く訊いてみる。

“代表的な作品のひとつ『人生謳花』(じんせいおうか)”

彼女の作品の中のひとつに、『人生謳花』というものがある。

『人生謳花』は、モノクロの花が描かれた紙の縁を、火で燃やし焦がしている斬新な作品だ。この『人生謳花』にも、ヤマチハさんの人生観と信念、考えがたくさん詰まっている。なぜ、花の絵の周りは燃やされているのだろうか。

「人は、生きている限り大なり小なり命を燃やして生きていると思うんです。そのようなイメージをもとに、あえて燃やしています。『人も、最後には灰になる。紙だって同じように灰になる』花の周りを焦がすことによってそのようなメッセージを込めています」。

彼女が生み出す作品一つ一つには、それぞれ、伝えたいメッセージが込められている。その説明を聞きながら作品を見ると、さらに絵への解像度が深まり、作品の中に命が宿っているように感じる。

「幼いころは、特にそのようなことを意識することなく、ただ描きたいものを描いていました。主に星とか、月とかですかね。その絵は自分が好きなことだから、いわゆる” 自分のため” のものでした」。

 「でも、今ではそれが仕事になっています。作品を納品したり、手に取ってもらったり。見てくれた人が、私の絵に感動してくれることがあって、なかには涙してくれる方もいます。私は、今まであまり人に寄り添うことができなかったんですよ。優しい言葉をかけたり、言葉で何かを伝えたり、語りかけたりすることが苦手でした。ですが今は絵で誰かの心に寄り添えているような気がしています。絵を見て心がふっと軽くなるような、そんな役割を私の絵が担ってくれたらいいなと」。

 「最初は” 自分のため “だったことが、いつのまにか"だれかのため “にもなっていたんだなって。だから、自分の絵で1人でも誰かの痛みを救えるのなら本望です。たった1人で描いていたものが、描けば描くほど誰かと深く繋がっていく。共鳴し合えると言いますか。絵を通して”私は独りじゃないんだな“と思えるんです」。

描くことと共に人生を歩んできたヤマチハさんにとって、絵を描くことは生きること。生きている限り絵を描き続けるという、彼女の強い想いが伝わる。

“絵を仕事にするようになったきっかけ“

アーティストとして歩み、それを仕事として生活の基盤をつくることは、容易ではないだろう。その上で、どのように自分自身をPRし、どのように作品の認知を広げてきたのか。また、どのようにしてクライアントを獲得してきたのか。その過程や取り組みについて伺ってみた。

「私は音楽が好きなので、学生時代からよくライブハウスやクラブに通っていました。周囲にもバンドやDJ、イベントオーガナイザーなど、音楽活動をしている方が多くて。そのような環境で人と繋がっていく中で、その方々のグッズデザインなど『何か一緒に仕事をしよう』って話す機会も生まれて。それが私の絵が仕事と繋がるきっかけですかね。イベント会場でライブペイントを行ったり、物販デザインを制作/販売したり、そこから徐々に私を知ってもらう機会が増えました」。

 「SNS活動も積極的にやっていて、頻繁に情報発信していたこともあり、そこから仕事が生まれて、さらに別の輪が広がって。知らないところで私の絵が誰かの目に止まり、きっかけを運んできてくれるんです。いつどこで、どう仕事に繋がるかわからないので、興味のあることや誘われたイベントなどには積極的に足を運ぶようにしています。そこで意識していることは、“やりたいことは口に出すこと、伝えること“。そして、突然のチャンスにしっかりと応えられるように、常に自分の技術を高め続けること。紹介できる作品を準備しておくことも大事だと思っています」。

 彼女は、自ら人と繋がる場所へ出向き、その積み重ねが新たなきっかけを生む。

会話が苦手だったという幼少期。これほどまでにヤマチハさんを変化させたもの。

“描くことが彼女を動かし、共感の輪を広げ、未来の基盤となっていく。

“人と仕事をする中で大切なことは、自我を出しすぎないこと”。

 クライアントの方々と一緒に仕事をする中で、ヤマチハさんが必ず意識していること。それは、”自我を出しすぎないこと”だそう。

「もちろん自分ひとりで描くときは別ですが、人と仕事をする中では、クライアントさんの要望が最優先です。それを踏まえた上で、『私だったら、どうするかな』と考えて進めていきます。私が『ここは青がいい』と思っても、クライアントのご希望が赤色であれば、赤を起用して創り上げます。『ここが赤なら、じゃあどうすれば良いかな』と、柔軟に考えていくんです。私は、『どこまでも合わせられる』という自信があるので、『私の感性でもっと良くなる』『必ず良い作品にする』といった気持ちを強く持つようにしています」。

 人と仕事をする時と自分1人で描く時の自我の使い分け。また、クライアントの要望や方針にどこまでも沿えるように、臨機応変な対応を心がけているという。

自身の制作の中で絶対に譲れない軸についても伺ってみた。

「仕事においても、自分ひとりの制作においても"違和感を残したまま終わらせないこと"。違和感が残っていたら、絶対に妥協することなく、納得がいくまでとことん向き合います。だけど、私自身まだまだ発展途上なので、今の自分が納得できていても、数年後には捉え方が変わっているかもしれない。当然違和感を覚える面もあると思うんです。それでも私が向き合い続けるのは"今できる最大限の力を出す"という気持ちがあるからなんです。そんな自分の成長過程をすごく大事にしています」。

どこまでも妥協をしないその姿勢には、彼女がいかに自分の技術と向き合っているか、また自分の“好き“を武器に生きていくことへの強い覚悟が感じられる。実際に作品を手に取ったり、デザインを提案したりする際には、技術面だけでなく作家の人間性も重視されるだろう。作品のクオリティはもちろん、絵に対する姿勢や、人間性に魅かれ、『ヤマチハさんの描いた作品が欲しい』、『ヤマチハさんにお願いしたい』と考える人も多いのではないだろうか。手がける作品へのストイックさや、向き合う姿勢の中に、〈ヤマチハ〉というアーティストが、支持され続ける理由と魅力が隠されている。

 “自分が〈苦しい〉と思ったら、その環境に身を置き続けることはない“

ヤマチハさんは、今いる環境に違和感を感じていたり、迷っていたりする人に向けてメッセージを語ってくれた。

「人は生きている限り、少なからず変化していくと思うんです。だから、かつて“自分に合っている“と感じていた場所でも、人の変化や成長によって合わなくなることがあります。ですが、それは次に"合う"人たち、あるいは更に自分に合う居場所を引き寄せるために必要な別れなのかもしれません。今の環境に違和感を感じたまま、我慢して留まり続ければ、本当に出会うべき人に出会えなくなるかもしれない。一歩踏み出すことはすごく怖いけれど、その一歩によって人生が変わっていくこともある行動すれば、自分を見つけてくれる人が必ずいると思うんです」。

 「でもこれは自分に限った話だけではなくて、誰だって同じなので、私は人と距離が生まれてしまうことがあっても、無理に引き留めたりはしないようにしています。相手にも居場所を選ぶ権利があるわけだし。それぞれが過ごしやすい環境をその都度選べたらいいんじゃないかなと思っています」。

“周りに合わせて自分の心を無下にする必要はない ~あなたはあなたを生きて~“

「自分自身を一番大切にしてください。その結果、私は絵を生み出すことができています。それぞれが唯一無二の存在で、あなたはあなたのいいところがたくさんあります。自分が疑問に思うことも、とことん疑っていいと思うんです。例えば、100年前の常識は今では非常識だってこともありますよね。かつて魔法とされていたものが実は化学だったり、未来から見た今なんて、ただの古い情報の塊でしかなかったり。何が正解で、何が間違いとかはないんですよ。だから、周りに合わせて自分の心を無下にする必要はないです。どれだけ人に寄り添ってもらったとしても、自分を知っているのは自分自身。だから、自分を押し殺さずに大切にしてください」。

自分の生きる道を模索し、“好き“を武器に技術を磨き続けてきたヤマチハさん。彼女の言葉は、道に迷っていたり、不安を感じていたりする人に、その一歩を踏み出す勇気を与えてくれる。

今の環境が合わないと感じていたら、無理に留まり自分を制限する必要はない――。

彼女の生き方、志の強さから生まれるその言葉はきっと誰かの希望になる。

彼女の生み出す作品は、これからもたくさんの人々を魅了してくことだろう。

〈ヤマチハ〉

デザイン専門学校卒業後フリーランスで活動を開始。各地の音楽フェス、イベントにてライブペイント/物販デザイン/オブジェ制作を担当。CDジャケット、壁画ペイントなどその他マルチに活動している。

BARIYOKA ROCK’22 Saucy Dog×SUPER BEAVER

陸上七種競技日本記録保持者(山﨑有紀 選手) TRIANGLE’18’22 フジパシフィックミュージック 創立55周年記念イラスト 風と街音楽祭 映画 実写版ブルーピリオド etc.

Instagram: https://www.instagram.com/ymch024?igsh=cGJoZW42cjFsajR6

この記事の執筆者

匿名KUNOICHI;

2000年生まれ。趣味は絵を描くこと!牛丼とタピオカが大好物。2022年より自身もアーティストとして活動中。

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アーティストヤマチハ

福岡県
専門学校を卒業後、現在は福岡を拠点にアーティスト活動を展開。これまで手がけてきた作品は、CDジャケットのイラストやウォールアート(壁画)、また楽器へのペインティングなど多岐にわたる。

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