「こんなことできる?」に真っ直ぐ応え、進化する畳屋さん『奥川畳店』

福岡県福岡市早良区に店を構える『奥川畳店』。
現在は2代目の畳製作一級技能士・奥川俊平さんが実務の大半を担っています。
地域に愛されて51年(2023年現在)。家族で力を合わせて経営を行っているこちらのお店を取材しました。
「お客様からの『こんなことできる?』という要望に対して、やったことがないことでも最大限頑張る!というスタンスで私たちはやっています」
地域密着型のお店だからこそ、手が届く範囲に居る人々の“困りごとの声”が自然と集まってくる。
中には“畳以外”のことで「こんなことできる?」という相談も。そんな声に対してもできうる限り対応しているという。
「例えば、もし転んで怪我したら怖いからガラス戸のガラスを割れない軽いやつに変えたいという要望に応えたこともありました。他にも、お客さんの声がきっかけでカーテンや網戸の取り換えを始めて、その後店として取り扱うようにもなりました。うちは畳が本業のはずですけど、お客さんからの『あれできない?これできない?』という要望に応える中で色々とやるようになりましたね」
本業の畳に関しても時代と共に住宅事情が変わる中で、様々なニーズが生まれているという。
「畳に関してだと、“家に和室がないけど畳の部屋が欲しい”という声が最近多くて。そういう方々の声には洋間に置き畳を置くという提案で対応しています。他にも、介護施設のお年寄りたちが万が一転倒しても危なくないようにお風呂場に畳を敷きたいという要望もありました」
初めての試みであっても、お客様からの要望に誠心誠意応えようと努める奥川さん。
そうやってあらゆる困りごとの声に寄り添う中で仕事の幅も自然と拡がっていく。
試行錯誤で切り拓いた道

奥川さんと奥さま。ご家族のあたたかさが印象的でした。
現在は業務が途切れなくあり、忙しく働く奥川さん。しかし経営に関わり始めた当初は、業界全体の衰退の波を受け止めきれず、大変な日々を過ごしたという。
「結婚を機に店の経営に関わり始めた頃は仕事があったりなかったりという状態が続いて、売上的にも芳しくなかったので将来がとても不安でした。私たちなりに畳を利用したグッズをつくったり色んな工夫をしたりして頑張っても、なかなか直接的な結果が出ない…。どうにかしなければという気持ちで様々な情報を集める中で、全国の畳屋さんが集まる勉強会があると知り、親には内緒で参加しました」
それまでの経営の主導権は父である初代が握っていたため、積極的に介入したり意見をすることはあまりなかったという。
「両親が経営していた頃は私は手伝いという立場で、言われたことしかやってこなかったので、新しい取組みをやるとか、それに伴う費用の捻出とか、そういったことへの意見をしたことがありませんでした。なので、親に内緒で参加した『勉強会』で得た知識を実行に移すときに、初めて経営のことで親を説得をして、というか喧嘩をして(笑)、徐々に経営に関する家族みんなの意識を変えていきました。すると経営改革を始めて1年ほど経った頃から結果が出始めて。最終的には年齢のこともあり父が経営から降りるからということで全部任せてもらえるようになりました」
打開策を見つけるために思い切って実行した『経営改革』が功を奏し、それまで“変わらずに”家族でやってきた店に新しい風が吹き始めた。
「父も職人気質で、私も職人気質。なので本当はつくるほうが好きで、経営のことは今でも苦手です(笑)。だけど、だからこそ今はその部分を強化しているところです」
伝え・残すために

畳屋さんになるための必須資格ではないが、畳業界には『畳製作技能士』という国家資格がある。
畳職人を目指す際の一般的なセオリーとして、まずは畳の訓練校に3年間通い、卒業と共に『畳製作技能士二級』の取得を目指す。しかし、畳業界全体が時代と共に廃れつつある中で、訓練校に通う生徒は激減しているという。
「訓練生はめちゃくちゃ減りました。私が通っていた25年前くらいは、1学年に約10人ほどの生徒が居たのでトータルで約30人。でも今は各学年に1人とか。そんなレベルまで減っています。毎年どうにかして学校を存続させているような状態で。だからこそ必死に畳業界全体で守っています。昔は畳屋さんがいっぱいあったので、お互いに商売敵のような状態だったらしいんです。でも今はそんなことを言っていたら潰れてしまうので、畳屋さん同士は仲良くしようという風潮に変わってきたように思います」
柔軟な思考で地域の繋がりを大切に

『消臭効果があります。ご自由にお持ちください』との記載と共に置いてある“畳表のヒゲ”。運が良ければ、店頭に並んでいますので是非!
少しでもお店のことを知ってもらおう、手に取りやすい商品できっかけづくりをしようという想いから『奥川畳店』ではオリジナルグッズも数多く製作している。
また、地域密着型の畳店ということもあり、地域の行事がある際にはワークショップなどを行い地域活動にも参加している。
他にも、畳を加工する際に切り落とす「畳表のヒゲ」と呼ばれる部分が出た際には、それを店頭に置いて自由に持ち帰ってもらう工夫もしているそう。最高品質の国産畳表なので、天然のい草の香りが素晴らしく、調湿・消臭効果もあるため様々な活用が出来る。普通なら処分されてしまう部分だが、人々に喜んでもらうアイテムへと昇華している。
これらはすべて、少しでもお店のこと・人柄を知ってもらえればとの想いから。商品はもちろん、様々な取組みからも『奥川畳店』のあたたかさが伝わってくる。
畳のことで相談したい方、畳を利用してこんな空間をつくりたい!などの想いがある方は是非『奥川畳店』に相談してみてください。
最新情報はインスタグラム@tatami_okugawa からご確認ください。
この記事の執筆者

ninatte事務所
ninatte九州の運営事務局です。銭湯跡地、旧梅乃湯を拠点に活動中♨事務局ライター数名で日々記事を更新しています。