新しいアートに触れるきっかけに チョークアート教室『B-chalk.LAB』

黒板でもチョークでもない、新しいチョークアート
黒いボードにカラフルなイラストがよく映える作品。チョークアートと言われる、日本に入ってきてまだ15~20年ほどの比較的新しいアートだ。今回お話をうかがったのは、チョークアーティストであり、チョークアート教室『B-chalk.LAB』の講師をされている原亜裕美さん。
学校の黒板に描かれる絵もチョークアートと総称することがあるが、原さんが専門とするチョークアートはそれとは違う。普通のチョークではなくオイルパステルを使い、指で色と色を混ぜてグラデーションを作る。ざらつきのあるボードには色がしっかりと載り、黒板に描くより鮮やかな発色になる。
「チョークアートって学校の黒板の?って思われるんですけど、それ以外にもあるんだよってことを知ってもらいたいです」
そう話す彼女に、チョークアートとの出会いや、アーティスト兼講師として仕事をすると決めたときのことを聞いていった。
やればやるほど知りたい チョークアートとの出会い

"チョークアートで使用するオイルパステル 。全49色の中から色を選びグラデーションを作る
原さんとチョークアートとの出会いは、地元ショッピングモールの本屋のガレージセールだったそうだ。偶然チョークアートの本を見つけた彼女は、その綺麗さに感激したという。
「グラデーション綺麗!可愛い!やりたい!と思って本を買って帰りました(笑)それで、やりたい意欲のままに、本に書いてあった材料を揃えて自分でやってみたんです。まあまあ形にはなるんですけど、本のように綺麗にはならなくて。自力ではここまでか…じゃあちょっと習いに行こうって思って」
ワンタイムレッスンをしていた福岡の教室を見つけ、1回だけ受けるつもりで教室に行ったが、その気持ちはレッスンを受けて変わった。
「そのワンタイムレッスンがすごく楽しかったんです。それと同時に『これ1回だけじゃわからんぞ』って思って、またワンタイムレッスンを予約して…これを3回続けてようやく、『これはもう習おう』と思って(笑)コースレッスンの申し込みをしました」
自分でやってみたことで、思ったようにできない、もっと知りたい、習いたいという想いに行きついた原さん。本を通じた出会いはもちろんだが、とりあえずやってみようと家でチョークアートを描いてみたことが、チョークアートの道に深く入っていく最初のきっかけになっていた。
通学は片道1時間半 その時間も楽しかった

"色を数色塗り、隣り合う色を指で混ぜてグラデーションを作る
チョークアートを習うことを決めた原さんは、当時暮らしていた佐賀県から月に2回、福岡の教室まで通うようになった。仕事もしながら片道約1時間半をかけて通うことは意外にも苦じゃなかったという。
「仕事との両立は大変じゃなかったですね。描きに行くのが楽しいので。車で移動してる間も『今日は何描こうかな~』って考えたり、お菓子食べたりして(笑)」
また彼女にとって、福岡のチョークアート教室まで習いに行くことは、もともと持っていた『一人で行動すること』への苦手意識を変えてくれたものでもあった。
「末っ子で、ずっと姉の後をついて回るような子だったんですけど、チョークアートに関しては、ワンタイムレッスンも自分で探して、予約して、初めての場所に運転して行って、それで『あ~楽しかった』って思えたことが、自分でも驚きだったんです」
月2回のレッスンが生活の中の一つになった彼女は、通い続けて7年が経ったころ、チョークアート教室の講師にならないかというお話をいただいたそうだ。
生徒が創作する姿から、今も学ぶ

”チョークアート体験の様子
当時の職場を退職し、チョークアートの講師兼チョークアーティストとして働くことを決めた原さん。
生徒に教えることで、逆に自分の学びになることも多いという。
「どこが違うのかなってすごく観察するようになりました。グラデーションを作るときの指の力加減とか、色の明暗によってオイルパステルの硬さが変わることとか…自分が今違和感なくやっていることが、初めての方にとっては分からないと思うから。『ここが違うんだ、昔の私もそうだったな』って気づくことで、私も勉強になります。その感覚を言葉にして伝えることも難しいんですけどね(笑)」
意外なことに、彼女は幼いころから『私は絵がうまくない』と感じていたそう。そんな彼女が講師になった今だからこそ想うことがあるという。
「本当に絵が上手じゃないと思っていたので、部活や習い事で絵に関わってきたことも一切なくて。チョークアートは色塗り感覚で始めたんです。でもグラデーションができると立体感が出て上手に見えるんですよ!絵の具や筆だと難しいって方も、チョークアートは自分の指を使うし、間違っても消しゴムで消せたり、はみ出しても黒色鉛筆で隠せたりするので、すごく修正がきくアートだと思います。絵が得意な方はもちろん、苦手だと思っている方にもやってみてほしいです」
小さな『やってみたい』から始まった大きな変化

原さんがチョークアートの道に進むことを決めた時期は、ちょうどコロナウイルスが流行した頃だった。コロナが落ち着いてきた今、まずは多くの方にチョークアートの存在を知ってほしいという。
「生徒を増やすとかそれ以前に、チョークアートそのものを普及したいです!ワークショップやマルシェに参加して、まずは1回体験してもらえたらいいなと思ってます」
一人で行動することが苦手だったという彼女が、イベントや展示会に出るようになったことも、チョークアートの活動を通じて小さな気づきや変化の積み重ねがあったからではないだろうか。
「絵が苦手だし、どうせ自分の作品なんてって思って、一歩が踏み出せずにいたんです。同じように感じてる方いらっしゃるかもしれないですけど、大丈夫です。刺さる人が誰かいるので!続けていれば自分の技術も上がりますし、小さくてもいいから、SNSで発信したり、マルシェに出てみたりして、お客さんの反応を見られるだけでもすごく楽しいです!いいねが一個もらえるだけでも嬉しいですしね。そんな風に外に発信してみると、自分の作品作りもより楽しくなると思います!」
本屋さんでの出会いから始まり、その当時は思ってもみなかったチョークアーティストとして働く彼女。
『やってみたい』というシンプルな気持ちから、できる範囲で、少しづつ起こした行動が積み重なって、大きな変化になっているように感じた。