何を撮るかではなく、どういう想いで撮るか。 『日々撮影所』写真家・柴田ゆう子

糸島にある古民家フォトスタジオ『日々撮影所』。

この場所を営む写真家の柴田ゆう子さんは、一回だけシャッターをきる撮影会『一発屋写真館』という活動も行っている。

写真を通して様々な活動を行っている柴田さんがどのような想いで写真と向き合っているのか、今回お話を伺った。

一発屋写真館

『――2016年6月。○○屋さんという名目でイベントに参加する為、ダジャレで思いついた“一発屋”から一回だけシャッターをきる撮影会を開催しました』

このように語る柴田さんの『一発屋写真館』は今年(2024年)で8年目を迎え、これまでに539組の方々を撮影してきた。

これは柴田さんご自身が“シャッターをきることを楽しみたい”との想いもあり始まった活動で、現在は自分で暖簾を掲げて開催するのではなく、呼んで頂いた場所で不定期に開催するというスタイルで行っている。

「『一発屋写真館』の日はすごく緊張します。怖いし、行きたくないなと思ったりもするんですけど(笑)、やり終えた後に感想を聞いたり面白い場面に出会えたりしたことを考えると、やっぱり“最高だなあ”と思います。だから、また呼ばれたら行っちゃいますね」

気持ちと指のタイムラグ

"『一発屋写真館』での一枚。ご家族皆さんの豊かな個性が輝いている。

写真家として仕事でもシャッターをきる日々を送っている柴田さんがあえて『一発屋写真館』もやろうと思ったのはなぜだろうか。

「写真を撮り始めた最初の頃って、何も考えずに撮ることが出来るじゃないですか。だからハッとした瞬間と指が一緒くらいなんですよね。でも、技術的なことを覚えて、さらに仕事としてカメラを扱うようになると、“見るべきところ”がめちゃくちゃある。“一発撮り”は仕事で撮影するスタイルとは全く違って、一枚の重さがすごく感じられるんです。仕事としてフォトスタジオで撮っていると、たくさんシャッターを押した中から選ぶことになるので、一枚に集中するのがキツくなってくるというか、 “当たっていればいいな”みたいな気持ちで撮っている部分もあって…。もちろん、ハッとしたと同時に全てを見た上でシャッターをきる、その時間をできるだけ短くするのがプロの仕事だと思うんですけど、それでもやっぱりこぼれ落ちてしまう時間っていうのがあるので。そうやって意識もされずに押してしまっている瞬間がたくさんあるのが嫌で、そうなり続けないためにも一発屋が必要でした」

コンマ何秒の差でしかないが、その一瞬の判断の違いで見える世界が全く異なることを突き付けてくるのが『一発屋写真』だと柴田さんは言う。

「実際にあったのは、例えば、ずっと何もしなかった赤ちゃんにママが声を掛けたら急にバンザイってしたんです。でも私がシャッターをきるのがコンマ何秒早かったから、手がちょっとかぶっちゃって…。その後しばらくそのことを悔やんだんですよ。でもふと、コンマ何秒に対してこんなに想いを馳せているっていうのは良いことなんじゃないかと思ったんです。一回だけだからこそミスしたことに対しても、『あの瞬間に撮っておけば』や『あの後にもっと良いのが来たかもしれない』と前後を含めた全部の瞬間にすごく想いを馳せている。もしこれが仕事だったら、たくさんシャッターをきってその中から良い写真をセレクトすれば終わる話なので。一発屋写真館を始めて今年で8年目に入りますけど、7年目にしてそういうことを凄く感じました」

きっかけは“1本の木”

"海辺で趣味の撮影を楽しむ柴田ゆう子さん。

写真という切り口で“世界”をつぶさに見つめようとする柴田さん。そんな彼女が写真を撮り始めたきっかけは何だったのだろうか。

「不思議な話なんですけど、17歳の時にとある立ち枯れそうな木を見て『あ、撮らなきゃ』と思ったんです。その時は木のほうから『撮って』って言われたような気がして…。そこで家にあったカメラを引っ張り出してその木を撮ると、どこか安心したような気持になりました。それから急に写真を撮るようになりましたね」

その後、趣味で撮影を続ける中で、人物を撮ることに面白みを感じるようになったという柴田さん。そんな彼女にこれまた不思議な体験が訪れる。

「ある時、地元の河川敷をカメラをぶら下げて歩いていたら、土手の上で全然知らないおじいさんに『わしを撮ってくれ』って声をかけられたんですよ。その頃はフィルムカメラだったんですけど、何枚かシャッターをきっていたら『ああ、もういいもういい。もったいない』って仰って。『そうですか』と言って土手を下りながら妙に気になって振り返ったら、おじいさんがこちらに向かって手を合わせていたんです。その光景を目にした時に“うわっ”てなったのと同時に『私、見たよ』って思って。現像した写真が欲しいとかそういうわけではなく、なんだか“見て欲しかった”のかなと思って」

木も、もし森の中にあり誰からも見られることがなければ、世界に“存在しないこと”になっていたかもしれない。

「見ることで“存在する”っていうのを、おじいさんの時は強烈に感じて。だから『私、見たよ』ってすごく思って。あれは忘れられない体験でしたね」

『一発屋写真館』に見出した、ある感覚

"とあるご家族の何気ない瞬間を切り取った一枚。

“ハッとしたと同時にシャッターをきる”ことに向き合う中で、フィルムカメラというツールが柴田さんにとって最も適していると感じられるものだった。だが、時代の流れとともにフィルムカメラが置き去られて行く中で、活動に様々な弊害が伴うようになっていった。

そこで柴田さんはデジタルカメラを使って、フィルムカメラで臨むような気持になれないか、と試行錯誤を始めた。

「フィルムカメラでの撮影が楽しくて趣味で撮っていたんですけど、だんだん印画紙などが高くなっていって、続けられないなと思ったんです。そこで、デジタルでやってみようと思ったのですが、向き合う時の気持ちが全然違って。その気持ちの違いは何だろうなと色々と考えました。デジタルはモニターですぐに確認できるのがいけないのかな?と考え、モニターにガムテープを貼りましたが、どうも違う。色々と試行錯誤をした後に『一発屋写真館』をやってみたら、偶然だったのですがフィルムで撮る時と向き合い方が似ていたんです。その時『なるほど、方法だったのか』と思って。こちら側の“向き合い方”の問題だと気づくことができた時に『まだ遊べるな』と、希望が湧いてきましたね」

フィルムカメラに感じていた純粋な楽しさをデジタルで追求する中で、似た感覚を創り出すことができるようになった。その方法である『一発屋写真館』は柴田さん自身が大きく成長するきっかけとなった。

日々の写真をより良く、日々を写真でより良く

"ウェディングフォトプランでの一枚。出張撮影など、様々なプランがあります。

「撮影をした方々から『(写真を見て)私って幸せなんだなと思った』という感想を頂くことがあります。そんな声を頂いた時に、写真は自分の幸せを客観的に見るものでもあるんだなと思いました。写真の中の自分が幸せそうに笑っていると思った瞬間に、過去も同時に肯定できると思うので、さらにここから先にも希望が持てたりするんじゃないかなって。みんな色々あるし、ずっと幸せな人なんていないけど、写真を撮ることでその“全部”の中にある幸せそうなものが実は見えるんですよね。日常は流れているから気づきにくいけど、“瞬間”でしか存在しないものを捉えるのが写真かなと思っています」

『日々撮影所』のテーマとして掲げている『日々の写真をより良く、日々を写真でより良く』の“日々を写真でより良く”にはこのような想いが込められている。

そして“日々の写真をより良く”には、写真が必要な方へサポートをしたいという想いが込められている。

例えば、マタニティ撮影の他に“ママのためのフォトレッスン”というプランが用意されており、(マタニティ撮影の時に)赤ちゃんの撮り方を学ぶことで、ママが自分で上手に撮影できるようになるというサポートプランだ。

“何を撮るかではなく、どういう想いで撮るか”、この想いを大事にしている柴田さんの『日々撮影所』。福岡県・糸島にある古民家を改装したフォトスタジオで、これから多くの方々の“瞬間”が刻まれていく。

『日々撮影所』では、ライフイベントに合わせた撮影やペットの撮影、お人柄がきちんと伝わるように丁寧にカウンセリングをしてのプロフィール写真撮影、その他日々の撮影など様々な撮影プランを用意しています。

是非一度、ホームページをご覧ください。

ライター:宮原 咲希

所在地:福岡県糸島市二丈上深江961-1

ホームページ:https://hibisatsueisho2.com/hibi/

Instagram:日々撮影所 / 一発屋写真館

この記事の執筆者

ninatte事務所

ninatte九州の運営事務局です。銭湯跡地、旧梅乃湯を拠点に活動中♨事務局ライター数名で日々記事を更新しています。

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写真家柴田ゆう子

福岡県糸島市二丈上深江
『日々撮影所』では、ライフイベントに合わせた撮影やペットの撮影、お人柄がきちんと伝わるように丁寧にカウンセリングをしてのプロフィール写真撮影、その他日々の撮影など様々な撮影プランを用意しています。

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