次世代に色濃く残す、伝統工芸「甘木絞り」

豊かな自然と筑後川の良質な水を活かし、水のふるさとと呼ばれる朝倉市。
福岡県中央部に位置し、由緒ある歴史が紡がれるこの町で、伝統のある『甘木絞り』を行う人物がいる。日ノ目スタヂオの代表を務める、西村政俊氏である。甘木絞りという伝統工芸に活路を見出し、現在独自のブランドをミックスさせた『hinome(日ノ目)』を、展開している。
甘木絞りについて

甘木絞りとは、 福岡県朝倉市(旧甘木市)にあった絞り染めの技法である。絞り染めとは、布の一部を縛り、染料が染み込まないようにすることで模様を作り出す技法だ。甘木絞りの特徴は、木綿の布と、藍色の染料を用いること。木綿と染料はどちらも自然由来のものだ。白い染め残しと藍色の濃淡による表情は一点物で、同じ作品は二度と作れないという。
hinome代表、西村政俊氏
日ノ目スタヂオ代表の西村さんは、元々ファッション専門の学校に通っており、その後は県外にて、服飾関連の仕事をされていた。しばらくして福岡に帰郷することを決断。せっかく帰ってきたのなら福岡に関わる仕事をしたいという思いから伝統工芸品「久留米絣(がすり)」のメーカーに携わることに。
「僕の地元がこちら朝倉市、旧甘木と言われていたところでして。自分の地元にも久留米絣みたいな工芸品はないかなと調べた時に甘木絞りと出会いました」
西村さんによると、久留米絣に関わる前から地域の工芸品が好きという。旅行の際も、その地特有の品や工芸品を購入して集めているそうだ。
日ノ目スタヂオ

ズラリと並ぶ、藍色の鮮やかさと温かみのある日ノ目の作品は、染めから販売までを同じ場所で行っている。
時には、催事などでポップアップイベントも行っていたり、無印良品など、店で通年取り扱ってくれたりするところもある。
店内でまず目を引くのは、大きなキャンバスにある藍染されたうさぎのアートである。

「これは僕が作ったやつで。通常の絞りのやり方とは違うんですけど。通常の甘木絞りは糸で塗ったり絞ったりするのですが、これは布を重ねて、その枚数を変えて濃淡を変えるっていう。完全にアートみたいな感じで作った物です」
染めを行っている場所も、西村さんの特注で作った物とのこと。
「ちなみに今染めているものはうちの商品じゃないんです。最近は別のメーカーさんから藍染や絞り染めの依頼がきたりしています」
西村さんのところには、服だけではなくお店の暖簾や旅館の内装に使うパネルの依頼もすごく増えてきている。

布だけじゃない、唯一無二の藍染
続いて、商品のラインナップを見せていただいた。西村さん曰く、甘木絞りの特徴として、糸を縫って絞りの模様を出していくので、絵を書くような感じに近いという。
「一応僕のところでは、こうした甘木絞りの特徴も出しつつ、いろんな絞りのパターンも取り入れてます。いわゆる一般的な絞りっぽい物とかも。絞りの出方とかも一点一点変わってきます」
洋服のアイテムがメインだが、日田杉を使った下駄やバックなどの小物もある。自然由来のものであれば染めることができるため、ボタンも藍色にできるという。

今後の想い
「今は原材料は仕入れてやってるんですけど、今後は自分で藍を育てて染料にしたいなと思ってます」
西村さんは現在、知人に土地を借りて藍を育てる取り組みをしている。農業の分野は未知の領域で苦戦しながらも続けているそうだ。
また、今後の甘木絞りとしての伝統工芸についても展望を伺った。
「日ノ目スタヂオとして、色々やっていきたいことはあります。ただ、ベースでは伝統工芸を続けていきたいですね。続けて行くために若い人たちがどうやったら入ってくれるか、そういったことを考えることが多いです。自分だけやってても縮小して行くと思うので。もう少し伝統工芸というものが広がって行かないと難しいと思います。日ノ目のブランドも、経営という観点がやっぱり大事になってくるので、発信も大事ですし。販売も軌道に乗って行くにつれて人手が足りなくなってくるので弟子を取るとか、次のステップに行かないとって感じですね」
伝統工芸という文化を後世にも受け継ぐために、まずは身近に触れ、知ってもらう必要がある。西村さんは定期的に甘木絞りの体験ができる活動も行っており、地元の子供達にも甘木絞りを知ってもらう場を設けている。新しい時代だからこそ、廃れていくのではなく変化させて次に繋げる。甘木絞りを根底に、現代に合わせ進化したモノを生み出す必要がある。西村さんの著書である「せめろ!でんとう!」では、伝統は新しいことに挑戦し続けるとある通り、西村さんは今後も新しい商品、取り組みをしていくだろう。
筆者自身も、インタビューを通して文化というモノに触れる機会が多くある。古くからある日本の文化に、日の目が当たるよう行動していきたいと思う。

藍色に染まる日ノ目の商品は、実際に手に取って見たり触れることが出来るため、ぜひ朝倉に来た際は覗いて欲しい。
同じ柄を再現できない一点物、経年変化も楽しめる商品は目を見張るものがある。