生活も音楽も、末永く。シンガーソングライター a fool hippo

福岡市周辺の街のイベントなどで、オリジナルソングを弾き語るシンガーソングライター、a fool hippo(ア フール ヒッポ)さん。(以下ヒッポさん)
『ゴミとダンス』 『仕事に行きたくない!』 『WiFiないと生きていけない』など、日常的な要素をテーマに作られた楽曲は、そのシュールなタイトルと歌詞にどうも引き付けられる。活動拠点である東区箱崎では、お店のテーマソングを進んで作詞作曲することもあるのだとか。一人で曲を作っては、ネット上にアップし、たまに人前で演奏するというサイクルで日々活動している。
“作詞作曲を一人で行い、公開し、知らない人たちの前で歌う”
つい尻込みしてしまうようなアクションを、なぜこうも軽やかに行動に移せてしまうのだろうか。
ヒッポさんのお話を聞いていくと、小さく確かな一歩を積み重ねてこられたことが分かった。
音楽への一歩:眼鏡をかけた自分に眼鏡のボーカルが刺さった

ヒッポさんが初めて音楽に興味を持ったのは15~16歳の頃。『NUMBER GIRL(ナンバーガール)』と『ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアンカンフージェネレーション)』(以下アジカン)の音楽スタイルが、当時のヒッポさんにばっちりとハマった。
それまでは部活そっちのけでウェブサイト制作に励むなど、音楽とは全く別ジャンルのものづくりが好きで、むしろ音楽に対しては苦手意識まであったそう。
「ナンバーガールもアジカンも、どちらも眼鏡をかけたギターの人が歌っていて、なんか自分も親近感。それまでは音楽とか、結構自分には縁遠いものっていうイメージがあったんです。カラオケも苦手で行かないし、クラスの人気者が楽しむものみたいな。当時は青春パンクみたいなのが流行ってたんですけど、それもあんまりしっくりこなくて。そんなときアジカンのギターロックな音楽を聞いて『すごい良いな』って思って。その勢いでヤマハに行って、安いギターを買っちゃいました」
それからは教則本を読んでコードを覚え、アジカンの曲のワンフレーズを見よう見まねで弾いてみるという生活に。
自分にドンピシャで刺さった2つのバンドとの出会いが、音楽そのものへの最初の一歩だった。
作曲への一歩:落語サークルと曲にならなかった音の供養

都会的な街並みとタワーレコードのCDの多さに魅了され、大学進学とともに福岡県へ引っ越し。大学ではバンドサークルに入ると決めていたものの、先輩からの熱い勧誘に胸を打たれ、落語サークルに入部することに。
「落語サークルと掛け持ちができる」という条件でバンドサークルを選ぶことになるのだが、これが意外にも現在の作詞作曲活動につながってくる。
当時大学にあった5~6のバンドサークルの中で、ヒッポさんは一番活動ペースが自由なサークルを選んだ。大きなサークルではなかったが、コピーよりオリジナル曲を歌う人が多く集まっていた。
「雰囲気もすごくいいなと思って。皆さん個性的な音楽をされてあったんで」
所属後はヒッポさんもバンド仲間とオリジナル曲を制作し、練習する日々。高校までバンド経験がなかったヒッポさんにとって、曲のアイディアを出すことは簡単ではなかった。
「当時はワンフレーズだけとか、断片的なものしか作れなくて。繰り返し弾いてベースとかドラムに合わせてもらって。それがいい方向に着地するときもあれば形にならないときもいっぱいあったんです」
a fool hippoの活動は、そんな曲にならなかったワンフレーズからはじまった。
「曲にならなかったアイディアの供養というか、一人で形にしてみようと思って。一人で作って、なんとか録音して、ネット上にアップしてみたんです。アップするときに名前が必要だったんで、家にあったイソジンのカバの人形からa fool hippoって名前をつけました」
ボツになったワンフレーズを一人で曲に仕上げてみる。作曲の動機はとてもシンプルだ。だが些細な選択が一つでも違えば、a fool hippoは誕生しなかったのかもしれない。
ライブへの一歩:休職中、人生初のストリートライブ

音楽が好きでバンドの経験がある人は多くても、それをずっと続ける人は少ない。社会人になったヒッポさんもその一人だった。大学を卒業し音楽と疎遠になった後、もう一度触れてみようと思ったきっかけは、心の病による休職期間だった。
「ギターを弾くくらいしかすることがなかったっていうのもあるんですけど。それまでは仕事が結構忙しくて、気持ちの余裕もなかったと思います。休職してる期間に日常のありがたさみたいなものを感じて、そういうのって曲になるよなって気づいて」
そうして再び曲ができはじめた頃、自分探しのような気持ちで、初めてのストリートライブをやってみたそう。かなり勇気を出したのではと尋ねると、「立ち止まる人もいないので」とサラッと答えるヒッポさん。
さらに苦手意識があった歌にも挑戦してみた。ボイストレーニングにも通い、今では弾き語りライブをするようになっているのだからすごい。
「もともとため込みやすい性格で、それを発散することも上手くできずっていうところもあったんだと思います。曲を作ると自分で歌詞を考えていくので、多少なりとも頭の整理になったり、ストレスの気晴らしになったり。そういうのはすごいあると思います」
「休職したことも、ある意味音楽を始める自分の中でのきっかけだったと思うんですよね。あれがなければ、今みたいに音楽を作っていなかったかもしれない。仕事だけに一生懸命な日々が続いてたかもしれない。だから本当にどうなるかわかんないですね」
生活とともにある音楽

現在は仕事と音楽活動を両立しているヒッポさん。仕事終わりに曲を作り、完成したら行きつけのお店へ。お店の方や常連さんにすぐ聞いてもらうという流れがお決まりだそう。
1曲を作るペースも段々と速くなり、今では発表が追いついていないアルバムが13枚ほど溜まっているのだとか。
「出そうとしてる間にまたできていくので、40~50歳になってもまだ発表続けてるかも」と笑いながら話してくれた。
「いろんなところで歌わせてもらって、立ち寄ってくれる人がいて、今かなりありがたい状況なんです。ライブで友達に聞いてもらうといろんな反応が返ってきて、それを聞くとまた曲を作ろうって思える。そしてまた発表する。そんな風に気持ちと行動が回っていく感覚があります」
思いのままに表現されているイメージだが、より多くの人に聞いてほしい、YouTubeの登録者数が増えてほしいという思いもあるそう。作詞作曲もライブも、人の目や評価を気にしていないわけではない。ただ行動を起こすときは「やってみよう」「面白そう」という自分の素直な気持ちに従う。ヒッポさんの何気ない行動や選択からは、そんなシンプルな流れを感じた。
最後に今後の目標を尋ねると、「ありのままというか。無理ないペースで、末永く続けていけたらと思ってます」と穏やかに話してくれた。
ヒッポさんにとって、働いて生活することと、音楽で表現することは切り離されたものではなく、毎日一緒にあるものなのかもしれない。
◇ a fool hippo
Instagram:@a_fool_hippo
ホームページ:https://bakanakaba.wixsite.com/afoolhippo
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@afoolhippo
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a fool hippoさんの楽曲は、YouTube、bandcampから無料で聞くことができます。ぜひご視聴ください。