“人気”は自ら創りだす! サイコパス大将がつくる、脂うどん『うどん箱太郎』

福岡市東区・箱崎にある住宅街の一角に、行列が絶えない“うどん店”がある。なんとこのお店、営業は午前のみで看板すらも出ていない。

大人気店『うどん箱太郎』

扉を開くと、『脂、足りてますか?』という強烈なキャッチコピーが迎える。

この店のウリは上質な脂が浮いた“脂うどん”(中でも月見うどんが人気)。聞き慣れないジャンルだが、北九州エリアの名物うどんをベースに考案されている。この脂うどんに惹かれたのはもちろんだが、大将の箱太郎さんこと酒井智浩(さかい・ともひろ)さんの個性と人柄にも魅了され、今回お話を伺った。

自らを“サイコパス大将”と名乗り、美味しいうどんづくりはもちろん、ブランディングもしっかりと行い、確実に『うどん箱太郎』の熱狂的なファンを増やしている箱太郎さん。

経歴も非常にユニークで、プロボクサーや船乗り、トラック運転手、ユーチューバー、珈琲屋店主等多くの職業を経て、うどん屋店主へ。

様々な経歴を経てもなお、箱太郎さんが進化を止めなかったことには何か理由があったのだろうか。

「中学卒業後すぐにプロボクサーとしてデビューしたことで、仕事とトレーニング以外の時間が無くて、遊ぶ時間がなかったんですよね。だからしっかり稼いで遊びたいって気持ちが当時は強くありましたね」

ボクシング以外の道へ進んだ後も、“何か”で起業しビジネスチャンスを得たいとずっと思っていたという箱太郎さん。その想いの根底には、“稼ぐこと”への妥協のない強い信念があった。

美味しい=上手くいく、ではない。

箱太郎さんが船乗りの仕事をしていた時に趣味で始めた珈琲。それは周囲も「世界一美味しい」と認める味にまで昇華されていった。

その自信と共に珈琲屋としての道を志し、北九州から福岡市内へ転居。そして念願の珈琲店を構えたが、現実は厳しかった。

「世界一美味い珈琲づくりに自信のあった自分が、世界一美味い珈琲を売れば、利益が出てお客様が来ると思いよったんですけど、あんまり来なかったですね。味が曖昧な有名ブランド店の珈琲は売れても、自分の珈琲は売れない。その現実を痛感しましたね。だから、次に何かやる時は美味しいのは当たり前で、ブランディングとかマーケティングもちゃんとしておかないと、もう絶対に売れないなって」

人生を変えた出会い

珈琲屋としてはなかなか上手くいかない時期を過ごしていた箱太郎さんだったが、その合間にユーチューバーとしての活動もスタートし、コンテンツづくりに励んでいた。

そんな時に、運命的な出会いが訪れる。それが、ラーメン『駒や』店主・倉田承司さんとの出会いだ。

「たまたま食事に立ち寄った駒やで、倉田大将と出会ったんです。その後、何度か店に通う内に、『近々、ラーメン屋2号店をやる』って話があって。その場所が、なんと当時自分が住んでいた建物の1階。そこから倉田大将と親しくさせてもらい、よく飲みにも誘ってもらいました。そんな場で倉田大将から『(ラーメン屋2号店は)夜しか開けん。朝も昼も閉めておく』って話を聞いて。『それなら午前中、自分がうどん屋をやってもいいですか?』って、言ってみたんです。当時は珈琲屋があんまり上手くいってなくて、でも生活はせないかんからトラックにも乗っていたんですよね。そんな状況を変えたいっていう気持ちもあって、本気でうどん屋をやりたいと思ったんです。その時すでに『駒や』はSNSを含めてかなり盛り上がっている人気店だったので、倉田大将にそのPR手法もしっかり教えてもらいました。しかも、うどん屋を始めた当初は、倉田大将が駒やの常連のお客様に『箱太郎に行っちゃって(行ってみて)』と声を掛けてくれていたので、良いスタートダッシュが切れました」

“起業したい”という想いを常に持ちビジネスチャンスを探っていた箱太郎さん。倉田大将との出会いで生まれたチャンスは、常にアンテナを張っていたからこそ巡ってきたきっかけだと言える。

そして、なぜ『うどん屋』だったのかと言うと、北九州出身の箱太郎さんが地元の朝うどんをこよなく愛しているということが一番大きい。

そもそも麺が大好きで出勤前に毎朝うどんを食べていたという箱太郎さん。好きが高じて北九州中のいわゆる“どきどきうどん”を食べ尽くしたそう。その旨さを知っていたからこそ、福岡市内で朝うどんとして“どきどきうどん”をやれば勝機はあるという確信を持てたのだという。

※北九州名物の『どきどきうどん』。大きな牛肉がゴロゴロと入っており、出汁の表面に脂が浮くため「ぎとぎとしている」様子から転じて「どきどきうどん」として定着したという。

師匠からの大切な教え

SNSを中心にかなりの人気を博し、多くのファンから絶大な支持を集めている『うどん箱太郎』。ビジネス的なSNSの運用方法や、人気店としての心構えについてなど多くのことを教わったのも、やはり倉田大将からだったという。

「駒やがラーメン屋として一気に成功していく様子をリアルタイムで見ていて、その方法を教えてもらっていました。うどん屋を始めた当初は、結構お客さんがいない時間とかも多かったので『今なら空いてますよ』みたいな投稿をインスタグラムのストーリーズにアップしてたんですよ。でも倉田大将から『絶対にそれはするな』って言われて。『いつでも食べられるお店には誰も来たいと思わないから、とにかく人気店になるまでは人気店のふりをし続けろ』って。それを聞いて、『なるほどな人気店のふりをし続けん限り、人気店にはなれんのやな』と思って。だから、最初の頃は本当は人気店ではなかったけど、その当時から人気店としてずっと演じ続けてきましたね。倉田大将の教えの中でも、そこは結構肝の部分やなと思っています」

幸せの輪郭

これほど大人気のうどん屋であるならば、更なる売上げのことを考えるともう少し長く営業したほうが良いのではないか?との安直な疑問を箱太郎さんにぶつけてみたところ、これまた意外な言葉が返ってきた。

「現在は営業時間としては7時から12時の5時間でやってますけど、本当は1時間短くして1日4時間営業にしたいんですよね。他の個人の繁盛店って3時間くらいしかあけてなくても完売してるから。それにこれ以上店の規模を大きくしようとかは考えてないですね。単純にきついのもありますし、昔、力いっぱい遊んだおかげで今は物欲が本当になくなったので(笑)」

自分のやりたいことは何なのか、自分が求めるものは何なのかを正確に把握し、そこに必要なことであれば人一倍の努力を怠らず、必要でないことは削ぎ落す。“やらないことを決める”ということは、自分にとっての幸せの輪郭をしっかりと把握している人にしかできないことだ。とても気持ちよく『営業時間を減らしたい、そして(売り上げを落とさずに)それができる』と語る箱太郎さんに、経営者そして人間としての大きな軸を感じた。

圧倒的な努力の賜

うどんの仕込みや片付けの時間にマネジメントやブランディングについての勉強を同時並行で行い、膨大な量のインプットを行っているという箱太郎さん。そして毎日のYouTube投稿等でアウトプットも欠かさず行っており、“行動”の何たるかを態度で示している。→YouTube 『うどん箱太郎』

箱太郎さんはそうやって“人気”を自ら創りだしてきたのだ。

「もし、飲食店で集客に困っているとか、これからお店を開こうと思っているけど不安な人とかが居たら、いくらでもアドバイスしますので是非声かけてください。自分も協力できるし、その人に協力することで自分自身もレベルアップが出来るんで」

取材の最後にこのようなお言葉をいただいた。

常にフラットな姿勢で、知識や情報を惜しみなく共有するその姿勢は、実績と自信があるからこそできるように感じた。

そんな箱太郎さんがつくりだす、とんでもなく美味しい最狂の脂うどん。すでに中毒になっている熱狂的なファンが多いお店だが、まだ食べたことがない方は是非体験して欲しい。箱太郎さんが創り出した空間込みで、素晴らしい食体験ができること間違いなしだ。

うどん箱太郎
〇所在地:現在は「福岡県福岡市東区松崎2-4-42-2」へと移転されています
〇Instagram:https://www.instagram.com/hakotarou85/
〇営業時間:水・木・金 8:00 - 10:00
〇詳細はインスタグラム@hakotarou85にてご確認ください。

この記事の執筆者

金子華之

福岡市出身。層を一枚一枚たどるように、人や物の背景にあるストーリーを、聞いて、書くことが好き。2025年はストレートネックを治したい。

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行列が絶えない うどん店うどん箱太郎

〇所在地:現在は「福岡県福岡市東区松崎2-4-42-2」へと移転されています
〇営業時間:水・木・金 8:00 - 10:00
〇詳細はインスタグラムにてご確認ください。

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