「これが最後の挑戦」町と未来を紡ぐハンドメイド作家 MEME

まだ夏の暑さが残る9月の土曜日。
イベント会場をすり抜ける風に乗って、優しい声が耳に届く。

「南さつま市で拾ってきたシーグラスで作ってるんです。手に取って見てくださいね」。

同時に目に入って来たのは、南さつま市坊津町について書かれたポップだった。
話を聞いてみると、MEMEさんは南さつま市坊津町の出身だそう。

「シーグラスをきっかけに、地元のことを知ってもらえたらと思って」。

少し照れくさそうに話すその言葉の奥には、深いストーリーがあった。

医療業界を経て「創りて」へ

服飾の専門学校への進学をきっかけに福岡へやってきたMEMEさん。
卒業後は服のお直し屋さんで働いたり、古着屋さんでリメイクをしたり。
「フリーターでしたね、フラフラしてました」と笑いながら話す。

安定を求めて医療事務を学び、病院に就職したのは25歳の頃。
慌ただしい医療現場に身を置きながらも、“作ること”への情熱は消えなかった。
アクセサリー作りの技術を独学で身につけ、オンラインショップで販売。
当時作っていたのは、インパクトのある大きめなアクセサリーだった。

「キラキラしたアクセサリーは着けるタイプじゃないけど、作るのが好きで。かわいいと思ったパーツを買ってきて、そこから何を作るか考えてました」。

結婚、出産を経て約10年勤めた病院を退職したのはコロナ禍の最中だった。
お子さんの保育園が見つからず、ご主人は単身赴任で東京へ。
育児と地域とのやりとりに追われる日々の中で、「家でできること」を模索し始めた。

「結婚してからアクセサリー作りは止まってたんですけど、やっぱり何か作りたい。40歳過ぎて、最後の挑戦かなって思い切って」。
元々ものづくりや、絵を描くことが好きだったと話すMEMEさんにとって、自己表現としての創作は自然なことだったのだろう。

創作の先に見つけた、自分らしい使命

2024年10月。馴染みのカフェから「何か作ってマルシェに出しませんか?」と声がかかり、出店することに。
そこではママ友から依頼のあったスマホショルダーや子ども用のヘアアクセサリーを販売した。
その後、様々なイベントに毎月出店し続けている。
ところが何度かイベントを経験していく内に、壁にぶつかった。

「作家の皆さんはそれぞれの世界観があって、圧倒されちゃって。私は頼まれたものを作っているだけだったんですね。喋りは苦手だから接客できないし、自分の作品をオススメできない。だから、結構へこんでしまって」。この経験がMEMEさんの活動の方向性を大きく変えることとなった。
本当に作りたいものは何なのか。自信を持って語れることは何か。
そんな時、頭に浮かんだのは南さつま市の地域おこし協力隊員の言葉だった。

「東京の移住フェアに行くと、南さつま市は99%知られてないって嘆いていらっしゃって。私が何かしたところでどうにかなる問題ではないんですけど、今まで拾ってきたシーグラスをきっかけに知ってもらえたらと思って」。

忙しい子育ての合間を縫って、確保できる制作時間は1日に3〜4時間程度。
MEMEさんのアクセサリー作りは、あえてデザインを決めずに手を動かしていくスタイルだ。

「行き当たりばったりで作ってます。割れてたり欠けてたりするのも、削らずにどうにかして使いたいと思って。どことどこをくっつけたらいいかなって、パズルみたいに。
作っている時は無になれます。“無”になれる時間、好きですね」。

それはまるで、過疎化が進む地元の「今の姿」をそのまま受け止め、活かそうとする姿勢と重なる。

シーグラスのアクセサリーでつなぐ、町と未来

帰省するたびに、増えていく空き家と更地。
MEMEさんが通っていた保育園・小学校・中学校は今はもうない。
地域の足となっていた路線バスも、今年から無くなった。

「中学校は何年か前に取り壊しになりました。ちょっと小高い坂の上にあって、教室から海が見えてたんですよね。先生が『みんなは当たり前だと思ってるだろうけど、この環境で勉強できるのは素晴らしいことだよ』って言ってたのをすごい覚えていて。そうかな?と思っていたけど、今考えるといい所だったんだなぁと」。

かつては港町として栄えた、美しいリアス式海岸を持つ小さな町。
シュノーケリング、サップなどができる施設もあり、サンゴや熱帯魚を見ることもできる。
道路や校庭などに植わっているバナナのことや、遊び場だった海のこと。
「喋るのは苦手」と言っていたのを忘れてしまうほど、南さつま市の魅力をたくさん教えてくれた。

「過疎化していくのはどうしようも無いことだと思っていたから、今から何かするという考えもなかったし、寂しいけどしょうがないと思ってました。でも、地域おこし協力隊の方の活動のおかげで何家族か増えたらしいんですよ。子どもも10人くらい増えたみたいで」。


その言葉の先に、MEMEさんの目が少し明るくなる。

「その子達が大きくなった時、10年後とか20年後。その時まで存続できてたらいいなって」。


未来を語る声は穏やかで、でも確かな強さがあった。

坊津町とともに描く未来

坊津町では、廃校となった中学校跡地を活用し、キャンプ場や地域交流の拠点づくりが進んでいる。

「坊津町に来たことのない人達が来てくれたら、良さが分かると思うんですよね。今は通過点でしかないけど、一度来て滞在してもらったら、住んでみたいって思う人が出てくるかもしれないから」。

空き家をリノベーションした移住おためし住宅「ここきよハウス」も今年完成した。

「コロナ禍を経験して、働き方も暮らし方も変わりましたよね。二拠点生活もできるし、空き家を活用すれば、海のそばでのびのび暮らすこともできる。坊津は、海が好きな人にとって最高の場所だと思うんです」。

「最後の挑戦」と語る彼女の活動は始まったばかりだ。
彼女のシーグラスアクセサリーを通して、遠くの人が南さつま市坊津町を知り、やがてこの町を訪れるかもしれない。

波打ち際で拾った小さなかけらをつなぐように、MEMEさんはこれからも町と人、そして南さつま市の未来を紡いでいく。

MEMEさんのシーグラスアクセサリーは、各地のマルシェやオンラインショップで手に取ることができる。
最新の出店情報はSNSで随時発信中。

この記事の執筆者

史愛

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ハンドメイド作家MEME

福岡市を中心に活動中。

アクセサリー作りの他に大好きなのは、間取り図を見ること。不動産物件サイトの間取り図はずっと見ていられるそう。

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