大好きなリメイクを通して社会とかかわりたい…ミシンカーが届ける、良いものを使い続ける喜び Reform Shop Sally

愛らしいブルーの車体から、カタカタと小気味よいミシンの音が響く。
それはキッチンカーならぬ、移動販売車「ミシンカー」。
この小さな工房の主、広村理沙(ひろむらりさ)さんは、「Reform Shop Sally」の店主として、今日もどこかの街角で、誰かの大切な洋服やバッグ、靴などに新たな命を吹き込んでいる。
今回、出店していたのはアイランドシティ中央公園で開催されていたReform Shop Sallyが主催の「なおしてつかうマルシェ」。
「お客さん一人ひとりがものすごく大事」と語る広村さん。
彼女のもとには、ほつれてしまった愛用品や思い出の品が寄せられる。お客様の大切なアイテムを預かり、新しい形で息を吹き込んでいく。修理の技術にしても、お客さんに対しても一切妥協せず、最善を尽くす。ものづくりをする人間として、譲れないこだわりだ。
なぜ彼女は、店舗で待つのではなく、自ら街へ出て「直す」ことを選んだのか。そのハンドルの先に見据える景色と、ものづくりの哲学に触れてみる。


勉強に向き合った学生時代、事業の挫折を経て、広村さんがたどり着いたのは「リメイク」だった
「ミシンカー」での活動に至った背景には何があるのだろうか。
幼少期からイラストや裁縫など創作活動が好きだったという広村さん。芸術大学を目指した時期もあったという。
しかし、実際の経歴は少し意外だ。成績の良かった広村さんが最終的に進んだのは九州大学。芸術の道に進みたいという本心とは異なる選択に、ネガティブな感情を持ったこともあったという。
だが今、彼女はその「学び」を最大の武器に変えている。ものづくりに携わり、発信しながら活動をしている現在、九州大学での大学生活を通して習得した基礎教養が生きていることを実感するそうだ。クリエイティブな活動はいつでもできる、学生時代の学びは学生のうちしかできない。広村さんがリメイクというクリエイティブな事業を進められたのは、学生時代に得た知識や経験によるものなのかもしれない。
30代になった広村さんは、自身が作った雑貨に限らず、他の作家さんの作品も仕入れ、販売するハンドメイド雑貨店を営むことに。
だが、売り上げは順調だったものの経営が上手くいかず、4年間で閉店になってしまう。
仕事を探していた広村さんが入ったのは、洋服のリフォーム店だった。その時にリメイクの面白さに気づいたという。一度ほどいて、そこから新しい形にするためにほどいたものを組みなおしていく。そのパズルのようなプロセスは、広村さんのインテリ脳を魅了した。
「ここを直したら、表に出たときにこうなる」というように、形になっていく過程を想像し、実行する。一般的なものづくりやアートとは異なる、ロジカルな一面に惹かれていったのだそう。この「リメイクの面白さ」への気づきが、現在の事業の原点になっている。
また、広村さんの活動の原動力は、リメイクへの想いだけではなかった。 「社会と繋がってビジネスにしたいという思いがすごく強い。社会活動が好きなんですよ。」と広村さん。
「ものづくりが好き」「社会と繋がりたい」。
2つの思いが重なり、生まれたのが、「リメイクを通した社会活動」だった。

逆境をチャンスに変えた「動く工房」の誕生
コロナ禍のピンチが生んだ、街とつながる新たなビジネスモデル
こうして城南区神松寺にある店舗を拠点にしたリメイク、お直しサービスを展開するReform shop Sallyをオープンした広村さん。

当初は店舗のみのサービスを展開していたが、ある転機が訪れる。
新型コロナウイルスの流行だ。コロナ禍で、Reform Shop Sallyの売上も激減、閉店の危機に陥っていた。
「このままお客さんを待っているだけではいけない、自分から動かないと立ち行かない」。そこで広村さんは、移動販売車でニーズのある所へ出向いていくことを思いつく。しかし、コロナ禍の売上の落ち込みで、経済的な余裕がなく、形にするのはそう簡単ではなかった。
そこで広村さんは小規模事業者持続化補助金を申請することに。直ちに計画書も提出した。審査の結果、補助金を得ることができたのだ。チャンスだと捉えた広村さんは、移動販売車を購入。ミシンを積んで、その場でリメイクをする、ミシンカーでの新たなサービスが始まった。
Reform Shop Sallyのミシンカー活動に対し、周囲の反応は良かったものの、初期はイベントに出店しても客足が定着せず、行き詰っていたようだ。
そんな時、手を差し伸べたのが九州一の某手芸チェーン店だった。
なんと、手芸店の店先に出店をさせてもらえるようになったのだ。手芸店で購入した生地をお客さんが広村さんのミシンカーに持ち込み、広村さんがお好みのアイテムに変えていく。これは、店にもお客にも嬉しいサイクルだ。
現在も、月に1回、4店舗をまわっているのだそう。

そうして少しずつ客足も定着、リピーターも増えていったという。
「うちを気に入ってくれたお客さんが、リピートしてくださるのが一番嬉しい」と広村さん。手芸店の店頭にチラシを置かせてもらったり、ポスターを作って手芸店発信で広報をお願いしたりして宣伝を続けてきた。
チラシを見て足を運んでくださるお客さんが多いようで、マルシェにて取材中も、チラシを見たという方が洋服を持ち込まれていた。SNSでの発信も行っているそうだが、チラシによって広まっていくというところに、ローカル的な温かみを感じた。
ミシンカーが作った繋がり、新たな挑戦

活動を続けるうちに、「靴は直せますか?」「バッグを直したいんですけど」など、「リメイク」には様々なニーズがあることを知った広村さん。
当初は衣類を中心に扱っていたが、「衣類以外もリメイクやお直しの相談に乗ることができたら、もっと世の中のためになるのでは」そういった思いから、現在は服飾品全般の依頼を引き受けている。
「ものを大事にするっていうのは、すごく大事なことなので。小さなことですけど、そういった活動ができたらいいなって」。
広村さんのこの考えから始まった取り組みが「なおしてつかうマルシェ」。今回取材でお邪魔させてもらったマルシェだ。
「なおしてつかうマルシェ」は、2025年現在、4年目を迎える。
広村さんの他にも様々な職人が集まり、「なおしてつかう」ことをテーマに活動している。マルシェに出店する店舗や職人も、広村さん自身が作ったつながりだ。
「職人技だから、いい職人さんが集まってくれたらいいなと思って。手仕事だから、クオリティーは大切」。メンバーを集めるにあたり、広村さんは商品を注文してみたり、実際に会ってみたり、職人としての腕だけでなく、人柄も見極めてスカウトをしていったという。
ものづくりの秘訣は「自分なくし」
広村さん自身も職人のひとりとして、強いこだわりを持っているが、自身の「表現」「センス」にはベクトルは向いていない。
「自分のセンスを世に広めたいとか、自分の表現を昇華させたいとかじゃないんですよ」。「自分のセンスや発想はすごいんだ、じゃなくて、‘‘自分なくし‘‘をしてほしい。自分を無くしたら絶対次のステージに行けるから。自分なくしが一番クリエイティビティ」。
自身の大切な気づきを、若い人に伝えたいと広村さん。
自分に固執するのではなく、空っぽにしてみる。ここから広村さんの創作は始まるのだ。

「自分が個であり、全体である。全体であり、個である。これに気が付いたら、何でもできる。個性とか、ない」。自身の創作活動を通して学んだ考え方だ。
「こうした活動の中でも、根底にある考えがめちゃくちゃ大事」。根底にある自分軸がなければ、何事も進まない。学業でも仕事でも、趣味でも…。
すべてにおいて言えることなのかもしれない。
効率化の時代に、「直して使う」豊かさを問いかける
――青い車が運ぶのは、次の世代へ繋ぐ「ものを愛する心」
「ものすごく地球環境を守りたいとか、循環型の社会を作りたいとかじゃないんですけど、自分がパズルを解くようにして身に着けた技術が世の中の役に立つに越したことはないんじゃないかと思った」。
循環型社会の実現やSDGsが広まっている昨今の流れにフィットしているように感じる広村さんのリメイク事業。
しかし、その根底にあるのは純粋な「リメイクの楽しさ」なのだ。

「事業拡大とかは考えてないですね。お店のお客さんが一人ひとりめちゃくちゃ大事。その人たちがまた来たいと思えるようなサービスを続けていけたら良いなと思ってます」。
現在は広村さんを中心に、広村さんの活動に共感して連絡してくれた2名のスタッフと活動しているが、目標に向け、スタッフを募集中とのこと。求めるのは技術以上に「元気に挨拶ができて、素直な人」。
広村さんの活動やReform Shop Sallyが気になる方は、是非一度話を聞いてみてほしい。
「コスパ」「タイパ」そんなワードが行きかう昨今。
くたびれたものに、お金も時間も費やすなんて、という人も少なくないだろう。しかし、お金も時間もかかるから、「大事」になっていくのではないだろうか。
長く使えるものを、大事に使う。「直してでも使いたい」と思えるものに出会えることこそが、本当の贅沢なのかもしれない。
もし、あなたの「大事なもの」がくたびれてしまったら、さらに言うと、それが服飾品であれば…青いミシンカーの出番になるだろう。
・Reform Shop Sally
https://sally-reform.shop/
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https://www.instagram.com/reform_shop_sally/





