ふたりで育む、小さな町のやさしい景色。宇美町発・ジェスモナイト作家ユニット「Jessmarble」

福岡県宇美町。山の気配がすぐそばにある、静かで穏やかな町。
その一角で、今日も笑いながら手を動かすふたりのクリエイターがいる。
インテリアブランド「Jessmarble(ジェスマーブル)」の、奈々さんと美紗貴さんだ。
ポップアップに並ぶ作品は、どれもやわらかくて、すっと空間になじむのに、どこかふたりらしさがにじんでいる。

「こんな素敵なインテリアが、この町で生まれてるなんて」——そんな声があがるのも、なんだかうれしい。
でも、ふたりの始まりはとてもシンプル。ただ、「ものづくりが好き」。その気持ちが、すべての出発点だという。
「ご飯でも行きませんか?」から始まった、小さな物語
Jessmarbleの始まりは、何気ないひと言からだったらしい。
同じ建物のアクセサリーショップで働いていたというふたり。ある日、奈々さんがふと声をかけた。
「ご飯でも行きませんか?」
その一言から、ふたりの距離はすっと縮まっていった。食事をしながら話してみると、ものづくりが好きだということ、そして「作ることが生活の一部」という感覚が、驚くほど似ていたという。
「じゃあ、一緒にインテリア作ってみようか」——大きな決意ではなく、共通の「好き」でつながる、自然であたたかい始まり。2022年、Jessmarbleはそうして生まれた。

エコな素材「ジェスモナイト」との出会い
「ブランドを作ろうっていうより、「ふたりで作ったら絶対楽しいよ!」が最初だったよね」と、奈々さん。
「そうそう。楽しいが先にあった感じ」と、美紗貴さんも頷く。
でも、「何を作るか」を考える中で、もうひとつ大切にしていた思いがあったという。それが、環境への意識。自然の近くで暮らす中で、環境問題はどこか遠い話ではなく、日々の暮らしの延長線上にあるものとして感じていたのだそう。
「大きなことはできなくても、自分たちにできるエコな活動を形にできたらいいよね」。
そんな思いからたどり着いたのが、「流行が過ぎたら終わるのではなく、暮らしの中で長く愛用されるものを作りたい」という考え方。そこでふたりが出会ったのが、「ジェスモナイト」という素材だった。
ジェスモナイトは、ミネラルパウダー(石粉)と水性アクリル樹脂を合わせた複合素材。有機溶剤を含まず、製造時のVOC(揮発性有機化合物)排出が極めて少ないといわれ、環境や作り手の健康への負荷が低いのだそう。
また、石のような質感でありながら軽くて扱いやすく、色や造形表現の幅も広いと同時に、耐久性があって長く使える素材なのだとか。
「長く使えて、簡単に捨てられないものを作りたい」——ジェスモナイトは、そんなふたりの想いにぴったりの素材だったのかもしれない。
体のラインをモチーフにした、やさしい存在感
Jessmarbleの作品の中でも、
ひときわ目を引くのが“身体のシルエット”をモチーフにしたインテリア。
バスト、ヒップ、ウエスト。
やわらかな曲線が、空間にそっと寄り添う。

それはただのデザインではなく、
「自分らしさを肯定するかたち」。
均一で整いすぎた美しさではなく、その人らしい輪郭や、身体そのものが持つ豊かさを自然に表現する。インテリアでありながら、見る人に小さなメッセージを投げかけるような、そんな作品たち。
そこには、“ありのまま”の輪郭を大切にしたいというふたりの想いが込められているのだそう。
Jessmarbleは、この素材を使って、主にトレーや名刺立て、置物などを制作している。
美紗貴さんが手がけた文字がワンポイントで施されているものや、光に当たるときらっと輝く意匠もあり、作品の中に細部へのこだわりも感じられる。

「“これ見たことない”って思ってもらえるものを作りたいんです。他にはないデザインを、ずっと探してます」と、美紗貴さん。
そして、その“他にはない”という感覚は、見た目の新しさだけではない。
Jessmarbleが大切にしているのは、主張しすぎず、もともとそこにあったかのように静かに空間に溶け込みながら、ふと目に入った時に心が少し整うような存在であること。
華やかさよりも、長く一緒にいられる心地よさ。
ふたりの作品には、自分たちの美意識を信じて形にしていく強さと、暮らしに寄り添おうとするやさしさがある。



うまくいかない日も、ふたりなら前を向ける
ものづくりの日々には、思い通りにならないこともきっとあるはず。
ジェスモナイトは繊細で、気温や湿度、そして混ぜ方ひとつで色や表情が変わってしまうのだそう。
同じ色を再現するのは、実はとても難しいという。
「お客様から『これと同じ色で作ってほしい』と言っていただくこともあるんですけど、まったく同じにするのは本当に簡単じゃないんです」。
最初は、思い描いていた色や質感がなかなか再現できずに、「これでいいのかな」と迷うことばかり。ジェスモナイトの繊細さは魅力であると同時に、作り手にとっては何度も向き合わなければならない奥の深い素材でもあるようだ。

実際に、「思ったより色が濃かった」と、言われたこともあったという。
でもその経験は、ふたりにとって大きな学びになった。
一生懸命にイメージを汲み取って作ったのに、伝わらない。
そのもどかしさは、作り手にしかわからない痛みなのかもしれない。
それでもふたりは投げ出さなかった。何度も色を作り直し、試して、また見直す。地道な積み重ねの中で、自分たちなりの正解を探し続けた。

また、委託販売では自分たちの目の届かないところで作品が扱われる。大切に作った作品が割れてしまったり、ひびが入ってしまったりすることもあったという。ひとつひとつに思考をこらし、こだわり抜いて作っているからこそ、そのショックは決して小さくはないはず。
それでも、ふたりは「唯一無二のものを作る」というコンセプトを手放さなかった。
そして、その考え方に大きな転機をもたらしたのが、完璧を求めすぎるのをやめたこと。
素材が生み出す偶然の模様や色の揺らぎを、「失敗」ではなく「その作品の個性」として受け入れられるようになった時、ふたりの中で創作の景色が変わったという。
同じものは二度と生まれない。
それは一見、不便なことのように感じる。けれど見方を変えれば、それはこの世にひとつしかないということでもある。再現できないことが弱みではなく、個性になる。その発想の転換が、Jessmarbleらしさをより強くしていったのだろう。
同じものを量産するのではなく、その時、その瞬間にしか生まれない美しさを受け入れること。
そこに、手仕事の本当の魅力があるのかもしれない。

門司港レトロのマルシェでは、強風でイベントが中止になった日もあったのだそう。
「本当にショックでした」と、奈々さんは振り返る。
「何日も前から準備してきて、やっと当日なのに、まさか中止になるなんて思ってなかったので。“何のためにここまで来たんだろう”って、正直かなり落ち込みました」。
その一言には、クリエイターや出店経験のある人なら誰もが共感するような重みがある。努力がそのまま消えてしまったような感覚。その虚しさは、簡単には言い表せないはずだ。
でも、ふたりはそんな時も止まらない。
「せっかく門司港まで来たしねって」と、奈々さん。
「焼きカレー食べに行こうってなったよね」と、美紗貴さんが笑う。
「悔しいけど、せっかくなら楽しもうって切り替えたんです」と、奈々さん。
そんなふうに、悔しさを抱えながらも笑い合える。
落ち込む日があっても、
“今日じゃなかっただけ”と受け止められる。
その軽やかさも、きっとJessmarbleの魅力につながっていくのだろう。
「今日はやめよう」と言える勇気

ものづくりをしていると、
「毎日続けなきゃ」と、自分を追い込んでしまうこともあるのではないだろうか。
「やめたら負け」、なんて考えてしまうことも。
でも、ふたりは、気持ちに素直に歩みを進める。
「今日はなんか違うな」
そう感じた日は、無理に作らない。
推し活をしたり、神社に行ったり、
カフェでゆっくり過ごしたり。
「作り手の気持ちは作品に出るから、
できるだけ明るい気持ちで作りたい」。
そんなところも、ふたりらしい。

美紗貴さんが第三子を妊娠していた時期には、制作を続けることが難しくなったことも。
その時には、奈々さんが、「私がやるから、ゆっくり休んで!」と、制作の中心を引き継ぎ、活動を止めることなく続けたのだそう。
「ひとりだったら、きっとそこで終わっていたかもしれない。ふたりだったから乗り越えられた時間」だと、語ってくれた。
そして、美紗貴さんにとって、ものづくりの時間は特別な意味も持つという。
「作っている時だけは母という役割を忘れて、ひとりの女性として夢を持って自由になれる。そんな時間が、私にはとても大切なんです」。
子育てをしながら夢を追う——その言葉は簡単だが、実際に続けることの大変さを知る人には、その重みがしっかりと伝わるはず。
子どもたちは、生き生きと活動するお母さんの姿を誇りに思い、マルシェにも会いに来てくれるのだそう。
夢を追う姿は、誰かを勇気づける。
それは、子どもたちへの何よりの贈り物になるはずだ。
正反対のふたりだから、ひとつになれる
奈々さんは、接客が得意で、空間づくりのセンスがある人。お客様の暮らしを想像しながら、どの作品がどんな空間に合うかを丁寧に伝えていく。

美紗貴さんは、手を動かすことが自然で、細やかな作業が得意。制作の中心を担いながら、ラッピングや会計などの裏方的な作業も支えている。

性格も得意分野も違うけれど、
その違いが“ちょうどいい”。
「前世で絶対縁があったと思う。ふたりで一つなんです」。
笑いながらそう話すふたりの姿が、とても印象的だった。

宇美町から、ふたりの世界観を広げていく
今は小さなインテリアが中心だが、 ふたりの夢はもっと大きなところにあるという。
• テーブル
• ランプ
• 空間全体のコーディネート
• いつかは宇美町に自分たちのお店を
そして、「Jessmarbleで部屋を全部揃えられるような世界観を作りたい」。
その言葉には、暮らしの中に流れる空気や感性もふくめて、“空間ごと届けたい”という願いが込められているのだそう。
自然が近い宇美町だからこそ、
環境への意識も自然と育まれていく。
「大きなことはできなくても、できることを少しずつ。何もしないより、小さな一歩でも行動していくことが大切だと思っています」。
自分たちにできる小さな一歩を積み重ねていく。
そんなふたりの姿勢が、やわらかな作品たちと共に、地域の魅力へとつながっていくことだろう。
挫折は、終わりじゃない。
むしろ、次の一歩の合図。
強風で中止になった日も、
色が思い通りにならなかった日も、
作れない日が続いた時期も。
それでもふたりは、手を動かし続けてきた。
完璧な環境なんて、きっとどこにもない。
でも、好きなことを“好きなまま”続ける力があれば、
ものづくりは続いていく。
そして、ふたりだからこそ描ける世界観で、この町の新たな魅力をも育んでいく。
宇美町の静かなアトリエに、今日もふたりの笑い声が響く。
その声の向こうで、
またひとつ、この世にひとつだけのインテリアが生まれていく。
Jessmarble
instagram:https://www.instagram.com/jessmarble_
オンラインショップ:https://choosebase.jp/search?q=jessmarble
BASE:https://jessmarble07.thebase.in/




