良いと思える選択を。伝統織物を、自然と生活に還す『株式会社 数寄屋』平田央

『自然体』とは難解だ。

自然体でいよう、と意識してみても、そこには自然体とは呼べない堅苦しさがある気がする。そもそも、自然体でいようとあれこれと考えている時点で、自然体からは程遠い気もする…。

それでも、自然への憧れを追求した人々がいる。

まずは、『数寄屋』と呼ばれる建築様式を作った、安土桃山時代の茶人たち。

そして、11年前に『株式会社 数寄屋』を設立した、平田さんだ。

平田さんは、宗像市日の里で、博多織や久留米絣を用いたステーショナリー雑貨を製作している。

名刺入れ。ぴしっと決まった外側が博多織。

「この名刺入れを、大事な商談の場面とかで使っていただけるのかもしれないと思うと、すごく嬉しいですね」。

伝統を、現代に生きる私たちの生活に溶け込ませる。株式会社数寄屋には、そういったユニークな商品が多くある。

実は平田さん、元々はサラリーマンなのだそう。最初から伝統織物や、雑貨類に詳しかったわけではない。

「自然と流されてきて、今があるんですよ」。

そう和やかに話す平田さんには、ある『続けてきた実験』があった。

それは、『良いと思える選択をする』こと。
今回は、平田さんがその実験を続けるにいたった経緯と、その先にあったものを伺った。

歩んできた道を手放して、見えてきた自分

大学卒業後は、免震関係の企業や、鉄道会社に勤めていた平田さん。いずれも設計を担当していたそう。
しかし日々業務に励むうちに、次第にデザインの裁量がある仕事に惹かれるようになった。

「その頃から、『このままでいいのかな』という考えはずっとありましたね」。

迷いながらも突き進む毎日。
その時期に、鉄道会社のハードな環境も重なり、身体を壊してしまう。

「いわゆる、ドロップアウトというものでした」。

それからは、半年ほどの休息を取った。

激務の日々に擦り切れてしまった心身を、回復させる期間。
平田さんは、『好きだったもの』『良いと思うもの』と向き合うことにした。

日本画が好きだった。自然を良いと感じていた。
学んだことはなかったが、水彩を使って絵を描くこともした。

そうして深く自分と向き合う中で、大きく影響を受けたのが、岡倉天心の『茶の本』だった。
それは、100年以上も前に書かれた本。茶道を通じて日本文化を説いたその本の中に、『数寄屋』という言葉が出てきた。

「数寄屋はお茶室という意味なんです。そのお茶室というのは、木で、必要最小限の大きさに作るもの。花をいける時も一輪だけ。そういう自然を生かした簡素な空間の中で、人と人との一期一会を大事にする。その価値観が形になったものとされていて」

「やっぱり日本の文化って、自然の中での一員として、あんまり人間中心ではない考え方が根底にあるように感じたんです。今では『SDGs』という言葉がありますが、そういうことって、もともと日本文化の中にあったんだなというか」。

日本の文化に深く共感するうちに、やがて思いが固まる。
ものづくりの仕事を、自分の裁量でやってみたい。

「日本文化が自然と形になって、それを残せるような仕事。それを、自分の好きなものづくりで出来たらいいな、というふうに思いました。そういうのが自分には、ぴったり合ってるんじゃないかって」。

思い立った平田さんは、早速求人を探すことにした。

伝統文化に触れて、文化の一部になってゆく

偶然、博多織の織元の求人情報が目に留まった。
家からも近く、日本の伝統文化に関われる。

平田さんは、描きためていた水彩画を持って、馴染みのなかった世界に飛び込んだ。

ただ、気軽に一歩を踏み出せるタイプではないという平田さん。
とても勇気のいる行動だったに違いない。

「仕方がなかったところもあります。そうするしかなかった。高校を卒業して、なんとなく大学に行ってなんとなく就職をしていたので、それまでは特に夢を持って進んできたというわけではなかったんです。そのツケが回ってきたという感じでしたね」。

悩んでいる余裕はなかった。だめだったら、他を当たればいい。そう考え、「デザインの仕事をさせていただけませんか」と描いた絵を見せに行ったのだ。

平田さんの熱意が伝わったのか、応募先の織元に無事採用された。
採用職種は、博多織の図面を書く仕事。願ってもない職種だった。

だが、いざ雇用がスタートすると、担当するすべての業務がデザインに関与しているわけではない。ウェブページの作成や、機械の修理を任されるという現実もあった。

けれども平田さんは、当時のことを楽しげに語る。

「デザイン以外の仕事も面白かったですね。博多織に関われることが、とにかく嬉しかった」。

伝統文化とは、古くからの人の営みが自然と繋がれてきたもの。それを引き継ぐ仕事に関われているという事実が、平田さんを鼓舞していた。

また、日々の業務の中に、将来に生かせる学びもたくさんあった。

話すことは得意ではないが、電話でのやり取りを通して卸し先との付き合い方を知ることができる。デザイン以外の雑務を通して、商品開発や売り方についての知識を得られる。

初めて飛び込んだ業界で、平田さんは着実に経験を積み重ねた。

そして入社7年後に、独立。
より裁量権のあるものづくりへと、平田さんは一歩を踏み出す。
きっかけとなった『数寄屋』の名を冠して、事業をスタートさせた。

これからは『良い選択』を積み重ねたい

伝統が、今を生きる私たちの生活に溶け込む。そうなればもっと続いていく。

そんな思いからか、平田さんは『伝統工芸を用いて、今の時代に使いやすい小物を作る』という創作方針を、早い段階で決めていたのだそう。

「サラリーマン時代に図面を書く仕事もしていたので。その経験も、いま図面を描く時にすごく役立っています」。

名刺入れやパスケースには、ペットボトルを再利用した環境に優しい素材を活用した。
『自然を大切にする』という平田さんの理念を体現する、譲れないこだわりだ。

問題は、それらの商品をどのように売っていくかだった。

織元との繋がりや、その時の縁を通じて取引先を紹介してもらうこともあったが、それだけではない。営業的なことが苦手だという平田さん自身も、「いろんなところに顔を出しましたね」という。

「『ソーシャルビジネス』という考え方にも興味があって、セミナーや勉強会にも参加していました」。

2006年にノーベル平和賞を受賞した、ムハマド・ユヌス氏が提言する『ソーシャルビジネス』というビジネスモデル。
これは、社会問題の解決には、寄付などの一過性のものに頼るのではなく、ビジネスに組み込むことで持続的に取り組むことが重要とする考え方だ。

「そこで知り合いになった方と繋がって、いろんな方を紹介していただいたのも大きかったです」。

そういった勉強会やセミナーへの参加は、直接的な営業活動とは違う。すぐに利益に直結することはないのかもしれない。
事業を始めたばかりで焦ってしまいそうなその時期に、なぜそのような行動を取れたのだろうか。

「あまり大きなことは言えないんですけど。でも、良い選択と悪い選択ってあると思うんです。それで、どうせやるなら、良い選択をしていったらどうなるんだろうな、って。実験といいますか(笑)」

サラリーマンから挫折した時から、その『実験』について深く考えていたという平田さん。

「あの頃は、自分の人生の意味も考えていました。仕事って生きるための手段ではあるんですけど、手段が目的になっている感覚があって。お金を稼ぐことだけを目的にすることに疑問がありました」。

自分が納得できる形で歩んでいきたい。
支えてくれる妻の後押しもあり、そういう行動が取れたのだという。

「自分が尊敬する人たちと、なるべく接するような形でやってきたっていうのはやっぱり良かったです。そうすることで、自分もブレずにいられているんだと思います」。

自分の力というよりも、「周りの人々のおかげで今がある」という平田さん。
穏やかに笑う彼の姿からは、『なにが良いことなのか』を熟考し、向かうべき方向を何度も定めてきたからこその、柔軟な芯の強さがあるように感じた。

自分にとっての光を知った先に

博多織を使った鈴箱。お土産に人気。

現在、数寄屋の商品は、東急ハンズなどの小売店や百貨店をはじめ、地域のマルシェなどでも販売されている。贈答用のOEM商品の受注販売も多い。

着々と販路を広げているように思えるが、現在に至るまでにも紆余曲折があったという。

「コロナ禍の時は、企業として危なかったです。それまでは小売店への卸販売を中心にしていましたが、軒並みお客様が来なくなって。店舗そのものが閉店されることもありました。その時は本当に売り上げが下がりましたね」。

それをきっかけに、OEMや記念品の製作にも、精力的に取り組むように。

「記念品などは、一気に何千個も作らせてもらうことがあります。この量の変動は悩みですね。まだ水物なところがあるので、もっと卸先を安定させて、どうにか地盤を固めたいなとは思っています」。

課題を的確に見つめながらも、平田さんはやはり楽しそうに笑う。

「シリーズものを製作して、各地域の織物のいろんな特徴だとか、その土地の風土だとかを一緒に紹介するというのも面白いなと思います。これからも、いろんなものを作りたいですね」。

「とにかく、ものづくりを通じて様々な人と関わっていきたい。そして自然という要素。商品の中にもそういったものを取り入れながらやれたら、理想的です」。

草花はおのずと太陽を見る。そう考えると『自然体』とは、ただシンプルに、光の方向を見ている状態を指すのかもしれない。
紆余曲折を経て、自分の向いていたい方角を知った平田さんは、今後もいっそうのびのびと、陽の光を浴びていくはずだ。

【株式会社  数寄屋】
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この記事の執筆者

空前絶後のおせんべいブームが到来中。
ファンク・ハウスミュージックと、宇宙を感じるものが好き。

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伝統織物を用いた日用小物を製作・販売。

記事内で紹介している名刺入れやパスケースのほか、伝統織物を用いた手のひらサイズのランドセル型コインケースなども販売。とってもかわいらしいので、ぜひ。
不定期で開催されるワークショップで製作体験もできます。

数寄屋のロゴは、福祉作業所『工房まる』に依頼して製作されたもの。看板は平田さんが彫刻したのだそう。記事掲載用に抱えてくださいました…!

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