その先の人を思い、木を削る。川畑ロクロ製作所・木工ロクロ職人 川畑光幸

博多の夏の風物詩として知られる「博多祇園山笠」。
その祭りを支えるものの一つに、舁(か)き棒がある。舁き棒とは、祭りで使われる山車・山笠を、人の肩で持ち上げて運ぶために取り付けられる棒のことだ。
福岡県大野城市にある川畑ロクロ製作所では、この舁き棒をはじめ、神社や伝統建築に使われる擬宝珠(ぎぼし)など、地域の文化を支えるものづくりにも携わってきた。
「木工ロクロって何ですか?と聞かれることが多いんですよ」
川畑ロクロ製作所の二代目・川畑光幸さんは、少し寂しそうに話す。
木工ロクロとは、回転させた木材に刃物を当て、器や装飾部品などの形を削り出していく技術だ。同じものを作っても、手仕事だからこそ生まれるわずかな表情の違いが、そのものの味わいになる。
決められたものを機械で大量につくるのではない。木と向き合いながら、その場その場で使う人に合わせた形を生み出していく。

川畑さんの仕事場を訪れると、木の香りが広がっていた。木材があちらこちらに並び、大きな作業台の下には削られた木くずが積もっている。
そこには、長い年月、木と向き合い続けてきた職人の時間が残っていた。
無心で削る、一発勝負の仕事

ウッドターニングとも呼ばれるこの技術。 川畑さんは、実際に機械を動かしながら説明してくれた。
回転する木材に刃物が触れると、細かな木くずが舞い上がる。少しずつ、木は丸みを帯びた形へ変わっていく。
木を削っている時は、どんな気持ちなのか尋ねてみた。
川畑さんは少し考えてから答えた。
「無です(笑)」
集中すると、見えてくるものがあるという。
「一点に集中していると、ふと、木目が見えるようになってくるんですよ。目で追っているはずなんですけど、不思議と見えるようになるんです」
続けて、笑いながらこう話した。
「晩ご飯は何食べようかな、とか思ってたら絶対失敗します(笑)。雑音が入ると危ない作業ですし、一発勝負なんです」
預かった木材が、その一本しかないこともある。
「これ一本しかないよって言われたら、失敗できないですよね」
家業に携わって20年ほど。緊張感と向き合いながら木を削り続けてきた。

好きな木材は、縞黒檀(しまこくたん)と楠(くすのき)。
「縞黒檀は、強くて木も立派。楠は香りがいいんですよ。王道はヒノキですけど、やっぱり香りはすごいですね」
木について話す時の表情には、職人としてだけではなく、木そのものへの愛情もうかがえた。
「それなら、自分が」父を支えることから始まった

川畑さんにとって、木工ロクロは幼い頃から身近な存在だった。父が工場で木と向き合う姿を見ながら育ち、時には手伝うこともあった。
ただ、父から直接「継いでほしい」と言われたことはなかった。
きっかけは、母の言葉だった。
「『お父さん、60歳を超えても仕事を辞めないから、一人できつそう』って、ふわっと遠回しに言われたんです(笑)」
「僕は次男なんですけど……」
それなら、自分が――そんな思いが芽生えたという。
当時は、職人として跡を継ぐというよりも、「父を少しでも支えられたら」という気持ちの方が大きかった。外回りなど、自分にできることから手伝い始めたという。
外部の人から「技術を教えてほしい」と声をかけられることもあった。けれど、父が教えることはなかった。
「口下手だったというのもあるし、作業場自体、危ないところもあるので。 それに、息子二人いたから、父もどちらかに継いでもらいたいという気持ちは、薄々あったんじゃないかなと思います」
そう振り返る川畑さんの穏やかな語り口からは、父への誇りが感じられた。
「昔ながらの職人だったんでしょうね(笑)」
背中を見て覚える。
そんな時代を生きた職人だった。
父の背中を追いながら挑んだ、舁き棒の制作

家業に携わるようになってしばらくした頃 、川畑ロクロ製作所に、博多祇園山笠で使われる舁(か)き棒を作り替える依頼があった。
舁き棒は、木を伐り出してから8〜10年乾燥させる。その後、木材を選別し、さらに一年ほど寝かせてようやく制作に取り掛かることができる。完成までに長い年月を要する、特別な仕事だ。
当時、父にこう声をかけられた。
「お前はやったことないから、一緒にやろうな」
しかし、残念ながらその約束が果たされる前に、父は他界した。まさか、その仕事を一人で担うことになるとは思ってもいなかった。
「僕、『これ、どうやってやるんだろう』って、ほんと泣きながら、やりましたよ(笑)」

教えてくれる人はいない。頼れるのは、父の背中を見て覚えた記憶と、かろうじて残っていた、父が以前舁き棒を制作した際の写真だけだった。
無我夢中で向き合い、完成させた舁き棒。
そして今年、その舁き棒は博多祇園山笠でようやく日の目を見た。
「初めて自分一人でやった実績ですね」
そう言って川畑さんが見せてくれたのは、一枚の写真。
自ら手掛けた舁き棒で支えられた舁き山笠の前で、担ぎ手たちと並ぶ川畑さんが、照れくさそうに笑っていた。
大きな仕事をやり遂げたことを誇示するわけではない。
ただ静かに積み重ねてきた時間と、その先にある安堵のようなものが、その一枚から伝わってくるように感じた。
受け継いだのは、技術だけではなかった

川畑さんの制作するものは、完成品の一部として使われるものが多い。
家具のつまみ、伝統建築の柱、山笠を支える舁き棒、神社などに使われる擬宝珠など。
決して目立つ場所ばかりではない。けれど、その一つひとつが、人の暮らしや地域の文化を静かに支えている。
そんな仕事に向き合う中で、川畑さんが何より大切にしていることがある。
「自分が削ったものが、たとえつまみのような一部だったとしても、それを手にした人が『素敵な品物ですね』って笑顔になってくれたら、やった甲斐がありますよね」
そして、こう続けた。
「自分のための仕事じゃなくて、その先の人のことを考えて仕事をする」
父が繰り返し口にしていた言葉だという。
その思いを受け継ぎながら、川畑さん自身も仕事への向き合い方をこう語る。
「どの世界でもそうだと思うけど、仕事を作業として終わらせないこと」

依頼主から直接、感謝や称賛の言葉をもらうこともある。それももちろん嬉しい。けれど、川畑さんの思いは、その先にも向けられている。完成したものを実際に手にした人が、どんなふうに感じてくれたのか。
「やっぱり手に取った人が喜んでくれたと聞くと嬉しいですよね」
途絶えさせないために、もっと身近な存在へ

他の製作所では断られた依頼が、川畑さんのもとへ届くこともある。
大阪から問い合わせが来たこともあった。
「遠い福岡まで依頼しないといけないほど、そんなにロクロ屋さんって少なくなったんだな、って危惧はしています」
実際、これほどの大きさの木工ロクロ製品をつくれる場所は、福岡県内にはもうないという。
「家具産地の大川市にも職人さんはいるみたいだけど、大型の柱を作るとかになると、もう福岡はうちしかない」
二代目として、プレッシャーを感じることもある。
「『親父さんが残したものやけん、あんたがなくしたらいかんやろ』って、冗談交じりに言われることもあって。プレッシャーはすごいです(笑)」
そう笑いながら語る川畑さん。
実は、工場を続けるかどうかを考えたこともあったという。それでも続けてこられたのは、必要としてくれる人の存在があったから。
「ありがたいことに、ロクロ屋さんなくなったら困るよ、って僕もよく言われるんですよ。求めてくれる存在なんだなって、感じますね」
木工ロクロのこれからについて尋ねると、川畑さんはこう答えた。
「途絶えてほしくはないとは思っています」
けれど、その口調に気負いはない。むしろ淡々と、自然体で語られた言葉だった。
「一緒に生きてきた時代に頑張ってきた人たちが、少しずついなくなっていくのは寂しい。だからこそ残したい」
この言葉は、生前、父もよく話していたという。
目立たなくても、人や地域を支える仕事に誇りを持っていた父。その背中を見てきたからこそ、川畑さんは思う。
「いい意味で、縁の下の力持ちなんですけど、もうちょっと陽が当たっても良くない?(笑)」
笑いながら口にしたその一言には、木工ロクロという仕事を、もっと身近に感じてもらいたいという思いが込められているようだった。
木工ロクロをもっと身近な存在に

木が持つ温かみに、木工ロクロならではの丸みが加わる。
木工ロクロの魅力について尋ねると、川畑さんはこんなふうに話してくれた。
「柱ひとつでも、角材と丸材では表情が違うんですよね。四角って角がある。でも、その角を取ると丸くなる。それって、人とのつながりも同じなんじゃないかなって思うんです」
木を丸くする技術の話から、人とのつながりへと思いを広げて語る姿が印象に残った。
その魅力を、もっと多くの人に知ってもらいたい。そんな思いから、これからはイベントへの参加や工場見学の受け入れなど、木工ロクロを身近に感じてもらえる機会も増やしていきたいという。
「外の方と話すと、アイデアをもらったりすることもありますよ」
イベントには、木そのものが好きだという人も多く訪れる。
「日本人って、木とともに育っている感じですよね」

そして最後に、こう付け加えた。
「もっと手に取っていただきたいなと思います」
「ありがたいことに」と繰り返す穏やかな語り口の奥には、父が守り続けてきた木工ロクロを、もっと身近なものとして知ってもらいたいという静かな情熱が垣間見えた。
今日も川畑さんは、その先にいる誰かを思いながら木を削っている。
【川畑ロクロ製作所】
HP:https://www.kawabatarokuro.com/index.html
Instagram:https://www.instagram.com/rokuroman/
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