流れのままに、その時々を心地よく ヨガインストラクター 南祥子さん

自分と向き合う静かな時間
息を深く吸い、ゆっくり長く吐く。無理はせず、呼吸と体に意識を向けていると、いつの間にか頭の中が静かに、クリアになっている。はじめてヨガを体験した私はこのような感覚になった。
今回お話を聞いたのは、糸島市でヨガのインストラクターとして活動する南祥子さん。『ハタヨガ』と言われるヨガを専門とされており、ダンススタジオや産婦人科でレッスンを行っている。SNSやウェブサイトなど、南さんの発信のなかでも目を引くのは「子どもと一緒にできるヨガ」だ。どうして子どもや母親に焦点を当てた活動をしているのか、その背景を伺った。
健康的な美しさに惹かれて、ヨガの世界へ

南さんのヨガとの出会いは偶然のものだった。きっかけは19歳の頃に患った大きな病気。それほど健康に気を使わなくても元気に過ごせる年齢だっただけに、大きなショックを感じたそう。
「その頃から『命を大切にしたい!』って思うようになりました。でもそんなこと今まで考えたこともなかったし、習慣はそんなにすぐには変わらなくて。それなりの生活を送っていました」
ちょうど同じ時期に、世間で話題になっていた映画が『死ぬまでにしたい10のこと』。自分が死ぬまでにしたいことはなんだろうかと、考えるきっかけになったという。そして思いついたのが「オーロラを見る」ことだった。
ヨガとの出会いは、オーロラを見るためにカナダを訪れたときに起こった。
「当時は服飾の専門学校に通っていて、おしゃれなことや服を綺麗にすることが“かっこいい”だと思っていたんです。でもカナダでヨガをされている女性は、すごく健康的で美しくて。『こんな“かっこいい”があるんだ!』って驚きました。そのときに、『私も絶対ヨガしたい!』って思ったんです」
当時の日本は、まだヨガが流行する前。帰国後は海外のDVDを取り寄せ、見よう見まねでヨガをはじめた。「ヨガ」や「自然派」という言葉を見つけてはその場所へ行き、どんどんのめり込んでいったという。
理想と現実 心地よいバランスを探して

ヨガへのめり込むにつれて、ヨガの教えや、自然派なものへのこだわりが強くなっていったという南さん。
「当時はヨガの勉強が楽しくて、その日得た知識を母に熱弁していました(笑)『こうでなければ』っていう理想やこだわりが強くて、偏っていたと思います」
その偏りを少しずつフラットにしてくれたのは、自身の出産、育児の経験だったそう。
保育士として働いていた経験や、ヨガインストラクターとしてマタニティヨガ、産後ヨガを教えてきた経験から、母親や赤ちゃんをそばで見てきたものの、自身の出産、育児のきつさは想像以上だった。
「もう本当に上手にできなくて。何より寝不足がきつかったですし、産後うつも経験しました。子育ての楽しいことはいっぱいあるけど、もちろん辛いこともいっぱいあるんですよね」
母親としてせわしなく日々を過ごしているうちに、今まで持っていたこだわりもだんだんと和らぎ、バランス良く生活していければいいと思えるようになったそう。
「毎日忙しい中で『こうでなければ』と思って生活するのは難しくて。自分も周りも苦にならないくらいのバランスでいいのかなって。理想と、そうはいかない現実の両方があっていいと思えるようになってきました」
南さんに今後の目標を尋ねると、少し悩んだ後に現状維持だと話してくれた。
「バランスを取りながら生活できるようになって、子育てとヨガの講師もできていて…。今こうしてヨガを伝えられていることが幸せです。1年後はまたいろいろと変わって『きつい…』って言ってるかもしれないですけど(笑)それはそれで良いかなって。流れのままに、その時々を柔軟に進んでいけたらいいかなと思います」。
自分を肯定できる時間を過ごしてほしい

現在は糸島市で、スタジオレッスン、産婦人科での産後ヨガ、個別レッスン等を行っている南さん。自身も育児継続中の母親であり、ヨガを通してたくさんの女性と関わっている。
「仕事や結婚、出産。女性特有の悩みがたくさんあるなか、皆さん毎日頑張ってる。だからヨガをする時間は自分を緩めて、癒して。『私はこれでいいんだ』って思ってもらいたいっていうのが1番にあります」
ヨガを習えることはもちろん、ここに来れば話ができるという場所を作っているようにも感じられた。
「私自身、育児が辛かったときに救いになったのは、同じように大変な思いをしている方の体験談を聞いたり、読んだりすることだったんです。共感したいし、共感してほしい。だから産後ヨガのレッスンでは、みんなで育児の悩みや不満を話す時間を作っています」
南さんのインスタグラムでは、自身の出産、育児の体験を綴ったものや、日常の中で簡単に取り入れられるヨガについて発信している。届けたい相手は、妊娠中の女性や、産後のあらゆる“はじめて”に、今まさに翻弄されている方、忙しい毎日の中で自分を癒したいと思っている方だ。興味のある方はぜひ一度覗いてみてほしい。