箱崎商店街からはじめる 夫婦が“仕掛ける”場所『文脈』

おもしろいことが起こる場所をつくりたい
素朴で温かみのある器が並び、奥には陶芸のろくろが薄っすらと見える。お店なのか、陶芸工房なのか、想像が膨らむこの場所の名前は『文脈』。
陶芸家としての器の販売と、陶芸教室を開いているのは、夫の安部佑太さん。ここをどんな場所にしていくか企画し、以前まで古道具の販売をおこなっていたのは、妻の瞳さん。
約1年間、箱崎商店街の一角で陶芸と古道具の販売をおこなってきた文脈はリニューアルをおこない、2023年9月に再オープンした。
「『ここは夫婦の実験場だね』って話しながら動いてきたので、これからも変化していく場所だと思ってます」と話す瞳さん。
一般的な店舗のスタイルに縛られず、やりたいことを話し合いながら形を作っていく文脈のお二人にお話をうかがった。
リニューアル後は『商店街のスタジオ』のような場所に

リニューアル後の文脈は、古道具の常時販売は考えておらず、佑太さんの器の販売と陶芸教室は継続しておこなっていくそうだ。
大学時代からまちづくりに興味のあった瞳さんは、文脈を『商店街のスタジオ』のような場所にしたいと話してくれた。
「学生の頃、まちづくりの活動に参加したことがあって。街のことを知ったり、友達以外の人と出会って関係性ができたりすることが、とても豊かだなってその時に感じて。1年間ここを運営して学んだこともあり、リニューアル後は展示やイベントをおこなうなかで、人が集って新しくつながるような場所にできたら面白いなと思ってます」
文脈のスタートはひとめ惚れの物件から

陶芸家で手先が器用な佑太さんと、考えることや企画が得意な瞳さん、いつか夫婦で何かできたら面白そうだねと話してはいたものの、こんなに早く実現するとは思っていなかった。
「偶然気分が乗った日にネットで不動産情報を見ていたら、ここを見つけて。商店街がいいな、それで箱崎ならよりベストだなと思ってたので、これはもう運命や!って(笑) すぐ次の日に見に行きました。人気の物件だったので早く決断しないといけなくて…ここでやるって決めたのは私です(笑)」
「指揮を取るのは彼女ですね(笑) すごくいい場所だって二人で盛り上がって、見に行った次の日くらいに『借ります』って言ってたね」
もともと箱崎の街にゆかりがあった二人。いつか何かしたいの“何か”を決めるよりも先に、ひとめ惚れしたこの場所を借りることを決心したそうだ。
夫・佑太さんが陶芸の道を選んだ理由

文脈で陶芸教室の先生をしている安部佑太さん。陶芸は大学時代から学んでいたそう。
「絵描きになろうと思って美術系の大学に進んだんですけど、将来を考えると、ちゃんと食べていける仕事をしたいなって思って。仕事としてお金を稼がないといけない。かといってあまりやりたくないことを仕事にはしたくない。自分が持っているスキルでできることはなんだろう…そう考えたときに僕の中で“陶芸”が候補に上がりました。
もちろんやっていても楽しかったですし、陶芸は生活の中で使うものなので、お客さんが美術に触れる一歩目に丁度いいんじゃないかと思うんです」
自分がやりたいことと、仕事としてできることを掛け合わせて陶芸の道を選んだ彼。陶芸教室では、生徒の方の要望に合わせて、手を加えすぎないことを心がけている。
「自分が作ったってことを感じてもらいたいので、綺麗に作り上げたい方にはサポートをしっかりしますし、とにかく自分で作り上げたいという方には手を加えすぎないように心がけています」
得意が違う二人だから まかせる、話し合う

夫婦といえど、二人で一つの場所を作るのは意見がぶつかることもあったのではないかと尋ねると、「意外とそんなことはなかったよね…?」と二人で思い返すように話してくれた。
「こうしたいって事に関しては、その都度お互い説明して、相手のOKが出たらそうするとか。二人で作り上げていく場所だなと思ってるので。基本僕が作る担当で、彼女が場所づくりとか考える担当で、お互いの得意な方を活かしながら空間づくりをしています。変に分野が被っていないので、こだわりがぶつかるってこともないです。」
「やりとりしながら、その時二人の中でベストなものを作っていった感じですね。逆に、彼がやりたいって言ったことがわからないときもあって、『わかんないからやっていいよ~』って言うこともあります(笑)」
「お互いの分野の経験値が違うので(笑) 頭の中のイメージを言葉で説明しても多分伝わらないんです。その時はとりあえず成果物作ろうって(笑) 曖昧でもお互いある程度信頼しているので進められています」
とことん話し合うこと、曖昧なときも相手を信頼してとりあえず進められること。そうして作り上げた文脈の店内には、棚や仕切りの一つにも、ああじゃないこうじゃないと二人が交わした会話が詰まっている。
“小さな商い”はもっと気軽に構えていいんじゃないか

現在、瞳さんは平日は会社員として仕事をしており、佑太さんはご自身の創作活動やイベント出店など、それぞれの仕事と文脈の活動を並行しておこなっている。休日の時間を見繕ってDIYをし、場所を作り上げたお二人だからこそ、何か始めたいと考えている人を応援したいという想いがあるそうだ。
「仕事しながら同時に場所作りも進めるのって、とても大変だと思うので。リニューアル後の文脈は、この場所をお試しで2日間とか1週間とか使ってみて、どんな感じかってのをつかむ場所にもしてもらいたいと思っています」
「お店をやるとか、何か始めるって、重い腰を上げないといけない、思い切り決断しなきゃいけないみたいな…私もそう思っていました。でも実際にやってみると、もっと軽く構えていいんじゃないかなって。始めることも辞めることも、変えていくことも、もっと簡単に選んでいいんじゃないかと思うようになりました。そういう刺激がお互いに得られる場所にしていきたいですし、小さな商いに挑戦する人が増えたらいいなと思います」
自分たちで実際にやってみたからわかること、伝えられることがある文脈の二人。夫婦それぞれの好き・得意が詰まったこの場所から、今後もおもしろい出来事が広がっていくのではないだろうか。
ライター:金子華之
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文脈
◎陶芸教室受付中
毎時間3名までの少人数制・筥崎の茶菓子付き
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◎きほんの道具あべ
安部佑太さんが制作・販売する陶芸品。オーダーも可能です。
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