私らしさという対価 カフェ ・ Tea house miya

畑と住宅地が連なる福津市上西郷の路地。道しるべを辿ると、レトロなタイルが印象的な大正ロマンを感じる古民家が現れた。
その1階にある“Tea house miya”(ティーハウス ミヤ)の扉を開けると、楽しそうに話す店主ミヤさん(中宮好恵さん)の声が聞こえてくる。

野原のちいさな道しるべ
「今日は朝からお客さんが多くって、少し待っててくださいね」。
片田舎にあるカフェだが、なぜこれだけお客が絶えないのだろうか?
どうやって知られているのだろうか。

話を聞いていると、ミヤさんは今とは別の場所で一度、カフェを運営していたことがあるのだそう。8年程前、観光客は少なく人口が減少していた福津市の町おこしの一環だった。
「将来、主人が定年退職したら夫婦でカフェができたらいいね…と話しているときに、ちょうどカフェの話が来たんです。これも何かのご縁だからと始めたものの、とにかくてんやわんやでした」そして期間が終わり、お店を閉めることに。
「あの経験があるから、奥まった場所でカフェを開くことへの不安は全然なくて。この場所もmiyaらしいねって言われるんですよ」。
場所を変えればゼロからのスタート

ミヤさんがカフェの仕事を再開させたきっかけは友達の活動だったそう。
自身の屋号でイベントに出店している友達を見て「楽しそうだな」と感じた。それで箱崎で月に一度開催されているハコイチ(買い手や作り手同志の交流を育む場)に出店。
オリジナル商品の『福っ茶』を販売し始めた。名前の由来は「福津で福が来るお茶」というもので、商標登録も申請。25種類の野草や穀物をブレンドした香ばしい健康茶だ。
素敵なディスプレイの出店者の中で、最初は段ボールに布をかけて棚を作り工夫していたのだそう。
「段ボールは軽いから運びやすいんですよ。行商みたいだなって思ったけれど、どこに行っても場所を変えればゼロなんです」。
パンや焼き菓子に比べて、お茶はなかなか売れない。その中でも「いつかカフェをやりたい」と思う気持ちは強くなっていった。
数年前から興味があった畑を始め、野菜を収穫出来るようになり「こんなにおいしい野菜が採れるなら、みんなに食べてもらいたいな」と思うようになった。
そんなある日、旦那さんから「もう一度カフェにチャレンジしてみたら」と背中を押してくれたことで、2022年6月に”Tea house miya”をオープンした。
ワンオペでのバランス

ひとりひとりのゲストに耳を傾けて
現在、カフェをオープンしてちょうど3年目になるそうだ。今は「自らの手で育てた野菜やハーブを一人でも多くの人に食べてほしい」という気持ちでやっている。
「畑で水をやる、種をまくところから料理だと思っているんです。この野菜はこんなふうに使ってみようと、お皿に盛る野菜をイメージしながら育てています」
野菜やハーブを育てることからカフェの運営、お茶の卸販売までをすべて一人でおこなっているミヤさん。畑、カフェ、自宅が別の場所にあるため、カフェは週3日で運営することにしたそうだ。
「人のつながりでご縁がある方がふらりと訪れてくれるくらいが、ちょうど良いんです。たくさん対応ができないぶん、つながりは深まるんですよ」
今ではお客さんの9割以上がリピート客だという。
カフェを通じて与えてもらっていること

畑で採れたフレッシュハーブティー
「料理もプロみたいにできるわけじゃないし、大したものを提供できているわけではないのだけど、また来てくれるんです」野菜あふれるランチには手作りの塩麹や醤油麹、味噌甘酒、ハーブオイルやビネガーなどで味付けをする。ミヤさんの手によって、体に優しい素材がお皿に盛りつけられていく。
「最初はこのままでは稼げないと思ったけれど、そもそも何のためにやっているのかというところに立ち返ったんです」
お客さんのひとりが、能登在住の方をカフェに連れてきてくれたことがあった。その翌年に能登で震災が起きた。それがきっかけで、カフェのお客さんの支援にも助けられ、能登半島復興支援に行ってきたばかりだという。
この日のプレートにはわらびが添えられていた。「これは能登のおばあちゃんが採ってくれたわらびなんですよ」ミヤさんから笑みがこぼれる。
「自分も生き生きできて、相手も元気になれる。働くことでそういうやりとりを与えてもらっていることが大事だなって思うんです」たくさんの人と出会い、時に失敗を重ねる日々の中で大切な気づきもあった。
「やりたいことができ、毎日の生活が充実し、周りに好きな人たちがいる。私らしい働き方が出来て、やりがいを感じられることが自分自身への対価だと思ったんです」。
世話好き、人好きがカフェの仕事に

黒板でイベントのお知らせするミヤさん
「なぜ今、カフェで働いているのかって思ったんです。カフェへの憧れがあった訳ではないんですよ。人に対してやってやりたがりで世話焼きなんです。夫婦で楽しく、人が訪れる場所を作りたいと思っていて」
カフェでは空きスペースを利用したイベントも開催されている。「若いアーティストさんが定期的に作品を展示して『miyaを通じて、大きくなります』と言われるんですよ。また次の進歩を待つのも楽しみなんです」
偶然の出会いや、ご縁が大切だと語るミヤさん。人が好きな店主だからこそ、自然と人が集まる場所になっているのだろう。
大切にしてきたこと

「昔は自分に自信がなかったんですよ」
そんな中、協力してくれるみなさんの“おかげさま”なんだって気付いたそう。
一人きりでやっているようでも、どこかで人の支えや助けがある。それを感じられるからこそ、自分のやりたいことを続けられる。苦しかったら、苦しいといえる。助けてほしかったら、助けてといえることが大切だという。
「何かやりたい人にはのびしろがあると思います。ここが最終地点だと思わず自分の可能性を信じて、こうとは決めずに柔軟に道筋を変えていくのも大事だと思うんですよ」。
私らしい循環で

生き生きと育つ、畑の作物
「いくつになっても人が来てくれてみなさんも楽しそうで、そして私自身も人が喜んでくれるようなことができる。それくらいの循環がちょうどいいんです。私はこれくらいの小さなことで満足できるんだなって思ったんです」。
その満足度はこれまで色々やってみて、考えてきたからこそ見つけられたものなのだろう。負荷がかかった時、心に柔軟性をもてば曲がることはあっても折れることはない。そんなしなやかな姿がミヤさんから見える。
「ヘトヘトに疲れて『いらっしゃいませ』とはいえないから。ご機嫌でいるようにしているんですよ」
元気だからこそ人に伝えられるものがある。
目に見えないこころの部分こそ、相手に伝わるもの。
周りの人々にポジティブな影響を与え、より良いコミュニティを作っている。ティーハウスミヤに共感し、訪れるお客さまの気持ちが分かるような気がした。
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ホームページ:Tea house miya
Instagram:teahousemiya
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この記事の執筆者

ninatte事務所
ninatte九州の運営事務局です。銭湯跡地、旧梅乃湯を拠点に活動中♨事務局ライター数名で日々記事を更新しています。