優しくて奪われがちなあなたへ 青の写真家 榮留皓太

よく晴れた青い空ときらきら輝く海、宮地浜。
今回お話を伺ったのは、この宮地浜ともなじみが深い福岡県福津市出身のフォトグラファー、榮留皓太(えいどめこうた)さん。
榮留さんが生み出す写真作品の特徴は「青」。
夕日や電線、枯れかかった花、野良猫など、日常の中の何気ない風景を切り取りつつ、その多くが青を基調として表現されています。
柔らかくあたたかな青、深くひんやりした青。一作品ごとに印象は異なるものの、なぜ青という色にこだわりを持っているのでしょう?
青に込めた想いを聞いていくと、そこには人生のターニングポイントとなった出来事と、それを経てより確かなものになった榮留さんの美学がありました。

やりきったから、次の場所へ
仕事のための勉強から写真にどんどんはまっていく榮留さん。カメラ店の仕事も誠心誠意取り組み、納得のいく成果を出した後は、カメラ修理の仕事に転職することに。好きなカメラをより多角的に学ぶことができると思ったからだ。
そして、カメラの内部構造も理解し、修理の仕事もある程度やりきったと思えたとき、急にフリーランスになることを決心した。
「この場所ではとことんやりきったな、と思ったときに環境をガラッと変えるのが結構好きなんです。写真が好きだから、写真業の分野のなかでまだやってないことをやってみようと思って。いきなりフリーランスのフォトグラファーになりました」
カメラマンの経験もほとんどなかったのにね、と笑顔で話す榮留さんは、突拍子もない決断を楽しんでいるようにも見える。
「30歳でフリーランスになったから、周囲のみんなに反対されましたね。会社にそのままいれば出世コースに乗ってたかもしれないのにって。でももうここではやりきったって感じていたから」。

青の写真家になった理由
フリーのフォトグラファーになってからは、前職までの経験が思いがけないご縁を運び、なんとか仕事をもらうことができた。国内外のさまざまなイベントにカメラマンとして赴き、その傍らで自身の個展も開いていた。
「もともと『色をテーマにした表現』が好きで。当時はたくさんの色を使って虹色に作品を展示していました」
現在とは異なるカラフルな作品。どうやら青に絞ったのはここ1年ほどのことだそう。
「1年くらい前に、大切に思っていた人たちからの裏切り、手のひら返し、責任転嫁が立て続けに起こったんです。アイデンティティが砕かれるような体験で、今までにないくらいメンタルがボロボロになって……」
精神的にも辛い出来事の連続だったが、それが自分の深い部分と向き合うきっかけに、そして表現のターニングポイントになった。
「『世のため人のため』という思いが昔から人一倍強いのかもしれません。『みんなのために」と思って頑張ってきたけど、その『みんな』の中に『自分』を入れていなかった。いつも自分を犠牲にしながら振る舞っていて、全然自分を大切にできていなかったんです」
「頑張ってきた自分が報われないことがすごく悔しい。けど、僕なりの美学があって、自分に悪意を向けた人たちに復讐してやろうとはならないんですよ。その体験をエネルギーにして、美しく自分の表現を貫こうと思って」
自分の表現を貫く。
「青は自分を象徴する色なんです。海や空、大切にしていた青いおもちゃ、青いギター…幼少期からずっと青に囲まれていたから、自分の人生に青が浸透している感覚がある。だから砕けてしまったアイデンティティを再構築して、美しく自分を表現するために青にこだわろう、青の写真家でやってやろうと」
そうして青の作品を生み出し続けた今、榮留さんの表現におけるテーマは『ならばせめて、青く、蒼く』だ。
「『蒼』は青よりもっと深い青のこと。より深く青を追求するという意味を込めています。それはつまり、自分を愛すこと。これからはそこを追求していきたい」。

同じように悩んでいる人へ、届ける
過去の辛さや悔しさを表現に昇華させ、次々と青の作品を生み出す榮留さん。昔は自分の表現を表に出すことに苦手意識があったが、今は積極的に表に出すことを心がけている。
その1つがフォトブック『IRIS(アイリス)』。
自身の個展でグッズとして販売していると、購入してくれたお客さんにはある共通点があった。
「フォトブックを買ってくれた方のほとんどがお子さんにあげるそうで。話を聞くと、お子さんはみんな受験を控えていたり、就職活動中だったり、本当はやりたいことがあるけど迷っていたり。人生の岐路に立って悩んでいる方ばかりでした」
「僕の写真がそういう方々に届き始めたんだと思って。そしたら自分と同じように苦しんだり、もがいたりしている人に寄り添う表現をしたいと思うようになりました。作品のニュアンスも、“悲しみに寄り添う青”から“希望や再生の青”に変化してきているんです」
届けたいと思う人が見つかったことも、作品のニュアンスの変化も、すべて自身の表現を表に出したからこそ見つかったものだった。
「はじめて表に出したときは冷や汗でした。でも、表に出してないってことはこの世界に存在していないのと一緒だから。批判とかもありますけど、それも含めてその人の世界に存在するっていうことに意味があると思うんです。自分ではわからなかったことがわかったし、今は本当に出してよかったと思っています」。

“ちょっとやってみる”の蓄積
現在、榮留さんの個展やwebサイトにはさまざまな作品が展示、販売されている。
のびのびと表現活動をする様子からは想像し難いが、はじめて作品を売る立場に回ったときは、値段のつけ方や売れ行きに自信がなかったそう。
「最初は『売れるわけないやん』って思いながら、手のひらサイズくらいの写真を1枚100円で出したんです。でも1枚目が売れた瞬間、『え!俺の写真に値段つくの!』って。あの感動はやっぱ忘れられないですね。どこかの誰かの家に自分の写真が飾られてんだなって想像するとめちゃくちゃ嬉しかったです」
最後に、自分と同じようにやりたいことがある方へ、何か伝えられることはありませんかと尋ねてみた。
「やっぱり自分の心に従ってやりたいことをやってみるっていうのが最終的に納得がいくと思うんです。でも、いきなり仕事を辞めたり、大きく軌道修正したりするのは、リスクが高いし大変。だからまずは漠然と思い描いてる理想につながるものをちょっとやってみる。それを続けていたら理想がちょっとずつ現実になっていって、気づいたらそうなってるんじゃないかと思います」
気づいたらそうなっている。
榮留さんの中にもちょっとずつを積み重ねてできたものがあるのだろう。
自分なりの美学をもとに今も歩みを進める榮留さんの表現は、より深く、青く、進化していくのかもしれない。

榮留皓太
ホームページ:https://potofu.me/pokke-neoteny
Instagram:https://www.instagram.com/pokke.neoteny/
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この記事の執筆者

ninatte事務所
ninatte九州の運営事務局です。銭湯跡地、旧梅乃湯を拠点に活動中♨事務局ライター数名で日々記事を更新しています。
福岡県福津市在住の、フリーランスフォトグラファー/写真家。
ホームページ:https://kota-eidome.com/?fbclid=PAZXh0bgNhZW0CMTEAAaeITS0LTQ-HxB70KhfxW6gQPrSjjWFt9dJvUGd49Vtr5VlGnsdPeEbWzz7NAw_aem_VudQ5La4PFXr0zuprGJCGg