職人の顔が見える革製品のお店「Japlish」長島高輝さん

カンカンカンカンカン。

ダッダッダッダッダー。

店舗のドアを開けると職人の奏でる音が聞こえてくる。

訪れたのは博多駅から少し足を伸ばした山王公園近く。

落ち着いた街並みに佇む革製品のアトリエ兼ショップ「Japlish(ジャプリッシュ)」だ。

革製品と言えば、財布にバッグに名刺入れというのが一般的だが、Japlishには本革クッション、猫の首輪、扇子カバーと言った珍しい商品も並んでいる。

デザインから仕上げまでを工房の職人が行うことで、オーダーメイドでありながら10日以内に発送する体制を整えているという。

店舗奥の工房を覗くと、まさにオーダーを受けた商品を作っているところだった。

今回お話しを伺ったのは、レザークラフト歴25年になるというJaplishの長島さん。

旅行好きで愛猫家、DIYも好きだという長島さんは、一体どんなものづくりをしてきたのだろうか。

最初の講師は図書館の本

元々ものづくりが大好きだった。

とはいえ、革にこだわりがあったわけではなかった。

友人に誘われてスタートしたのがたまたまレザークラフトだったのだ。

「その時はYouTubeもなかったんで、作り方は図書館で本を借りて学びました。意外と探すとあるんですよ。『レザークラフトの手縫い入門』みたいな本が。それを何冊か読んだり。誰かに習ったりはしていなかったですね」

東急ハンズで道具を集め、小物作りからスタート。

1年経つ頃にはトートバッグやショルダーバッグを作るほどになっていた。

会社用に自作したビジネスバッグで通勤していた時期もあったという。

「作ったビジネスバッグを見て、会社の上司とか同僚、あとは友達から作ってくれと言われることが増えて、案外仕事になるかもなと思えてきて。その時からオーダーメイドの革作りが始まりましたね」

ほぼ未経験で飛び込んだ革の世界

当時の仕事は建築関係の営業職。

本格的に革のものづくりを学ぶため、転職活動を経て入社したのは、渋谷にある鞄メーカーのHERZ(ヘルツ)だった。

まだ20代だったとは言え、経験のない業界への転職。

そこに不安はなかったのだろうか。

「洋服って学校があるじゃないですか。だからアパレルメーカーには経験がなかったら飛び込みづらいですけど、革は専門学校もないし、みんなが未経験だから飛び込みやすかったというのもあります。前の会社のスタッフもそうだし、Japlishに入社する人もそうですけど、皆さん未経験の方ばかりですよ。鞄メーカーを渡り歩いてる人とかは全然いなかったです」

2002年に入社して様々な鞄や小物を作ることになり、2007年にはHERZ博多店の立ち上げスタッフとして福岡へ転勤。

その後、2009年に独立しJaplish(ジャプリッシュ)を立ち上げたとのこと。

「博多店の責任者になる可能性が出てきた時に、今辞めないといつ辞めるのかな?と思って。タイミング的には30歳になる時でした」

独立後に訪れた転機

「趣味でやっている時から『いつかは独立』と考えていた」と話す長島さん。

独立当初はハンドメイドのイベントで商品を販売したり、友人の洋服屋さんにも置いてもらったりしたという。

ハンドメイドのイベントでは他の作家さんと知り合い、次の出店に繋がることもあった。

だが、それだけでは暮らしていけない。

バイトをいくつも掛け持ちするような生活をしていた。

そんな生活が1年半ほど続いた頃だった。

前の会社の取引先から「よかったらうちのお店で取り扱ってみたいんだが」と声がかかり、環境が大きく変わることとなる。

「ちょっと前までバイトしてたのに、今度は人を雇わないといけなくなりました」

最初に選んだ工房は、お寿司屋さんの跡地。

「1階が駐車場、2階が宴会場の座敷になっていてその2階部分を丸ごと借りました。とはいえ、最初は工房機能だけで店舗にするつもりはなかったんです。作るだけで手いっぱいな状態だったので、制作専門の場所でした。でもかなり広かったから、途中からお店として販売をしてもいいんじゃないか?と思ってお店にしたんです」

しばらくその場所で営業を続けたが、建物の老朽化で取り壊しが決定。

2022年に現在の店舗に移転することとなった。

計算通りなことも、適当なことも

Japlishには他ではあまり目にしないオリジナルの商品が多数ある。

店内を眺めていると、愛猫家の長島さんならではのアイデアが光る猫の首輪を見つけた。

「(猫の首輪を)探したらスタッズみたいなのがついてて、結構装飾が多いのばかりで。

本当はみんなもっと装飾がないものを探しているのでは?と疑問に感じていて、シンプルなものを作ってみたら、結構注文があったんですよね」

これまでに商品化したものは100種類以上。

廃盤になったものや商品化しなかったものを含めると、その数は200種類ほどにもなる。

その数の多さに驚いたが「本当はもっと新商品を作りたい」と長島さんは話す。

「新商品は作るだけではなくて、撮影をして、説明文を考えて、色々なサイトに載せて、という作業が大変です。そうしたPC作業も自分でしているので、新作に取り組むには気合が必要です。そういうジレンマみたいなのはあります。新商品は最初から売れるものでもないし。

洋服と違って季節が関係ないので、『今年はこれ』というわけでもないんです。かといっていつも同じ商品のお店は面白くないし」

「お財布とか入れるものが決まってるとデザインが限られてくるので、オリジナリティを出すのは難しいんですよね。変にオリジナルを出しすぎて使いづらくても意味がないですし」

「練りに練ったデザインを完成させるとイマイチだったり、適当に作ったと言ったらあれですけど、型紙も作らずになんとなく作り上げたのがよく出来て『これいいじゃん』と定番製品になったり。

そういう面白さもありますね。もちろん計算通りで完成度が高いのも嬉しいです」

人気商品の扇子ケースはなんとなく作った商品の1つだという。

「オリジナルの扇子とのセット販売も面白そう」と、アイデアが止まらない様子だった。

経験の先にある夢

今後やりたいことは?と訊ねると「直営店に力を入れたいですね。福岡国際空港からタクシーで7分の場所にお店があるから、インバウンドにも力を入れたいですね。今後は海外用のインスタを運用していこうかと。コラボ、企業のノベルティグッズもしてみたいです」と答えが返ってきた。

2019年には台湾のハンドメイドイベントに出店。

取材に訪れた日は、台湾のサイトで限定販売される人気キャラクター「ミッフィー」とのコラボ商品の発売日だった。

ミッフィーとのコラボは今回で2度目。

前回は400個が完売したという。

オンラインも含む海外での販売実績。

そして旅行が好きだという長島さんは、海外旅行でおよそ20ヶ国を訪れたという経験の持ち主だ。

このような海外に関する興味や経験から、インバウンドへの夢も生まれてきたのだろう。

さらには「DIYが好きなので内装もいじりたいです」とも語ってくれた。

すでにドアの取手や、入口にある置き看板は革を使用してオシャレに仕上げられている。

店先に掲げられた看板もDIYしたもので、以前の店舗から持ってきた廃材を使って作ったそう。

現時点でも「ものづくりが好きだ」という長島さんの一途な想いが溢れているJaplish。

今後どう変化していくのかが楽しみだ。

「なんとかなる」

これは、今後独立を考えている人に向けた長島さんからのメッセージだ。

「僕がなんとかなってきたから言えるのかもしれないですけど、なんとかなりますよ。前の会社の後輩たちは独立する時に銀行からお金借りて計画を立てる人が多かったけど、僕はあまりお金も見通しがないのに、「なんとかなるだろう」と考えてました。運が良かったのもありますけどね」

独立するにあたって、準備を完璧にしていたわけではない。

とはいえ、独立後に紆余曲折はあった。

メインの取引先が倒産寸前になるなど、売上が下がった時には別の販路としてハンドメイドサイトを強化。

福岡市のふるさと納税の返礼品として販売したり、直営店に力を入れたりと工夫をしてきたのだ。

「なんとかなる」

長島さんから発せられたその言葉からは、定期的に訪れる壁を乗り越えようとする静かな情熱が感じられた。

カンカンカンカンカン。

ダッダッダッダッダー。

今日も工房には真剣な眼差しで革と向き合う長島さんの姿が見える。

ぜひ一度店舗に足を運び、職人が奏でる小気味いい音に心躍らせてみてはどうだろうか。

Japlish

〒812-0015 福岡県福岡市博多区山王1-12-30 アバンダント80 1F

Tel/Fax: 092-400-3522

営業時間:11:00-18:00

定休日:水・日

Webサイト:https://japlish.jp/

Instagram:@japlish_atelier_since2009

Google Map:直営店

この記事の執筆者

自他ともに認める"検索魔"。パソコンとスマホは手放せません。
知らないことを知るのが大好き。旅と人生の話を聞くのも好き。
好きが高じて世界一周してきました。

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革職人Japlish 長島高輝

福岡県福岡市博多区山王
財布・名刺入れなどの定番品から、本革クッション・猫の首輪・扇子カバーと言った珍しい商品も並んでいる。
店内のBGMは、長島さんが以前使っていたiPodに入っている曲たち。

旅行好き。愛猫家。DIYも好き。

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