「でも、とにかく楽しいから」好きに向かう力が人生を動かす コラージュアーティストMasaki

子どもの頃に好きだったことを思い出してみてください。鬼ごっこ、お絵描き、絵本、歌うこと・・・他にも思いつくことがあるかもしれません。

それでは、その中で「楽しくなくても、人と比べて得意だから好きだったこと」はどのくらい?きっとその好きなことは、どれも楽しくてたまらなかったはず。

「仕事にするなら、好きなことより得意なことがいい」と書店に並ぶビジネス書にはよくある。

確かにお金は誰かの役に立ててこそいただけるもので、その点働いていなかった子どもの頃のようにはいかないものだ。

大人になるにつれて、人より得意か苦手かを優先して物事を決めることが自然と増えていく。もちろん段々と楽しさを見出していくことはあるし、決して悪いことではないけれど・・・「楽しい」という感情に任せて何かを始めたり、続けたりすることへのハードルは段々と上がっていき、そうしているうちに自分の「楽しい」に対してのアンテナも鈍っていってしまう。

自分は何が好きで何が楽しいか、ぼんやりとしていて分からないという悩みを持つ人も多いのではないでしょうか?

「自分の好きなことが自分が人と比べて上手いのか」子どものころの私は、さほど気にしていなかった気がする。

「手先は今も器用じゃないです。だから作品を作るのもめっちゃ時間かかりますね。でも、とにかく楽しいから」穏やかに響く声でそう語るのは、Masaki Murashita(以下、Masaki)さん。

福岡を拠点に活動するコラージュアーティストだ。社会人として働きながら市内での展示や、SNSで作品の発信を行なっている。

ライブペインティング中のMasakiさん

ストリートテイストな彼の作品からは、いつもひと言にはまとめきれない強い思いや願いが感じられる。実際に話を聞いてみてもやはりひとつひとつの作品に制作のきっかけやテーマがあり、筆者が思う彼の大きな魅力のひとつ。

大人になるうち「好き嫌い」より「得意苦手」で人生の選択をする人が増える中で、「楽しいから好き、好きだからやる」を貫いている彼の言葉は丁寧で柔らかく、けれどしっかりとした芯を感じられる。

堅実に、着実に、けれど自分の「好き」には正直に。「楽しい」を追い求め続けてきた日々を伺った。

何か一つ、捻ったことをやりたかった

「そもそも、最初は友達を手伝うことから始まったんです。大学4年の春に学校の友達から『アパレルをやりたいから写真を撮ってくれないか』って頼まれて」

元々写真を撮るのが好きだったことやコロナの時期で学校が休みだったこともあり、友人の活動を手伝うことにした。

「当時コロナの影響で全部がオンラインでずっと家にいて。アパレルの写真を撮り始めて半年ぐらい経った時に、『もうちょっとクリエイティブなことをしたい、自分で何か成果物を出したい』って思うようになりました。日頃撮ってる写真で何かできないかって考えてたどり着いたのがコラージュだったんです」

写真を使って何かやりたいという思いの中で偶然出会ったコラージュに、どんどんとのめり込んでいった。

コラージュを始めた当時の作品

「コラージュの面白さは、世界を自由に組み合わせて遊べるところですかね」

自身でも写真を撮るMasakiさんだが、コラージュには写真や絵のような「一部の景色を切り取る面白さ」とはまた違う魅力があるのだいう。

「コラージュってなったらまたもう一つ自由度が上がるんです。例えば街中のゴミ箱とかも、写真のメインにはあまり選ばないけど、コラージュなら『このゴミ箱にお花を入れたら花瓶に見立てられるかな・・・』とか、自由に考えられるんです。学校や仕事の行き帰りとか、すごく楽しいですよ」

目の前に広がる世界を「完成された作品」として切り取るのではなく、そこに自分で一手間加えて、新しい作品を生み出す。その視点を持つだけで、当たり前の日常も新しく見えてきそうだ。

人生の分岐点、「好き」を真剣に考えたこと

「大学の時は何も考えてなかったです。ダンスばっかりやってたので就活も出遅れてしまって。コロナで全部仕様が変わってしまって、どうしようって戸惑いながら、とりあえずふわっとやりたいかも、くらいの会社に就職が決まってたんです」

「お恥ずかしい話です」と、はにかみながら当時のことを振り返る。

「大学4年生の時にアートとか写真とかに出会って、俺こっちで食っていきたいって思ったんです。 でももう内定企業の研修にも参加していたし、ここからもう一回就活することへの恐怖心もあって。『アートとかカメラは自分の趣味で抑えよう』って」

アートや写真で生計を立てたいとは思ったものの、当時大学4年の12月。何より両親への申し訳なさもあり、好きなことは趣味にしていくことを決めた。

翌年4月、働いてみると、現実は思っていたものとは違っていた。仕事の先に未来が見えず、「このままでいいのか」という不安が募るばかり。

友人からデザイン専門学校の存在を聞かされたのは、そんな時だった。

「3年働けばお金はたまる。だけど、3年待ってる間に『結局アート辞めてました』ってなったら意味がないじゃないですか。アートは絶対辞めたくなかったので、思い切って1年で退職を決めて、専門学校に入学することにしたんです」

3年間は会社で働き、その貯金で入学することも考えたが、「好きなアートや写真で食べていきたい」という思いに突き動かされ、初めて自分の人生と向き合った。

両親もすぐには賛成してくれなかったが、それでも、何度も実家へ足を運び、思いを伝え続けて、ようやく理解を得ることができた。

そして、自分の好きを磨く新たな一歩を踏み出した。

専門学校での2年間はとにかくクリエイティブを突き詰める時間。アートやデザイン、ブランディングなど、そこで学んだ専門知識やたくさんの経験は現在の活動や就職した会社での仕事にも活きているという。

「クリエイティブに没頭できたのもそうですし、時期的にもよかったって思うんです。デザイン系は意外に体力勝負な業界で、若いうちに下積み経験もしっかりとしなきゃいけないし。結局はデザインとは関係のない会社に入ったんですけど、クリエイティブな業界はどこも体力が必須だから、あのタイミングで決断したのはほんとナイスですね」

新卒で入った会社を1年で辞めることは、慎重派に感じられるMasakiさんにとってかなり大きな決断だっただろう。好きなことを仕事にしたいと考えた時、「手に職をつけて働くために必要な時間」とも真剣に向き合ったからこその選択だった。

この「好きを諦めたくない」という真っ直ぐな思いは、人生の選択だけでなく専門学校在学中、多忙な中での制作スタイルにも影響を与えている。

大学時代は自身で撮った写真を中心にデジタルコラージュをしていた彼が、今のような雑誌の切り抜きを多用するスタイルになったのも、デザインの専門学校に通い始めた頃から。

「今のスタイルになったのは1、2年前からですね。ちょうど専門学校に通い始めた頃で写真を撮る時間がなかなか取れずに。でもコラージュが楽しくて、元々雑誌を読むのが好きだったので、これを素材にできないかな、とふと思い立ったんです」

調べる中で同じように古い雑誌の切り抜きなどを使って作品を作るアーティストがいることを知り、学校近くの古本屋で古い雑誌を買ってきては、切り抜いてコラージュをするようになっていった。

「普段、特集記事の内容で雑誌を買うことが多いけど、コラージュ用の雑誌は写真だけで選んでますね。英語は読めないですけど、素材にすると面白そうだとか。一枚でもいいと思った写真があったら買っちゃいます」

「好きに向かっていく気持ちは強いかもしれないです」

紙を切ったり貼ったりするアナログコラージュは、細かい作業が求められるイメージ。そのため手先の器用さも求められるようだが、Masakiさんは決して器用な方ではないらしい。

「元々めっちゃ不器用なんです。美術も元々は興味なかったですね。でも特に展示をするようになってから、データを切り貼りしてたのを少しずつアナログに移行していってるんです。不器用だからめっちゃ時間かかるんですけど、楽しくて」

苦手だからやりたくないとは思わなかったのか?という問いの答えに、Masakiさんの芯の強さが垣間見えた。

布地でのコラージュ(写真奥)やレコードをキャンバスにしたり(手前)と、アナログならではの作品制作にも挑戦している

「苦手だからやめておこうとはならないですね。いつも『好き』の方が強いっていうか。

大学時代にダンスをしてたんですけど、元々人前に立つのはすごく苦手で。ステージに出る前に名前を呼ばれるんですけど、みんなが自分の名前を叫んでるのがほんっとうに恥ずかしかったです(笑)。今でもよくあんなに多くの人の前で踊れたなって思います。でもダンス自体は楽しいし好きだし、恥ずかしさよりも好きの気持ちが上回ってましたね」

コラージュで展示を行うようになってからも、多くの人に作品を見に来てもらいたいという思いに押されて人前に立つことを続けている。

上手くできないからと敬遠せずに、むしろ好きなことの為にどんなことにも向き合っていく。

「好きに向かっていく気持ちは強いかもしれないです」と穏やかに話す姿がとても印象的だった。

焦らない、比べない

「これで食っていきたい」と思えるほどの強い「好き」に出会ったことをきっかけに、着実に計画的に道を進んできたMasakiさん。じっくり考えて自分のペースで動くやり方には、高校時代の苦い経験も影響しているのだという。

「大学受験は、ほんとに大失敗でした。僕のクラスはほとんどが推薦での入学を重視していたんです。僕も受けたんですけど、落ちてしまって。もう時間がない中で慌てて準備をして、なんとか一つ、ギリギリ受かったところに入学しました。推薦で受かったクラスメイトが教室で遊んでる中で勉強しないといけないのはきつかったですね・・・焦るから勉強も上手くいかないし、詰め込んだから完全に準備不足で、ほんと苦い思い出です」

当時は勉強が上手くいかないことで周囲の人に優しくなれなかったり、上手くいっているように見える周りの友人と自分を比べては焦ってしまったりと、本当に苦しかったそう。

「今でもしんどくなるとそこに立ち戻って、反面教師にしています。『あんまり焦りすぎても意味ないよ。それだったらちゃんと時間作って、落ち着いてやるべきこと1個ずつ終わらせて進まなきゃだよ』って言い聞かせてます」

これからも「好き」へ向かって。

焦らず、人と比べず、本当に自分にとって大事なものや必要なものは何かを常に考えていく。新たに始まった「働きながら作品を作る」という挑戦にもその姿勢が活きている。

この春専門学校を卒業し、社会人として働き始めた。働きながらの作品作りは、アート漬けで忙しかった2年間とはまた一味違う難しさがあるという。

取材時は西戸崎のドーナツ屋さん「Cenezees Doughnut」での展示に向けて準備期間で、まさにその難しさと向き合っている最中だった。

「制作に集中するのが結構大変で。以前のようには手が進まずに、今回は今までになく苦戦してます(笑)。でも、難しいことだけど、ドキドキするって捉えることもできるなというか。この状況さえも楽しめたらと思います」

「Canezees Doughnut」での展示フライヤー

「苦しさのことも、いつか乗り越えた先で作品に昇華させたいと思ってます。そのためにも今はしっかり味わっておきたいですね」と語る彼の眼差しには、やはり好きに向かう穏やかで熱いパワーが感じられた。

「実績とか、フォロワー数とか、数で見るとゆっくり進んできてるのは事実なんですけど。『活動を続ける』ことはずっとやってきたことなんで、そこは強みかなと思ってます。続けていく大事さを僕はすごく感じてますね」

コラージュを始めてから約5年。同じ時期に活動を始め、実績を残している仲間もいる反面、すでにアーティストとしても活動を辞めてしまった人もいる。

「コラージュも写真も、じいちゃんになっても続けられそうだからいいなって思ってるんです。写真は、始めたころからずっと好きな人の楽しそうな姿を撮るのが好きだから、友だちとか奥さん、子どもを撮り続けたい。コラージュも、30歳までには海外で展示をしてみたいなとか、もっと県外展示に呼んでもらえるようになりたいとか色々目標はあるんですけど。やっぱり一番は続けることだなって思います」

「好きなこと」をやる時、ストッパーになっているのは案外「現実」よりも「どうせできない」という思い込みの方ではないだろうか?

得意や苦手は、「やりたい・楽しい・好き」の前ではどうにでもなってしまう。たとえ働き方を変えずとも一歩ずつでも好きに向かっていくことは、人生を通した楽しみに繋がっていくのかもしれない。

彼の作品展示の機会に、ぜひ彼の作品と思いを聞いてみてほしい。

好きに向かっていく彼のまっすぐな気持ちに触れた時、自分の気持ちも動かされる。

「私も自分の好きを大事に生きよう」

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Instagram:Masaki Murashita

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ライター 原口玲花

この記事の執筆者

原口玲花

福岡県久留米市出身のシンガーソングライター。人の考えていることを考えることが好きです。創る人たちの生き方を、創り手の視点から書いてゆきたい。🍑

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コラージュアーティストMasaki Murashita

福岡を拠点に精力的に活動。

「好き」を突き詰めるコラージュアーティスト。

イベント一覧
【開催終了】Masaki Murashita Popup events “polychrome”

個展“monochrome”に相対するイベントとなります。
表裏一体の二つの世界を通じて、いろんなクリエイターのpolychromeな作品とライブで、訪れる方に小さな希望と彩りを届けられれば幸いです。
9.27(Sat) 11:00-23:00 — 9.28(Sun) 9:00-23:00
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【開催終了】『Masaki Murashita』個展開催!

コラージュアーティスト『Masaki Murashita』さんの個展開催が決定!
2025年9月22日(月) ~ 9月22日(金)

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【開催終了】「ART BASE Collection 2025」開催中!

開催期間中ART BASE KMYでは『ART BASE Collection 2025』と題し、ART BASE KMYで活動するアーティストを中心とした作品展示を行います!!
2025年9月13日 ~ 9月28日
ART BASE KMY

入場無料

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