『特技は人の背中を押すこと』MINORI ビレッジ・PILATES・CAFE 友末実歩

何かにチャレンジしてみたい。
でも本当に自分にできるのか。
誰かが背中を押してくれれば、きっかけがあれば。
そう思ったまま行動に移せず気持ちが消えていく。
このような経験は誰にでもあるのではないだろうか。
2025年2月中旬。
Instagramでこんな投稿を目にした。
「MINORIビレッジ(仮)
自分の新しい可能性が実る
『願えば叶う』世界をつくりたい」
発起人は友末実歩さん。
「動けない原因が何かあって、不安だったり、周りの目だったり、自分を信じきれてなかったり。でも、MINORIビレッジに来たらお金はいらない、住むところもある、食べるものもある。その人の本当にやりたいことが開花すると思うんです」
理学療法士でありピラティス・ヨガインストラクター。
身体のことを専門としてきた友末さんが、なぜMINORIビレッジ、村をつくろうとしているのか。
友末さんの歩みと、村づくりを目指すきっかけについて伺った。
辞めるのは副業か正社員か

現在はピラティススタジオやカフェの経営をしているが、大学卒業後は理学療法士として病院に勤務。
理学療法士の仕事に慣れてきた頃、「自分がまず綺麗になりたい」とヨガに通うことにした。
しかし、単に娯楽としてではない。通い始めたその日にヨガインストラクターの資格取得を決め、学びとして自分自身を高めていった。
資格取得後、資格を活かすために副業を始めることに。
地元・宗像の友人に声をかけ、コミュニティセンターでヨガのレッスンを行った。
「自分としては初めて正社員としてのお給料ではなく、直接いただく、感謝として『良かったよ』って言っていただくお金なので、その時は5000円ぐらいの売り上げでしたけど、握りしめるくらいすごく嬉しかったです」
コミュニティーセンターでのレッスンを定期的に続けながら、仕事終わりにスタジオでもヨガのレッスンを担当する日々。
「自分としてはすごくそれは楽しくて、そのままでも別にいいかなって」
しかし思わぬ事件が起きてしまう。
「職場で副業NGと言われたんです。それで、副業のヨガをやめるか、正社員をやめるかの選択になったんですよ。でもヨガのお客さんは自分についているから、そこを切るっていうのは選択肢としてはなかったです」
退職を機にフリーランスになると仕事の幅が広がった。
熊本では放課後デイサービス関連の仕事にも携わり、将来は管理職になることが期待されていた。
福岡と熊本を毎週往復する生活。
次第に友末さんの中で葛藤が生まれる。
「目の前に管理職っていう安定コースがあるわけですよ。安定の道か、うまくいくか分からないけど、今まで続けたヨガのお客さんを大事にしながらスタジオをするかの大きな二択。地位とか名誉とか収入で言ったら、すぐ管理職になった方がいいのは分かってました。でも、自分の本心は明らかにヨガの方に向いていました。
当時はヨガのレッスンで10万円もいってないぐらいだったんですけど、一旦そのまま1本になって(笑)まあコツコツやってみようってことで、一か八かっていう感じでした」
誰にも相談せず、一晩考えてスタジオの物件契約を決意。
気持ちいいほどに決断が早い友末さんだが、不安はなかったのだろうか。
「もちろんめちゃくちゃ不安はありましたよ。でも、最初に借りたテナントの家賃は一人暮らしのちょっと高いバージョンぐらい。もしできなくなったらまた理学療法士の正社員に戻ろうっていう気持ちでやってました」
お客さんを幸せにし、スタッフの夢を叶える

1店舗目(ロイヤルタワー店)がオープンし、1人で1日8レッスンを週6日。
忙しさをありがたく思う一方で2ヶ月目には限界を感じ、学びとしてスタジオに通っていたインストラクター数名に声をかけた。
「そのインストラクターが他の人を紹介してくれて、気付いたら1店舗しかないのにインストラクターが8人ぐらいいて『みんな入れんやん』って」
「その時のお客さんで、健康食を作るのが好きな調理師さんがいたんです。私の別の友達は腸活とか健康食とかが好きで、食の大事さを伝えていきたいっていう想いがあって。じゃあ3人で色々考えてみる?って、カフェの話が進んでいきました。運動した後みんなでお茶会するとか、地域の交流のつながりの場を作れたら。それでカフェに併設したスタジオにしたいと思ったんです」
それぞれの想いが集まって2店舗目の計画がスタート。
しかし、思い通りにならないことが多かった。
「宗像は都市計画法が厳しいんです。市街化調整区域って言って、ピラティスだったらこじんまりできたかもしれないんですけど、飲食ってなると場所がめちゃくちゃ限られていて。本当は海を見ながらできるところを探していたんですけど、海沿いはNGでした」

運よく借りられることになったのは、赤間宿の古民家。
しかし、床はボロボロ、雨漏りがあり、トイレはぼっとんトイレだった。
それに加えて、当時集まったメンバー全員が飲食店未経験者。
飲食店をしている知り合いに弟子入りして準備を進めていったという。
「もうめちゃめちゃ大変でしたね。当初一緒にやる予定だった調理師の方が辞めることになったり、当時のメニューで出していたゆで卵を『終わらん終わらん』って泣きながら殻を剥いたり。0時過ぎまで料理を開発して、朝4時まで家の印刷機を使ってメニューを印刷して。でも、大学の文化祭をみんなでやってるみたいな感覚で楽しかったです」

こうしてオープンしたMINORI CAFE・MINORI PILATES赤間宿店。
1階にはカフェとピラティススタジオ、2階にはホワイトニングとヘッドスパのサロンもある。
「私が『こういうのめっちゃやりたい!』っていうよりも、会った人たちがこうやりたいって言ったことを一緒に叶えようとしてやっていった結果こうなりました。私は何一つ料理もできないし、歯のことも分かんないし、頭ももみもみするくらいしかできないですけどね(笑)」

あっという間に週末の予約がいっぱいになったスタジオ。
遠方からスタジオに通うお客さんも増え、他のエリアにも需要があることを知った。
インストラクターの活躍の場も作りたい。
そんな想いが重なり、思い立った3ヵ月後には3店舗目をオープンした。
「MINORIの理念は『お客さんを幸せにすること』、もう一つ『スタッフの夢を叶える場所にしたい』っていうのもあります」
現在、ピラティススタジオは4店舗になり、スタッフは約30名。
社内には「こういうサービスがMINORIにあったらいいよね」という声から生まれたチームがいくつもあるという。
浜辺でヨガをするチーム、アパレルのチーム、企業向けの出張ピラティスを行うチーム…
はじめは友末さん主体でいくつかチームを作ったが、その後はスタッフからの声で増えていったそう。
「私が頑張れば頑張るほど、私以外のメンバーはやることがなくなって指示待ちになってしまう。言われて行動するよりも、自分で気付いて行動した方がすごくその人の学びになる。うちは将来独立したいっていう人も多いんで、そういう人を育てるためにも、私は頑張らないように頑張ってます(笑)」
本当にやりたいことが開花する場所を

信頼できるスタッフに仕事を任せ、自分のリソースが増えてくると、次にやることを考える。
そんなサイクルができているのだという。
「『人ってなんで生きてるんだろう?』ってところまで考えるようになりました。いろいろ考えた結果、人って楽しむために生きてるよなぁとか、いいことも悪いことも、うまく行くことも行かないこともあるけど、それも含めて最後振り返った時に『すごく良い人生だったな、幸せな人生だったな』って。目の前の人に愛情を持って接して、その場が広がっていく。そういうのが人間の本質だと思ってます」
心から楽しい生活を送るために必要なのは健康。
そのためのスタジオであり、カフェであり、人とのつながりの場を作ってきた。
「次はもっと根本から自分の人生観を見つめ直せる場所を作りたいんです。『こんな生き方があるんだ』っていうものを作ったら、その場に話題があって、人が来さえすれば勝手にみんな幸せになってくれるじゃんって」
どうしたらその場所を作れるのか。
調べて辿り着いたのは『エコビレッジ』だった。
天然素材を使って1から自分の手で家を作る。
ソーラーパネルやWi-fi、床暖房もある近代的な家だ。
自分の手で1から作るため、ローンは0円。
そして、そこでの生活はほぼ自給自足。
食べ物に困らない、住む場所にも困らない。
そんな家を何軒か連ね、その場所を本当に好きな人たちが集まっていく。
「人の繋がりのある村のような感じにすると、もうそれだけで幸せで、何も頑張らなくて良いと思うんです。人って暇になったら自分の好きなことをし始めると思うんですよ。農作業が好きな人は畑仕事でもいいし、人に何かやってあげたい人は料理を作るでもいいし、体を癒す仕事でもいい。人に対して何かを施してお店になる。そんな村であり、一つのエンターテインメントとして成り立つテーマパークのようなイメージです」
本格的に場所を探し始めて3日。
「宗像市の大島にいい場所がある」と紹介された。
少し谷のような地形で海が見える。
人里から少し離れているが、町に行こうと思えば徒歩10分ほど。
それはまさに想像してたような場所だった。
「そういう場所が見つかって、じゃあそこでみんなでいろいろ考えながらやってみようっていう段階です。まだ買ってもないんですけどね、場所は(笑)」
「自分が想像もしない、もっと面白いものが入るかもしれないじゃないですか」
ここに壁があって、ここはエステにして…
そんなことは決めずに、集まった人で作られる場所にしたいと話す友末さん。
「最近繋がったアーティストさんが、倉庫のような場所をアート空間にしようかみたいな話をしてて。めっちゃ良いやんって思いました。私には芸術のセンスがないんで、そういうのが思い浮かばない。いろんな人の才能とか、能力とかが生きる場所。その人の自分らしさを表現できる場所。そんなものができたらいいなと思ってます」
特技は人の背中を押すこと。
友末さんにとっても、MINORIビレッジは自分の才能を活かす場になるのだろう。
「なにかしたいけど動けない。そういう方を見るとすごい引っ張りたくなるんですよ。『やろうよ、やろうよ!』って。もったいないじゃないですか。動けない原因が何かあって、不安だったり、周りの目だったり、自分を信じきれてなかったり。でも、MINORIビレッジに来たらお金はいらない、住むところもある、食べるものもある。好きにやってみたら?って。その人の本当にやりたいことが開花すると思うんです」
MINORIビレッジは2025年4月から開拓をスタート。
1年後の2026年4月には自給自足も始まる予定だ。
「一日何時間か手伝ってくれたら昼ご飯も出すし、寝床も自由に使っていいしみたいな感じで、みんな関わってもらいながら作っていけたらいいかなと思っています」
『願えば叶う』
あなたならそんな空間で何をするだろうか。
村づくりのお手伝いをするもよし。
MINORIビレッジで開花するもよし。
一歩踏み出すタイミングは今かもしれない。





