アーティスト・銀ソーダ  『大學湯』で、この場だからこそ創り出せるもの

※この記事はインタビューコーナー【思い出の銭湯で新たな創造を アーティスト『銀ソーダ』】の続きです。

大學湯での活動を起点として、それ以前と以後で創作活動に変化はありましたか?

「大學湯に久々に足を運んだ時に、銭湯として営業していた“当時の残像”みたいなものを感じ、アーティストとしてこれを形にしたいなと思いました。まさに自分の創作テーマの一つでもある『記憶と時間の可視化』だなと。現在大學湯はコミュニティスペースとしても活用しているのですが、ここに人がたくさん来てくれると、やはり当時の残像と重なったりするんですよ」

これまでとは異なる空間に身を置くことで、ご自身の中にも変化があったんですね。

「大學湯は古いけど、新しいというか。時を越えてアップデートされていく…そんな不思議な魅力があります。例えば、ここはタイルが印象的ですけど、このタイルも色んなものを受け止めてきたんだなと私は感じて。みんなの疲れや垢を受け止めたお湯が、タイルの上を踊るように流れていく。そんなことを考えながら大學湯に意識を向けると、自然とこの場と対話が出来て新しい創作活動につながります」

大學湯、ひいては箱崎という場に心から歩み寄ろうとされているんですね。

「私にとって帰ってくる場所があるって、頑張り甲斐につながるんです。別の地で仕事をして、この箱崎の地に戻ると『おかえり。頑張ったね』と受け入れられているような気がして。そういう心の拠り所を持っているだけで精神的に全然違うから、“また頑張ろう”と思います」

“伝統”や“繋げること”の価値についてはどのようにお考えですか?

「伝統として残っているものって、人々に愛された要素があるんだと思います。例えば大學湯は公衆浴場で、コミュニティの場だった。つまり、裸の付き合いの中で身分とか肩書きとか関係なしにみんな同じ人間であることを伝えられる空間だったと思うんです。そういった大事な部分を、私は大學湯の運営を通じて伝えていきたいなと思っています。今は便利な世の中になって人が過干渉する機会が減っていい部分ももちろんあるのですが、人に頼れなくなり自分の中で抱え込んでしまうこともあるのではないかと思います。“人の心の居場所”がどんどんなくなっていくような気がするので」

伝統というのは、モノや空間を通して人の心が連綿と繋がっているということなんですね。

「文化や伝統って人の心が詰まっているものが多いと思います。そして心の通ったものは切ろうと思っても簡単には切れない。大學湯を残す上でも“心”の部分は大事だと思っています。本当に『大學湯が素敵だ』と思っている心。そういった人たちが自然と引き合う場にしたいなと思っています。特に私は幼い頃ここに通っていたから、その心が溢れ出すというか(笑)。逆にそれだけの想いがないと、自分もここまで力を発揮できなかっただろうなと思います」

銀ソーダさんご自身はアーティストとしてますます活躍の場が拡がり、各地を飛び回ることも多いかと思いますが、大學湯の運営とアーティスト活動のバランスはどのようにとっていきたいと思っていますか。

「私が生きている限りは責任を持って大學湯を守ろうと思っていますが、だからこそ次の世代にも繋いでいきたいなと考えています。その中でサポートしてくださる方とか、一緒にここを盛り上げてくださる方がいらっしゃれば嬉しいです。ボランティアという形にはなるんですけど、企画の持ち込みなどで運営に関わってくださるのなら嬉しいですね。また、定期的にオープンハウスも開催しているので、そこでご自身の企画を実行してみるのもいいと思います。大學湯はキャンバスなので、レンタルスペースとしてや運営側でもここを使って何かやってみたいという方がいらっしゃればとてもありがたいです」

実際に銀ソーダさんの近くにいることで、感じ取れたり吸収できるものってたくさんありますよね。

これからアーティストとして活動したい人や、大學湯に何かしらの想いを持っている人、銀ソーダさんにどこか共感する人にとっては、大學湯を通して接点ができるってありがたいことだと思います。

「私自身も昔『自分がこうなりたいと思った人がいるなら、会いに行った方がいい』と人から言われたことがあって、その言葉通りに会ってみたいと思った人に会いに行くことで、繋がりがすごく拡がりました。実際に会うとその人の言葉や思考が自分にもうつるから、考え方や視野を拡げられたと思います。なので、何か感じるものがあれば是非気軽に大學湯に遊びに来てほしいです」

ライター:宮原 咲希

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所在地:福岡県福岡市東区箱崎3丁目17-24

Instagram:大學湯

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ninatte事務所

ninatte九州の運営事務局です。銭湯跡地、旧梅乃湯を拠点に活動中♨事務局ライター数名で日々記事を更新しています。

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アーティスト銀ソーダ

福岡市東区箱崎にある旧銭湯『大學湯』をアトリエ兼コミュニティレンタルスペースとして活用している。

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