人の心を動かす字は、心を動かしながら書いた字 書道家 煌彩

書道という表現の可能性

手書きとは思えないほど整った字から、言葉の意味を連想させられる自由な形の字まで。高い技術と幅広い表現力で作品を生み出すのは、書道家の煌彩(こうさい)さん。自身の作品制作はもちろん、商品ロゴやオーダーメイド作品の受注作成等をおこなっている。また、紙だけではなく靴や服といった立体物まで作品にしてしまうところが、彼女の個性の一つ。

「靴や服への絵付けも、書作品の表現も、何でも実験だと思ってやってみています」

5歳から書道を続けているが、書道家として活動を始めたのは意外にも20代の後半。会社員として働いていた彼女は、なぜ書道家に転換したのか。書道との向き合い方の変化について伺った。

“想い”と“願い”を字に

"「情熱的な愛」をイメージして書いた字と、それにあわせた額装。

煌彩さんのもとに来る書の依頼は、社訓や名刺、命名書に掛け軸など様々だ。どの依頼を受けるときもお客さんへのヒアリングには特に注力しているそう。

「『力強いイメージで書いてほしい』ってお客様がおっしゃったときも、お客様の『力強く』と私の『力強く』の方向性がずれてるときもあるので。今まで書いた字を見てもらって、具体的にすり合わせるようにしています」

なぜ注文をしようと思ったのか、依頼主の想いや状況も汲み取り、それに沿った字を書くように意識している。

「これから軌道に乗せたいという会社の社訓なら、縁起よく少し末広がりな形をイメージして書いたり。飾る場所も必ず聞くようにしていて、会社なら力強い字で、リビングなら癒しの空間に合うように優しい字で書こうかなって考えたりします」

紙の種類、筆の毛質、塗料の組み合わせも慎重に考え、構想を練る。そして書く時の自分の感情も作風に合わせ、何百枚と書き直しを重ね、一つの作品を作り上げていく。作品を囲むマットや額縁まで、トータルで作り込んでくれる点も彼女のこだわりだ。

「作品が主役なら、額装はお洋服のイメージです。額装はアーティストの仕事じゃないって人もいるんですけど、私は全部含めて1点物っていうのが楽しいかなって思っています」

なんとなくなら辞めたほうがいい?

字が持つ意味や、連想されるイメージまで筆跡で表現する煌彩さん。5歳から地元の習字教室に通い、このアーティスティックな書道に関心を持ったのは20代後半頃だった。書道に対する向き合い方が変わったのは、ある知人の言葉がきっかけになったという。

「知人に『なんで子供の時からずっと書道続けてるの?』って聞かれたときに、自分でもなんで書道を続けてるのか答えられなくて。『なんとなく習い事で続けてる』って言ったら、『なんとなくしてるなら何の価値も生み出してないから辞めた方がいいと思う』って言われたんです。それが衝撃で。辞めたほうがいいのかな…って考えたんですけど、やっぱり辞める気にはならなくて」

自分は人の字で感動したことがあっただろうか?そう気がついてから、いろいろな書道家の作品を見るようになった。その中で大きな影響を受けたのが、書家 中塚翠涛さんの作品だ。

「初めて見た時すごくワクワクして、心躍るような感覚。字でこんなに人をワクワクさせたり、元気づけたりできるんだっていうことが衝撃でした。そこから私も、自分の作品で人を元気づけたり、癒したりできるようになりたいなって思ったんです」

『口に出してみる』が最初の一歩

"「超高級感がある斬新な作品」というご依頼。黒の紙にゴールド・赤の塗料、額装には着物の帯を使用している。

目標を見つけたとは言え、会社員として働いていた当時、書道家の道に進むという決断はなかなかに勇気がいるもの。まず『書道家の仕事をしたい』ということを周りの人に言ってみることからはじめた。

「仲良くなった書道家さんに『私も書道家としてやってみたいんです』って話したら『個展をしてみたら?』ってアドバイスしてくれて。『個展をやりたい』って周りの人に言っていたら、偶然にもやらせてくれる場所と出会えたんです。他にも、書道家としてやってみたいことを口に出していたら、本当に叶うっていう出来事が続いて、それが書道の道に進む決断を後押ししてくれました」

やりたいことを口に出してみると、人から人を伝って叶うことがあるんだと実感した煌彩さん。会社を退職し、書道家として5年目を迎えた今でも、チャレンジしてみたいことは周りの人に積極的に言ってみるのだそう。

「やりたいことがあったら、まず否定せずに聞いてくれる人に言ってみる。『無理じゃない?できないよ』って言われると、何となく自分もしぼんでしまうので。『いいね。楽しそうだね』って言ってくれる人に話すことを続けていると、紹介してくれる人や協力してくれる人に、意外にも出会えるものですよ」

味わった感情を作品に込められるように

作品の制作からライブパフォーマンス、商品ロゴの制作など、書道家としての活動も多岐に渡るなか、最近ではラジオ出演や演技のオーディションといった、新しい表現方法にも挑戦している。

「表現方法は違っても、人の感情を動かすっていうことは一緒なので、いろんな表現を経験したいんです。ラジオに出演するときに得た緊張感だって作品に活かせると思います。いろんな感情をインプットするからこそ、書道でアウトプットできるんじゃないかなと思います」

見る人の感情を動かしたい、そのためには自分の感情も動かして書く。そうして1点物の書を作り上げていく。

「『この字を見て元気をもらった』とか、『やる気が湧いてくる』とか、人の感情をプラスに動かせたときに、自分もやりがいや喜びを感じます」

家や会社に飾るもの。名刺や命名書。店先の看板や提灯、商品のロゴ。書道は意外にも生活のすぐそばにある。あらゆる節目の思い出の品として、書道という選択肢を持ってみるのもいいかもしれない。

書道家 煌彩
✻煌彩さんご本人の情報発信については下記からご覧ください。
ホームページ:https://www.kosai-art.com/
Instagram: @kosai.55 

この記事の執筆者

金子華之

福岡市出身。層を一枚一枚たどるように、人や物の背景にあるストーリーを、聞いて、書くことが好き。2025年はストレートネックを治したい。

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書道家煌彩(こうさい)

福岡を拠点に活動する。書歴31年。

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