読書が苦手な人のための本屋 『books yometa!』

大人になってから読書の楽しさを知った店主の本屋
「読書の階段の最初の一段目になりたい」
社会人になるまで読書が苦手だったという経験を活かし、『あまり本を読まない人に手を伸ばしてもらえるように』というコンセプトで間借りの本屋を営むのは、ブックアテンダントの嘉村佳奈さん。
彼女の間借り本屋“books yometa!”は、その名前にも、1冊を読み切ったときの『読めた!』という嬉しさを感じてほしい…そんな想いが込められている。
本屋さんは読書好きというイメージが強いなか、読書が苦手だった彼女が本屋を開きたいと思った背景には、自身が読書をすることで得られた気づきや、社会人になって模索し続けた仕事に対する想いがあった。
心の声を無視せず働く

"2022年まで営まれていた実店舗の店内
元々は会社員として営業の仕事をなさっていた嘉村さん。当時からずっと『人を元気にしたい』という想いで仕事と向き合ってきた。しかし、入社して実務をこなすうちに、その想いと現実との間にギャップが生じてくる。
「お仕事は楽しかったんです。でも『これって本当に人を元気にできているのかな』って思うようになって」
悩み考え抜いた末、会社を辞めることを決心。辞めるときは怖い気持ちもあったが、自分の中の違和感を見過ごすのは嫌だったと当時を思い返しながら話してくれた。
退職後は、どんな仕事で人を元気にできるのか、自分が納得しながら働けるものは何なのか。そんな風に自信と向き合う日々が続いたそう。そして、悩んだときにはいつも本屋に行くようになっていたそうだ。
「そんな風に過ごしていると気づいたんです。営業の頃から、悩んだらいつも本屋さんに来てるって。本って読んだ人がどう思ったか委ねてくれる。その人の考えていることとか、幸せとか、本を読むことは自分自身を知ることができる作業だから、元気になりたいって思えるまで寄り添ってくれるのは、本なのかもしれないと思いました」
本があることで自分を知る作業をしていけることに気が付いた彼女は、自分と同じように読書が苦手だと感じている人にも読んでほしいと思うようになったという。
そして『人を元気にしたい』という想いが、『読んだ人それぞれに寄り添ってくれるような、本と出会う場所を作る』というものに落とし込まれた。
無理しない、小さな一歩を重ねる

"SNSでの本の紹介の様子
本屋という夢が見つかった後は、どうやってその夢を叶えていくのかについて考えなければならない。自分の好きなこと、嫌いなことを紙に書き出したり、それらと徹底的に向き合ったりして自問自答を繰り返した。
そして本屋を開くために、まずは書店で働きながら運営やしくみについて学び、同時にSNSで本の紹介を始めたそうだ。
「私はビビりなので(笑) 本当に少しづつ、スモールステップを重ねてきました」と笑顔で話してくれた。
「今はSNSもあるので小さく始めやすいと思うんです。小さくても好きなことだったら心が潤うし、続かなかったら楽しくなかったのかもしれない。私も間借り本屋をはじめる前は、毎日1冊本の紹介をするって決めて1年やったんです。そうして続けてたら自分のアンテナも上がってくるし、周りの人も私がやりたいことを認識してくれました。最初は一番ハードルを低くして小さく始める。そして続けることが大事だと思います」
訪れる人を想って、間借りの本屋だからこその選書

"間借りを始めた当初は手書きのポップを置いて試行錯誤していたこともあったそう
何かはじめてみたいときは、焦らず自分のペースで『小さくはじめること』がコツだと話してくれた嘉村さん。彼女がSNSで続けてきた本の紹介は、今や数百冊にもおよぶ。
「本って崇高な趣味みたいな、読み終わらなくてはいけないイメージがあったので、敷居を下げたくて。読み終わらなくてもフットワーク軽くどんどん次に行っちゃっていいと思うんです。どんな人にでも“自分に合う本”は必ずあると思います」
彼女が実際に間借りしている場所には、その場所の特性やオーナーさんの理念、そして訪れるお客さんのことを想像して選んだ本が並んでいる。
その時その空間に合わせて並ぶ本の雰囲気が変わることは、読書が苦手だった彼女がブックアテンダントとして、1冊1冊を丁寧に選書しているという大きな魅力ではないだろうか。
ライター:金子華之
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books yometa!
現在books yometa!さんが間借りしている場所や活動については、Instagramにてご確認ください。
Instagram:https://www.instagram.com/yome.ta/