「かけがえのない一瞬が、あなたの宝物になりますように」 出張カメラマン なぎたまフォト

押し入れの奥から引っ張り出したアルバム。親が撮ってくれた子供の頃の写真。
「…全然覚えてないや」
「この時は大変だったんだよ!でも、懐かしいね」
見返して、あぁこんなこともあったよねと、そんな話が出来る幸せ。
過去、現在、未来を繋ぐもの。それが写真だ。
福岡県京都郡苅田町。豊かな自然と工業地帯が並ぶこの街で、誰よりも写真が好きなんだなぁ、と思える方に会うことができた。
3児の母であり、出張カメラマンのなぎたまフォトさんだ。(以下なぎたまさん)
七五三、ウェディング、誕生日などの記念日の写真から、時には何でもない日の瞬間を切り取った"日常フォト"の依頼まで受ける。
子供の頃から写真とカメラが身近にあったなぎたまさんだが、出張カメラマンを始めたのは意外なきっかけから。
取材を通して彼女のこれまでの歩みと、写真への思いを聞いた。

趣味の一つだった写真とカメラ
幼い頃からカメラを覗く父を見てきたなぎたまさん。
その影響で高校では写真部に入部した。
父のおさがりであるフィルムカメラを愛用し、当時もひたすらに人物を撮り続けていたという。
「授業中の後輩とか撮ってましたね。なぜ怒られなかったのか不思議です(笑)」
日頃は部員で集まってお菓子を食べ、文化祭前には展示のための撮影に励む。
でも、将来、写真を仕事にするつもりは全くなかった。
高校卒業後は専門学校に行き、医療事務の仕事へ。
転職先のフィットネスジムで、通常業務の他にお客さんの写真撮影も担当していた。
これまでに、絵、ダンス、舞台、バンドなど様々な趣味に没頭してきたが、
当時のなぎたまさんにとって、写真はそのうちのひとつに過ぎなかった。
きっかけは "500円玉と6缶パック"
結婚を機に仕事を辞め、苅田の町で専業主婦に。
息子の小学校入学時、ランドセルを背負った息子の写真をSNSにアップした。 一眼レフカメラで撮ったその写真は、ママ友にも好評。
その中の1人から、「自分の子供の写真も撮って」とのお願いが。 快く了承し撮影した際、そのお礼に500円玉と6缶パックのビールを貰った。
"自分の写真に対価を貰う"という初めての体験は、なぎたまさんの心を大きく動かすことに。
「『これが仕事になったら、めちゃめちゃ楽しいな!』でも、今から始めるのもどうかなぁ~って感じで」
その思いとは裏腹に、"良い写真を撮るママ" という噂は、SNSと口コミを通して瞬く間に広まっていった。そして写真撮影のお願いの数量に比例して、自信も徐々についていく。
「初めのうちは、500円とか、ビール下さい~とか言ってたんですけど(笑)」
「チャレンジしてみようかなって」
撮影の "お願い" が、撮影 "依頼" になったのはそれから1年が経った頃。
なぎたまフォトとしての活動が本格的にスタートした。

生活が見える、"日常フォト"へのこだわり
しっかりと身なりを整え、撮影場所に出向いて撮った写真。 それらももちろん素敵だが、なぎたまさんにはさらに撮りたい写真がある。
それが、家族の日常を切り取った "日常フォト" だ。
「例えば、赤ちゃんをおんぶして掃除機をかけているママとか、床でだらだら寝転がってる子供とか。片付いた家よりも、散らかったままを撮るのが好きなんです。そういう写真の方が思い出に残ると思うんですよ」
気を抜いた素の表情。その家族の何でもない日常と生活。
そんな当たり前の日々はあっという間に過ぎていくもの。
大切な人の飾らないありのままの姿こそ、忘れたくない思い出なのかもしれない。
「それを撮り逃すのが凄く勿体ないなと思って、その一コマを撮ったりして。その人がSNSに載せてくれて、見た人も撮りたいと思ってくれるきっかけになればいいなと」
過去には『すっぴんパジャマ割』を期間限定で実施したことも。家の中での撮影の際、普段通りの姿だと撮影料が割引きされるというものだ。
自由気ままな子供たちと、暖かい眼差しを向ける大人たち。
写真の中の穏やかな日常は、見ている人まで幸せな気持ちにさせる。
「撮った1年後に『写真見て泣いたよ』とか、『やっぱりお願いしてよかった』って言ってくれるお客さんもいて。こちらこそ、撮らせてくれてありがとう~って思いますね」

母だからこそ伝えたい、写真を通して伝わる愛情
1人目のお子さんを出産後、しばらくは専業主婦だったというなぎたまさん。そのお子さんが幼稚園に入るまでの期間、2人で長い時間を過ごした。
「毎日公園に遊びに行ったり、とにかくずっと一緒に居ましたね」
「でもそれも、たぶん忘れるんですよ。思い出せない部分とか、自分の中で勝手に変えて美化したり。だから、よく子供の写真を見ながら、残しておいてよかったなぁ、大きくなったなぁって振り返ります」
忙しない日々の中、成長していく我が子の姿はその都度更新されていく。
留めておけない記憶を、見比べることが出来る。撮った写真、一枚一枚がかけがえのない思い出。
「子供の時間なんて一瞬ですからね。この間産んだのに(笑)」

自身の生まれた頃のアルバムを1冊、今の家にも連れてきたという。
その中でも印象的な写真が、なぎたまさん生後1か月のクリスマスの写真。
手作りケーキと自分を抱っこするすっぴん姿の母。撮ったのはもちろん父だ。
「産後1ヶ月しか経ってないから大変だったと思うし…、私も赤ちゃんなので、何が起こってるか分からないから喜ばないのに。なのに、こんなにちゃんと祝ってくれていて」
母とはこの写真の話はしていない。 しかし言葉にしなくても、たった1枚の写真から伝わること。
「愛されてたんだなって」
筆者の前で、涙ぐみながらその思いを伝えてくれた。
「なので数は多くなくてもいいから、親御さんには写真を撮ってほしいです」
子供と親。両方の立場で写真の素晴らしさを実感してきたなぎたまさん。
出張カメラマンになってから、その思いは一層増していく。
かけがえのない今、この時間を

「私、地震めっちゃ怖いんですよ(笑)毎日生きててよかった~って思います。それもあって、子供や友達に『大好き!』ってよく言うんですよ。お客さんや一緒に仕事をしてくれる人にも、『私を見つけてくれてありがとう!』って」
過去を振り返り、未来を見据え、今の素直な気持ちを伝える。
そして、感謝を忘れずに、今を生きる。
なぎたまフォトとして、母として。勉強と反省を繰り返し、仕事と子育てに奮闘する日々。
夜、子供を寝かせた後は毎日3時頃まで。昼も子供が昼寝をしてる間はずっと仕事をしているそう。
「でも、それも苦じゃないんです。子供が起きてる間はしっかり子供と向き合って、そうじゃない時間はお客さんの写真と向き合って」
"毎日が楽しい"
多忙な日々の中。それでも、この仕事が好きだと語るなぎたまさん。
「今は、この日常を続けられたら幸せだなぁと思いますね」
明るく話す彼女には、目指している "自身がなりたい" 姿がある。
「 "その人の魅力をどれだけ引き出せるか" ってカメラマン次第なので。歳をとった先で、酸いも甘いも知ったお婆ちゃんがそれを出来たらめちゃくちゃカッコイイなと(笑)」
「人生経験を付加価値として、その人の魅力を引き出せるような…、そんなお婆ちゃんカメラマンになりたいんです」

人間は忘れる生き物だ。
どんなに楽しい思い出も、嬉しい出来事も、時間と共に滲んで輪郭がぼやけていく。
当たり前だと思っていることなら尚更だ。
何でもない日の何気ない瞬間を、写真に切り取り、残していく。
その中にこそ、かけがえのない幸せがあるのかもしれない。
数年後、あるいは数十年後に見返した時、その光景だけでなく、匂いや音、そして何よりも温もりを思い出させてくれるだろう。
この幸せをいつかの時間まで連れていこうと思った時、未来の自分自身に、そして大切な人へのプレゼントとして、カメラマンに撮影を頼んでみるのもいいかもしれない。
あなたが普段見過ごしている日常の美しい光景や、家族の表情を逃さず、素晴らしい感性で捉えてくれるはず。
出張カメラマン なぎたまフォト
Instagram:https://www.instagram.com/nagitamaphoto/
この記事の執筆者

晴れ太
好きなものは水色、青、空、海、パピコ、ヨルシカ。
短い文章を書いたり、読んだり。
たまにギター(上手くない)。1人のときは常にイヤホンをつけて音楽を流しています。
最近はココアシガレットの空箱を職場に溜め込むのがマイブーム。