陶器で日常にちょっとした”ワクワク”を添える『YUMETOURAKU』

気軽に始めたことが、後に「手に職」となった

遠賀川に続く福岡県中間市の県道。車を走らせていると、パッと目に飛び込んでくるのが『YUMETOURAKU』だ。

アトリエをオープンして18年になる陶芸家の森部善恵さんが、どんなきっかで陶芸を始めたのかが気になり、さっそく話を聞いてみた。

「元々私は、OLだったんです。『何か習い事をしたいな』と思ったときに近所で夜間の陶芸教室をやってて、気軽な気持ちで通ってみたのが始まりです」。

そしてあっという間に、陶芸のおもしろさにハマっていったという。

「あまりにも私が熱心に陶芸をするものだから、あるとき『上野焼の窯元さんがアルバイトを募集しているから行ってみないか』と声をかけられたんです。そして本業が休みの週末だけアルバイトに行くことに。その最中にも、陶磁器フェスタなどに行っていろいろな作品を見ながら勉強していたのですが、その時に見つけた新たな陶芸教室との出会いが自身の急成長のきっかけになったんです。その窯元の先生が陶芸に関する様々なこと、すべてを教えてくれたことで私も幅広くいろいろなことができるようになって。それからしばらくして、OLを辞めました」。

一つのことを突き詰める行動力と精神力には、尊敬の念を覚える。

「OLを辞めてからは、勉強させてくれた窯元さんにお願いしてアルバイトをしたり、同じ陶芸教室だった生徒さんが持っている工房で作品を作ったりと、とにかく動き回っていましたね。そうして徐々に委託先や展示会への出品、Webショップでの販売など、積極的に活動の幅を拡げていって。そしてついに自分の工房を持つことになります」。

周りの後押しがあっての”今”

話を伺っていると、順風満帆な陶芸人生を歩んでいるように感じる森部さんだが、これまでどんな苦労があったのだろうか。

「陶芸家はたくさんいるし波が激しい世界なので、長い期間作品を作り続けるのは難しいんですよ。また新型コロナウイルスなど、自分ではどうすることもできない事情に振り回されますしね。ただ、そういった予期せぬ事態にも対応していくために、知恵をしぼって新たな販路や認知拡大を見つけていくことが大切ですよね」。

森部さんには、逆境にも対応できる柔軟性があるようだ。

「ただ、私は周りに恵まれていると思います。私よりも周りの家族や友人たちが一生懸命応援してくれて、背中を押してくれたからここまで来れました。両親は最初、『陶芸家なんてやめとけ』と言って大反対していましたが、やはりいざというときは助けてくれるし、支えてくれましたね。今は心配しながらも応援してくれています」。

これは周りが応援したくなるほど、森部さんが熱心に陶芸の道を突き進んだ結果だろう。

あっという間に過ぎた18年


18年という歳月は、一般的には非常に長いはず。

ところが森部さんにとってはあっという間だったそう。そのワケは?

「自分の工房を持ってからというもの、毎日というか1年があっという間ですね。というのも、通常販売する作品以外にも犬や猫のフードボウルやひな祭り、干支の置物などを受注販売しているからです。それらの作品作りに日々追われています(笑)」

これも、森部さんの作品のオリジナリティと丁寧な作りがあってこその忙しさなのだろう。

「この18年間、本当に駆け抜けた感じがします。毎日慌ただしく作品を作っていますが、これからも変わらず作り続けていきたいですね」。

やりがいを感じるのはやはり「お客様の声」

森部さんがやりがいを感じるのはどんなときだろうか。

「現在は主にWebショップで販売していますが、たまに対面販売したときにお客様から『ずっと前から使ってます』とか『たくさん持ってます』って言われたときですね。また、ワンコのフードボウルをお客様の好みの仕様で作ったことがあって、『すごく良かったです』とわざわざ言いに来てくれたときも本当にうれしかったですね」。

やはりお客様はリピーターさんが多く、精力的にSNSで発信したりWebショップで販売したりした結果、今ではInstagramのフォロワーが9000人を超えたとのこと。

「求めてくれている人たちがいるんだなぁと実感します。そのおかげでモチベーションが上がり、『また新しいものを作ろう』と思えますね」。

顧客の心を惹きつける魅力が、森部さんにはある。

これからは”自分らしさ”を追求した作品作りをしたい

「ものづくりが難しいと感じるのは、自分が作りたいものとお客さんが求めているものにギャップがあるところです」。

とはいえ、お客さんが求めている作品をピンポイントで作り続けるからこそファンも多いのだろう。

「今は、ドットやチェックの模様、レース柄などわりとかわいらしい作品が多いです。今後はもっと自分らしく、”かっこいい”ものを作っていきたいですね。あと、最近お花や観葉植物にハマっていて、それに合う花器や鉢などを自分で作りたいと思っています。自分が思った通りのデザインやサイズ感の作品に、お花や観葉植物を生けるのが楽しみですね」。

現在は多忙のためなかなか時間が取れないそうだが、森部さんはご自身の”世界観”を表現することにこだわり続けている。

いつか再開したい陶芸教室

森部さんには「陶芸教室を開いてほしい」「陶芸を教えてほしい」という多くの声が届いているが、現在は検討中なのだそう。

「今は新規の生徒さんの受け付けは中止しているのですが、実はこれまでたくさん陶芸教室を開催してきたんです。なので、数多の生徒さんを見てきました。それぞれが思い思いに作品作りに取り組む中で、キラリと光る才能を感じる生徒さんもいましたよ」。

才能がある生徒さんはいるものの、話を聞いているとほとんどの人たちが道半ばで諦めざるを得ない厳しい世界だということがわかる。

「私たちが簡単に作っているから、みなさんにも簡単に映るようです(笑)でも、陶芸ってすごく繊細で作るのが難しいんですよ」。

確かに、轆轤(ろくろ)を回すと簡単に陶器の形が出来上がると思う人はいるかもしれない。

「粘土は、ちょっとした指使いや手の力加減で形が変わります。丁寧に扱わないと、全然思い通りになりません。陶器の作り方の手順はあるものの、感覚というか言葉では言い表せないセンスが必要だと感じていますし、私はそういった感性をすごく大事にしています。そして、几帳面な性格が陶芸には必須ですね」。

聞けば聞くほど「匠の世界」を感じる。

「もちろん、ご自身の思うように作って楽しんでもらう分には構いません。陶芸の楽しさを知ってもらうのは私にとってもうれしいことですから。でも、作るからにはやっぱり極めたいと思う人も多いんですね。そうなった場合は、マニュアルに沿った作り方だけではなく、しっかりコツと感覚を掴むことが重要です。私も教えるとなると本気ですから、生徒さんにも本気で取り組んで伸び代を活かしてほしいですね」。

実際、どういう人と一緒に作品を作っていきたいのだろうか。

「陶芸に挑戦する人たちの中から、同じベクトルで制作活動ができる人を探し続けている状況です。たとえば試行錯誤を繰り返しながら前向きに制作に取り組んだり、楽しみながら技術を深めたりできる人が私に合うのではないかと思います」。

いつか現れるかもしれない「森部さんが一目置く生徒」を想像しながら、今後の陶芸教室の再開を待つことにしよう。

『YUMETOURAKU』
所在地:福岡県中間市中央1丁目32-8
ホームページ:https://www.yumetouraku.com/
Instagram:https://www.instagram.com/yumetouraku/?hl=ja

この記事の執筆者

ninatte事務所

ninatte九州の運営事務局です。銭湯跡地、旧梅乃湯を拠点に活動中♨事務局ライター数名で日々記事を更新しています。

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手づくりの雑貨屋さんYUMETOURAKU

オリジナルの陶器を制作・販売している。
所在地:福岡県中間市中央1丁目32-8
ホームページ:https://www.yumetouraku.com/

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