
ninatte九州ライターのすずかんです。
突然ですが、みなさんは普段、着物を着る機会ってありますか?
「可愛いな」「着てみたいな」と思っても、なんだか敷居が高そうだし、着付けも難しそう……と、つい諦めてしまいがちかもしれません。
でも、そんな“着物への片思い”を、気軽に素敵に叶えてくれる場所があるんです。
福岡市東区箱崎。
日本三大八幡宮の一つである筥崎宮を中心に、歴史ある風情とレトロな下町情緒が心地よく調和する、歩くほどに味わい深い歴史と文化の街です。
今回私が訪れたのは、この箱崎で着物の古着販売やレンタルサービスを営む『ゆずの木』。
オーナーの今林よしえさんが一人で切り盛りするその空間には、色鮮やかな着物や浴衣たちが美しく並んでいます。
今回私は、ここで開催されたマルシェと「着物モデル&イベントサポート」のボランティア、いわゆる“こころみ手”として体験参加しました。
▼こころみ手についてはこちら
“好き”をそのまま着物に溶け込ませる場所
初めてお会いしたよしえさんは、とても気さくで話しやすい方でした。
実はアニメや漫画がお好きだそうで、私自身も同じ趣味があることから、すぐに打ち解けることができました。初対面とは思えないほど自然に会話が弾み、温かく迎えてくださったのが印象的です。
よしえさんが提案してくれるのは、ただ着物を着るだけではありません。
洋服MIXコーデや、推しキャラをイメージした“推しキャラコーデ”など、自分の「好き」をそのまま着物に溶け込ませながら楽しむ方法を教えてくれます。
「着物=特別な日に着るもの」ではなく、もっと自由に、自分らしく楽しめるもの。
そんな新しい着物との向き合い方を感じました。
「創る」のではなく「編集する」着物の新しい楽しみ方
伝統文化の継承と聞くと、「職人がゼロから着物を織る・染める」といった、どこか敷居の高い世界を想像しがちです。
しかし、よしえさんのアプローチは少し違います。
すでに存在している美しい着物を、現代の感性で選び、組み合わせ、その人らしく着こなす。
その魅力は、着物を現代に合わせて“編集する力”にあるように感じました。
体験に参加した私が、店内に並ぶ豊富な着物を前に迷っていたとき、よしえさんは私の好みや雰囲気を丁寧にすくい上げ、一着の浴衣を提案してくれました。
それは、少し青みがかった絶妙なライトグリーン。実は私、普段の洋服でもグリーンを選ぶことがほとんどありません。「似合わないかも……」と最初は少しドキドキしました。
ところが、よしえさんの手によって着付けが完成し、鏡の前に立ってみると、「えっ、私、グリーン似合うかも」と大感動。
肌の色がパッと明るく見えて、今までにない新しい自分に出会えたような気がしました。
敷居が高いと思っていた着物を、こんなに身近に、そしてその人の魅力を引き出す形でコーディネートしてくれるよしえさん。
そのセンスとお人柄に、一瞬でファンになってしまいました。


想像以上に必要とされている“着物モデル”という存在
お話を聞く中で特に印象に残ったのは、想像以上によしえさんが着物モデルを必要としていることでした。
SNSで着物の魅力を発信するためには、実際に着物を着てくれるモデルの存在が欠かせません。
顔出しOKで協力してくれる方が増えることで、もっと多くの着物の種類やコーディネートを紹介できるそうです。
一人ひとり体型も雰囲気も違うからこそ、「この着物、自分にも似合うかも」と見る人がイメージしやすくなります。
着物文化を広げるうえで、“着る人”の存在が大切な入口になっていることを知りました。
実際に体験してわかった、着物ならではの美しさ
実際に着物モデルを体験してみると、普段なかなか着物を着る機会がない私にとって、とても新鮮な経験でした。
特に印象的だったのは、洋服とはまったく違うポージングが必要なことです。
着物には、着物に映える美しい見せ方があります。
よしえさんに教えていただいたのは、「小鳥がとまっているように指先を添え、その指先を見つめるポーズ」。
それだけで自然と身体に美しい曲線が生まれ、着物の魅力がぐっと引き立ちました。
たったひとつポーズを知るだけでも、見え方が大きく変わることに驚きました。

工芸と現代アートが交差するマルシェ
この日、ゆずの木で開催されていたマルシェには、3人の個性豊かなハンドメイドアクセサリー作家さんが集まっていました。
着物に洋風アクセサリーや現代的な小物を合わせることで、コーディネートの印象は大きく変わります。
かんざしを挿したり、耳元に作品を添えたりするたびに、着物の表情がガラリと変わるのがとても面白く、まるで何人もの自分に出会っているような感覚でした。
ゴシックな重厚感のあるアクセサリー、繊細なワイヤーアート、光を受けて表情を変えるガラスアクセサリー。
それぞれの作品が、着物の新しい魅力を引き出していました。
「和」と「洋」、「伝統」と「現代」は、決して遠いものではありません。
組み合わせ方ひとつで、着物はもっと自由で、もっと自分らしい表現になるのだと感じました。

① CROSS×RED(クロスレッド) ―― 艶やかな和に溶け込む、ゴシックな重厚感
一目見た瞬間に、その独自のフェティシズムに心を掴まれる世界観。
「武器かんざし」や「付け爪の指輪」など、コミックマーケットでもコスプレイヤーから絶大な支持を得る独創的なデザインが特徴です


一見、クラシックな着物とは対極にあるようなゴシックで重厚なアクセサリーですが、ゆずの木の着物と組み合わさった瞬間、物語の主人公のような妖艶な雰囲気を生む。身につけるだけで、内にある新たな世界観を再発見できるような作品でした。
② 東雲 (しののめ) ―― 空間を切り取る、息をのむワイヤーアート
ワイヤーアート作家・東雲さんが紡ぎ出す作品は、職人技とも言える緻密さと繊細さを極めています。

特に印象的だったのが、今にも羽ばたきそうな「蝶」をモチーフにしたイヤーカフ。
耳元につけた瞬間、それまで静かだった着物のコーディネートに、華やかな立体感と圧倒的な存在感が宿りました。周囲から「可愛い!」と次々に声が上がったその瞬間は、繊細な針金一本が、人の感情を激しく揺さぶるアートピースになることの証明でした。
③ 硝子ちょこちょこ ―― 窯から生まれた、光を放つ小さな宝石
釜で一枚一枚、丁寧に焼き上げられたガラスアクセサリーは、すべてが計算不可能な一点もの。光が透過するたびに、深みのある色彩がきらきらと輝き、見る角度によって全く異なる表情を見せます。


帯留めや髪飾りにこのガラスの透明感が加わることで、伝統的な着物が、一気に現代的で洗練された「私だけのオリジナル」へと変化する。思わず何度も光にかざしたくなるような、愛おしい輝きがそこにありました。


たった一人の情熱が、世界と地域を繋ぐインフラ(関係人口)になる
今林よしえさんが『ゆずの木』を通じて行っている取り組みは、単なる古着の物販や、身内のマルシェの枠を超えているように感じます。
それは、「伝統文化を用いた、地域間接人口(関係人口)の創出と、世界への文化発信」という、極めて社会的意義の大きい取り組み。
現在、福岡を訪れる観光客が増加する中で、求められているのは「見るだけの観光」ではなく、「日本の文化に自ら参加し、体験する」というリアルな手触りです。
今林さんは、着物の美しさをただ提示するだけでなく、現代のクリエイターたちの斬新なアクセサリーと融合させることで、「着物は、現代の自己表現としても、これほどクールで自由なんだ」という強烈なメッセージを発信しています。
制作の技術を後世に残すことだけが承継ではありません。
ゆずの木のように、「楽しみ方、着こなしの可能性」を限界まで拡げ、新たなファン層を開拓していくこともまた、文化の流れを絶やさないための、最も重要な持続可能性(サステナビリティ)なのかもしれません。

地域の交流が生まれる、あたたかなマルシェ空間
この日は、買い物だけではなく、人と人との交流の場としても大切にされていることが伝わってきました。
過去に参加された方々が再び訪れ、顔見知り同士で和気あいあいと過ごしている姿が印象的でした。
まるで地域の憩いの場のような、あたたかな空気感。
私自身も、来場された方々とお話ししたり、接客のお手伝いをしたりしながら、主催者として一人で動き続けるよしえさんをサポートしました。
『ゆずの木』は基本的によしえさんお一人で運営されているため、イベント時に接客やサポートとして関わるだけでも、とても助かるそうです。
着る人・伝える人・支える人、それぞれの関わり方
今回の体験を通して感じたのは、着物は特別な日に着るものというだけではなく、自分の好きなものと掛け合わせながら自由に楽しめる文化だということです。
そして、その魅力を次の世代へ伝えていくためには、「着る人」「伝える人」「支える人」、それぞれの関わり方があることを知りました。
着物の楽しみ方や着こなしの可能性を広げ、新たなファン層に届けていくこともまた、文化を未来へつなぐ大切な取り組みなのだと思います。
たった一人の挑戦に、あなたの「手」を貸してほしい
『ゆずの木』の活動は、今林よしえさんという一人の女性の情熱と行動によって支えられています。
仕入れ、着付け、コーディネート、イベントの企画、撮影、ポージングの指導、接客。
そのすべてを一人で担うには、どうしても手が足りない場面があります。
だからこそ、ninatte九州では、今林さんの想いに共感し、その活動を支える仲間として「こころみ手」の参加を呼びかけています。
特別な着物の知識や技術がなくても大丈夫です。
「着物に興味がある」
「ゆずの木さんの空間が好き」
「作家さんの作品に触れてみたい」
「地域のイベントに関わってみたい」
そんな小さな興味からでも、十分に参加できます。
明るい笑顔と気さくな雰囲気が魅力のオーナー・今林よしえさん。
なぜ一人で着物屋を営みながら、ここまで積極的に着物文化を広げようとしているのか。
その想いや原点については、ninatte九州の取材記事をご覧ください。
次回のマルシェは、7月26日・27日に開催予定です。
まずはのぞき見からでも大丈夫。
ゆずの木という温かい場所で、着物と現代のクリエイティブな感性が交わる時間を、ぜひ体験してみてください。
その一歩が、新しい自己表現の発見や、地域文化を支えるきっかけにつながるかもしれません。
「気になる」を仕事の入口に。こころみ手で広がる新しい体験
今回「こころみ手」に参加して感じたのは、仕事というよりも、その世界に気軽に触れられる“入口”としてとても魅力的だということです。
私自身、1日ボランティアは初めての経験で、最初は派遣の仕事のようなイメージを持っていました。でも実際は、あくまでボランティアだからこそ気負わずに現場の空気を感じながら参加できるのが大きな魅力でした。

仕事として入ると覚えることや責任もありますが、「こころみ手」は興味があるという気持ちだけで、その業界のリアルに触れられる貴重な機会です。未経験でも、気になる仕事や文化があれば、まず一歩踏み出してみるきっかけになると感じました。
今回体験した着物モデルも、着物への興味だけでなく、表現する楽しさや日本文化の魅力を改めて知ることができる特別な時間でした。少しでも興味があるなら、ぜひ気軽に飛び込んでみてほしいです。


