任されるほど、見える景色が広がる。「オガタストーン」石材彫刻職人 高倉 英治

頭の中で描いたものが、目の前で形になっていく瞬間がある。
紙の上のスケッチが、実際に手で触れられるものに変わり、そこに長く在り続ける。
ものづくりが好きな人なら、誰もが知っているあの感覚。

「石って、長いですよね。1回作ったら、本当に」。

そう話すのは、福岡県八女市で「石」と名のつくものすべてを手がける「オガタストーン」の高倉さん。

デザインの仕事に憧れて入り、時間をかけて技術を身につけ、今では管理も営業も任されている。変わらずに大切にしてきたのは、自分の描いたものが、確かな形になって残っていく、その手応え。そして、変化する会社を現場の最前線であたたかく支え続けてきた30年近くに及ぶ職人としての歩みだった。

デザインが形になる、ものづくりの世界へ

高倉さんは会社の歴史を誰よりも知る古株。会社がまだ久留米市にあった、先代(現社長の父親)の頃から、オガタストーンで働き続けている。

「入社してわりと早い時期に小学校のモニュメントのデザインを作ったんです。自分のデザインが採用され、実際に制作し、学校に納めました。それから、もう30年近い年月が経っているんですが、今でもよく覚えていますね」。

自分が思い描いたものが手に触れられる形になっていくワクワク感。そして、変わらずそこに有り続けているという事実。

「特にメモリアル的な記念碑とか。お墓とか、一つそこに設置すると、我々が生きている間はずっと残り続けるんです。それが日本各地の色んなところに」。

自分の仕事を笑顔で遠くを見るように話す高倉さんからはものづくりの面白さと、長い時間そこに残り続けることへの責任感が滲む。

先代の時代は石工事がメインだった。
2代目の緒方康幸さんが社長に就任してからはレンガやタイル、海外からの原石仕入れなど、扱う素材のバリエーションも、会社としての挑戦も大きく広がったという。

「広がったことで覚えなきゃいけないことや、未経験の素材への対応など大変なことはいっぱいあるんです。だけど、その分デザインの幅も確実に広がってきました。新しいものを知ることを今は楽しんでいますね」。

そう話す高倉さんの目は、ベテランでありながら、まるで少年のように生き生きとしていた。

毎日違うものをつくる面白さと天然石の難しさ

オガタストーンの仕事は、大きく2種類に分かれる。

ひとつは、カタログに載っている自社商品を作り続ける仕事。
もうひとつは、建築工事のプロジェクトごとに、まったく違うものを作り出すオーダーメードの仕事だ。高倉さんが携わっているのは、主に後者。

「プロジェクトごとに作るものが違うので、今日作っているものと、明日作っているものが、全然違うんです」。

同じ作業の連続ではない難しさと面白さ。
それぞれのプロジェクトで異なる素材や条件に向き合うからこそ、確実に技術を磨き、知見を蓄積していく。一つの経験が、次の提案につながる。お客様に示せる選択肢がどんどん増えていくのだ。

「打ち合わせする中で、『この石どうですか』って自分からどんどん提案していって、それを採用してもらえたら嬉しいですね。いろんな種類があるから、使ったことない石もやっぱりあるんですよね。色んな種類のサンプルを出して、『これで行きましょう』と採用してもらった時は最高です」。

ラフスケッチを描き、それが実際の建物や商品として形になっていく。
デザインの川上から携われるからこその手応えが、この仕事にはある。
だが、そのクリエイティブな喜びの裏側には、天然素材を扱うがゆえの独特の難しさと、かつての「厳しい時代」の記憶があった。

大変だった過去。「心が折れそうな瞬間」を超えて

「先代の時代は、『作業が終わるまで帰ってくるな』と言われるようなこともありましたね」。

高倉さんは、かつての厳しい現場を苦笑混じりに振り返る。

当時は肉体的にも精神的にもハードで、「職人は背中を見て盗め」という空気が色濃く残っていた。技術を身につけるまでには、長い時間と経験が必要だからだ。

なかでも難しいのが、天然石を扱う仕事だ。石は一つひとつ表情が違う。
そして加工する前から内部にヒビが入っていないかをすべてを見通すことはできない。

「実際に作業を行ってみないとわからない時もあるので、石を扱う難しさは常にあります磨いてみて初めて気づく模様や、掘り進めてから見つかる下ヒビに気づくこともあるんです」。

プロジェクトによっては10トンを超える石材や、長尺の大理石を扱うこともあり、『筋が入っていると、そこから割れる可能性もある』ため、施工の瞬間はいつも強烈な緊張が伴う。

さらに、工事には当然、納期がある。
「間に合わないかもしれないと感じる瞬間や心が折れそうになる時が今でもあります」と高倉さんは率直に話してくれた。

「それでも続けてこられたのは、納品したときに返ってくる『わー、良かった!』というお客様の言葉があったからですね。丁寧な打ち合わせをして、丁寧に造り上げていったものは、納めたらみんなやっぱりそういう声をもらえるんです」。

お客様の要望をできるだけ丁寧に汲み取り、それを形にする。天然石だからこそ、慎重に、けれど確かに応える 。その積み重ねが、感謝の言葉として返ってくることが高倉さんの喜びに繋がっている。

一人では作れない、みんなを調和させるやさしい眼差し

近年のオガタストーンは、「石と名のつくものすべて」を掲げ、五つ星ホテルの大理石
工事からモダンなインテリア、果てはアート作品の創出まで、多様化し、シェアを拡大し続けている。
事業が進化し、やることが増えれば増えるほど、当然現場には「覚えることの多さ、仕事のきつさ、新しいことへ挑む大変さ」が生まれる。

石材加工は未経験で入ってくるスタッフがほとんどだ。

未経験から始めて、どんな仕事にも対応できると思えるまでには、人によって差はあるものの、それなりの時間がかかる。
長く現場を知る高倉さんの存在は、新しく入ってくるスタッフにとって、心強い支えになっているように感じた。

そしてもうひとつ、この会社の働き方を象徴しているのが、「一人で作ることはほぼない」ということ。

高倉さんが描いたラフスケッチや提案は、もちろんそれだけで完成品になるわけではない。素材の目や割れやすさを見極めながら、実際に石を切り、磨き、仕上げていくのは、また別のスタッフの仕事。デザインする人と、手を動かす人。それぞれの役割を持つスタッフがお互いに敬意をもって力を合わせて初めて、ひとつのものが形になっていく。

石を加工する職人だけでなく、事務スタッフもまた、オガタストーンを支える大切なメンバーだ。現在、事務スタッフのうち4名はいずれも女性である。

「女性スタッフが増えたことで言葉づかいや雰囲気は確実に柔らかくなり、支え合いながら働く空気が育ってきましたね」。

長く現場を見てきた高倉さんは、会社の変化をそう実感している。

これからも見える世界、提案できることは広がっていく

石という、他にはない素材を扱いながら、「唯一無二」のものをひとりではなく会社全体で作り上げる仕事。

高倉さんの歩みからは、自分にできることの幅を広げるほどに、見える世界も広がっていく、そんな楽しさが伝わってくる。

先代の時代から、素材も仕事の幅も大きく変わってきたオガタストーン。それでも変わらないのは、ひとつのものが形になったときの手応えと、届いた「良かった」という言葉の重み。

デザインを志して入った高倉さんは、技術を身につけ管理や営業も担うようになった。任される役割が広がるたびに、扱う素材も、関わる人も、提案できることも少しずつ広がってきた。

「しんどいこともあるけれど、やっぱり石は面白いですよ」。

長く働き続けてきたからこそ見えてきた景色が、この会社にはある。



株式会社オガタストーンは現在、
未来を一緒につくる仲間を募集しています。


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【正社員求人】「他と違ったことをやりたいなら、石がいい」クリエイティブを共に広げる仲間募集。オガタストーンNew!!

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佐賀県在住ライター。人がどんな道を歩み、何を大切にして今の仕事やものづくりに向き合っているのかを聞くのが好きです。
取材では、創り手さんの言葉だけでなく、その背景にある時間や想いも受け取り、読んだ方の心に小さな共感が残る文章を届けたいと思っています。

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福岡県八女市で、「石」と名のつくものすべてを手がけるオガタストーン。高倉さんは、デザインの仕事に憧れてこの世界に入った。

職人として腕を磨き、今では管理や営業も任されている。責任は増えても、石をデザインする楽しさは変わらない。

デザインの話になると、ふいに表情がやわらぎ、声が弾む。石と向き合う喜びが、その横顔からにじんでいた。

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